反撃

 意識を拡大すれば、俺には手に取るようにそれがわかる。生物が生きることを示す力。魔力で動いているものが示す波動。音の調べ、光の波。そういったものを感覚としてとらえている。


 剣だから――。

 しかも、それらすべてが、この世界で一つの流れを生み出している。


 聖剣この俺が所有者に見せる俯瞰的光景というのは、単純に空から見下ろすというものだけではない。それらの流れを読んで、その行きつく先を見定めることを意味している。しかもその流れを辿れば、罠など人の手を加えた存在を感知することも可能だった。もっとも、あまりに古いものはさすがに無理だが……。


 しかし、今はその心配はない。この場にいるのは魔術師達。しかも設置している罠は真新しい。


 ――ルル。

「うん、見えたよ」


 俺がそれを認めた瞬間。間髪入れず、ルルがその感覚を得たことを告げてきた。


 ルルが今見ている光景は、リラを中心とした円状に広がっている多数の設置されている罠の光景。あらかじめこの場所で襲撃することを想定し、木々が邪魔しないところに設置されているその連射する弩弓クロスボウ。それが、魔法の力によって自動的に矢を補充して撃ち続けている。最初の二本の矢はともかくとして、その後の矢が人数の割に多かった理由が、これでルルにもわかっただろう。


 四人だと感じた気配は、それはそれで間違いない。だが、姿を現した女魔術師以外は、完全にその実力は劣っていた。

 魔力の流れ方が全く違う。いや、女魔術師が特別なのかもしれない。少なくとも、普段冒険者ギルドで出会う魔術師よりも格段実力は上だろう。


「アスティ。しばらくお願いするよ」

「――!? ルル!?」


 自分が守っていた方に放たれた矢を叩き落とし、次に発射される連射する弩弓クロスボウの矢を装填する魔力の気配を辿っていく。


 それは常人なら無理な動きの連続に違いない。発射の瞬間を狙った離れ業を繰り返すルル。


 発射口付近で叩き落とす事で、その力を連射する弩弓クロスボウ本体に伝えて自滅させる。次から次に、それを繰り返してその破壊を起こしていく。


 その滑らかな動きは、まさに風のように木々の間を駆け抜ける。


 その後に続くのは人の悲鳴。抜き去りつつ攻撃を加えるその動きは、魔術師に捕らえられるものではない。もし、出来るとすればそれはかなりの実力者だろう。


 「素敵です! ルル!」

 自らも矢を叩き落すアスティ。それを片手間にやっていると思う程、アスティはルルの方を見ていた。彼女があげる黄色い声が、ルルの動きを追いかける。でも、しっかり矢は全て叩き落していた。


 だが、しばらくすると、それはまた別の声で塗り替えられる。姿を消して必死に逃げる女魔術師が、捕まった時にあげた短い悲鳴によって。


「さあ、お遊びはもう終わりだよ。そろそろ、案内してもらおうかな? あなたに命令した人の所に」

 

 さらなる黄色い声が響く中、後ろ手で地面に組み伏せられ、その口元に聖剣この俺を押し当てられた女魔術師。その恐怖に染まった瞳には、冷たく見下ろすルルの顔が映っていた。



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