幕間 ウィンタリア聖王国

ウィンタリア聖王国宰相

 ウィンタリア聖王国の王都ウィンタリア。その中央にそびえるウィンタリア城は、白一色で統一されている美しい城としてその名を馳せている。


 だが、それは白が美しいだけという訳ではない。その内部の装飾も、白を基調としているものの、赤色、青色、黄色、紫色といった色が使われており、その色の使い方で、その場所を現していた。


 国王がいる紫の間。部屋や廊下の壁には、白地に紫の二本の線がシンプルに描かれている。だが、それをうめるように、紫の旗、紫の絨毯といったものが豪華に飾られていた。謁見に使われる玉座の間をはじめとして、王族が暮らす場所もこの紫の間と同じようにされていた。


 玉座から見てその右隣にある黄色の間には、宮廷魔術師たちがつめている。普段はここで魔法関係の仕事をしており、諜報活動も彼らが集約していた。


 そして、紫の間の左側が宰相のいる青の間となっており、内政をそこで処理している。残っている赤の間は紫の間の前方に位置している。そして、聖騎士団がそこに詰めていた。謁見の間に続く廊下には衛士が守っているものの、その廊下にある聖騎士団の詰所には、昼夜を問わず聖騎士が警戒を怠らないようにしていた。


 紫の間を囲むように配置されたそれぞれの場所。そこにはその役目と共に中心となる人物の部屋があった。


 黄色の間には、宮廷魔術師長のマルティニコラス老師が。

 青の間には、宰相のブラウニー・トリスティエ卿が。

 赤の間には、聖騎士団副団長のカール・シュバイツがその任についている。


 この中で、青の間にいる宰相だけが固有の武力をもたない存在として長らく聖王国の歴史に記されていたが、この十年でそれは全く新しいものになっていた。


 現在の宰相、ブラウニー・トリスティエ卿によって。


 聖王国の国教であるタリア教。その聖大司教から、彼が国政に身を投じるようになったのは二十年前の事だった。だが、当時の宰相は何の権限も持たない存在。権威だけは保障されているものの、実質は大貴族の思惑や、聖騎士団や宮廷魔術師の思惑を排除できるだけの力がなかった。


 ただ、ブラウニー・トリスティエ卿は理想に燃える人物だった。しかも、自らの信じる正義に遵奉する人物でもある。


 まず、彼は貴族社会に入っていった。何の爵位も持たない彼だが、一応の権威はある。だから、貴族たちも彼の要望を簡単には無視できない。しかも、貴族間の派閥をうまく渡った彼は、いつの間にか貴族たちの中で無視できない存在となっていった。


 その裏で、暗殺ギルドの暗躍があったという説もあった。


 実質、彼が貴族の派閥闘争を利用しているのではないかと噂されるほど、この時期に大貴族たちの代替わりが立て続けに起きている。親から子供、兄から弟と言った具合に。

 しかも、爵位の継承や陞爵しょうしゃくに関しては、宰相が執り行う事となっており、特に継承の際には国王に届けるのは宰相の責務となっていた。


 つまり、宰相が国王に代わってこれを取り扱うのがこの国の習わしだった。


 彼はこの権利を最大限に利用したと言われている。


 事実、聖大主教ブラウニー・トリスティエ卿が宰相になった時の貴族たちは皆代替わりをしている。この二十年で、それはこの国始まって以来の出来事だろう。その事は、宰相に抗う事の出来る貴族はほとんどいなくなったことを意味する。


 ごく一部の貴族を除いては――。


 そして今、その宰相の元に一人の貴族が訪れていた。

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