森の襲撃者

 ここは森のほぼ中央付近。いかに鬱葱うっそうとした森といえども、ルル達がいるこの道だけは別だった。それは当然の事だろう。


 この道は、森をちょうど二つに分けるようにほぼ真ん中をはしっている。しかも、その道幅は二頭立ての馬車が楽に通れるほど、幅広く作られていた。だから、その道に月の明かりを遮ってしまうまで、木々が生い茂ることはない。


 だが、そういった道であっても、例外となる場所はあった。


 そこだけ闇が濃くなる場所が、確かにこの道の所々に存在する。突き出た大岩、古木の群生。そもそも、この森は丘の中腹にあたる場所。場所によっては、起伏も激しくなっている。

 そして、そういう場所には何かがある。そんな予想を裏切らない出来事が起きていた。


 そこに来た瞬間。ルル達は、いきなり殺気を感じていた。


 殺気を放つ敵の数は全部で四つ。姿を全く見せていないので、ルル達には正確な数は見えていない。だが、ルル達もおおよそその位と判断しているに違いない。


 『囲まれている』、『囲まれた』、おそらく『囲まれた』と思っている。


 それぞれ、その感覚は違うけど、その事は全員すでに分かっている。だから、自ずとそれに対応するように行動していた。


 一歩前に出るリラ。その動きに合わせるルルとアスティ。互いの背中を守るように、二人と一匹は周囲を警戒し続けている。


 だが、殺気を放って囲んでいるものの、四人の襲撃者たちは一向に襲ってくる様子がない。そんな状況が不思議だったのだろう。


「ウホ?」

 小首をかしげたリラが、怪訝な声をあげた、その時――。


 木々の枝が揺れ、木の葉がバサバサと落ちていた。その動きとは逆の動きが、闇の中で飛び上がる。

 

 暗闇に舞い上がる黒いマント。それはルル達の頭上を覆い尽くすほどのものだった。

 瞬時に見上げるリラ。


 そして、リラが見上げたその瞬間を狙ったのだろう。地面から影が伸びるように、漆黒のやいばがリラの喉元を狙って突き上げていた。


 まんまと陽動にかかったリラ。


 いかに頑強なギガーゴリラと雖も、そのまま突き上がってくる剣を喉に埋め込まれれば、それだけで絶命しかねない。


 まさに一撃必殺の鋭い突きが、吸い込まれるように進んでくる。


 だが、それはルルの剣で弾かれている。弾かれた途端、スッと闇に消えるその刃。おそらくそれも陽動だったに違いない。とっさの事で体勢の崩れたルルに向けて、すでに二本の矢が放たれていた。


 だが、それはアスティが全て叩き落とす。息もつかせぬ連続攻撃。だが、どの攻撃もルル達の連携の前に阻まれていた。


 そしてリラは――。今もマントを凝視し続けていた……。


 ひらひらと、マントが勿体つけるように地面へと落ちてくる。たった二つの攻撃だったが、どれも隙をつくるような連携を見せていた。その起点となったのは、間違いなくこのマント。だが、マントはマントでしかない。ゆっくりと、それは地面に落ちて広がっていた。


「ウホ?」

 明らかに怪しいと思うリラの顔。だが、マントは広がったまま、何も起きない。


 一瞬それを見たものの、すぐさま周囲を警戒し直すルルとアスティ。だが、殺気は見事に消されており、当然攻撃も来なかった。


 ただ、最後までそれを警戒していたリラは、ついにそのマントに拳を叩きこむ。


 一瞬、それは拳圧で飛ばされたように思えるほど、見事にその拳をかわしていた。だが、もう一度叩きこもうとするリラの動きを察知して、今度は虚空に飛び上がっていた。


「魔術師が一緒に!?」


 不可解なその動きに、アスティは思わず自らの考えを声に出していた。おそらくそれは『信じられない』という気持ちが大きかったからだろう。それは俺も同じ気持ちだった。だが、今の動きに魔力は感じない。ただ、何かで引き寄せられた感じがしただけだ。


 マントは所詮マントでしかない。おそらく見えにくくした紐か何かで引き寄せられているのだろう。しかも、力強く引くことで、そのまま浮くようにされていた。


 しかし、次の瞬間。マントの周囲に、いきなり魔力が満ちていく。


 それを示すかのように、マントはそのままそこに留まり、まわり始める。そして、ついに人型となって、道に降り立っていた。


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