嵐の来訪者
部屋の中央にある応接セットの脇を通り、着飾った男――すなわちラッシュカルト伯爵――は窓の方に近づいていた。雨と風が窓を一層激しく打ち付けているにもかかわらず。
しかし、そんな事を気にも留めず、伯爵は窓に手を伸ばし、外の様子を眺めていた。
部屋に入った時から、ただならぬその気配を感じたルル。
それは、伯爵の外見からもそれは明らかだった。魅せる服装ではなく、戦うための魔道具を多数身に着けている。しかも、腕に自信もあるのだろう。小馬鹿にしてしまう体型から、信じられないほどの威圧感も感じられる。
そんな伯爵の動きに合わせ、ルルは応接セットを中心とした弧を描いて対峙していく。だから伯爵が窓側に移動した分、ルルは入り口の扉の前に立っている。少し離れた場所にはアスティがいる。
だが、窓に近づいた伯爵は、何を思ったのかバルコニーに通じる窓をいきなり開けていた。
吹き荒れる雨と風。その部屋に入ることを許されたことを歓喜するかのように、風が部屋中を駆け回る。
「さて、何故私がここに招待したと思う? 聖剣の所有者ルル・ナオナイ。聖剣パンタナ・ティーグナートの目覚めは何を意味する? 数ある聖剣の中で、その聖剣が最強と言われるのは何故だと思う? わかるだろう? その聖剣はかつて実在した英雄の魂で作られている生きた剣。たとえ折れたとしても、砕けたとしても、その存在意義が示される時には復活を遂げる不滅の剣。聞こえるのだろう? その剣の言葉が。所有者のみに語りかける、正義を行えと言う声が!」
風に負けぬくらいの大声で、窓を背にした伯爵はルルに語りかけていた。
一体何が言いたいのか……。まあ、最強は否定しないし、ほぼ真実だ。
――だが、砕けたり折れたりしたら自分では戻らないからな! 刃こぼれくらいは元に戻せるが、それだけだ。ただ、
だが、そんな事を今更言って何になる? 伯爵の考えが見えない。さっぱり見当もつかない。だが、視線は
「何が言いたいのか、さっぱりだよね。でも、まあ。何を言っても聞く気は無いんだけどね。あたしがここに来た理由を知ってるなら話は早いんだよね。あの兄妹に詫びた後、その口を閉じてもらうだけかな」
油断なく相手の出方を待ちつつも、ルルは身も蓋もなくそう話す。それを聞いた伯爵は、愉快な道化を見る目でルルを見下ろしていた。
「ルル・ナオナイ。聖剣パンタナ・ティーグナートに選ばれたもの。だが、聖剣に選ばれたはずなのに、力の正しい使い方も知らぬ。いや、聖剣の力も使えないらしいな。やはり君は聖剣を持つに値しない。正しく力を使えない、君にはね」
「ふん。お前ごときに、ルルの何がわかるというのだ? 仮にパンティが無くても、ルルのかわいさには一点の曇りもない! それは私が保証する!」
――いや、まて。何をどう保障する? しかも、このタイミングで、最悪だ! いや、それよりもお前まで俺を略して言うな、アスティ!
見ろ、伯爵が固まってるじゃないか!
「――愚劣にして、愚問。わかるとも。愚かにも、王都に群がる害虫の中で日々をおくる。しかも、せっかく害虫駆除している者達を闇討ちにしている。聖剣の所有者にあるまじきふるまい。あまつさえ、この私をも殺しに来た。詫びろと? 笑止! 正義の代行者たる我々貴族を、正義の剣を持つはずの者が殺しに来る。これほど滑稽な事はない。だが、その聖剣を使えないのだから、答えは簡単だったのだ。さあ、返してもらおう。それはこの国が所有する聖剣。正義のための聖なる
パチンと指を鳴らした瞬間、窓の外にある黒い影がせり上がる。激しい風雨の中、その影は開け放たれた窓から入ってくる。
「魔獣を飼い慣らしているのは、なにも君だけじゃないんだよ。ルル・ナオナイ」
それを迎え、伯爵は満足そうな笑みをルルに向けていた。
「さあ、ギガーゴリラ。「ウホ?」新しいおもちゃだ。なに、礼はいらない。「ウホゥ!?」その分、存分に楽しむがいい!」
「ウホー、ウホホ!」「ウホ? ウホホホ?」
最初に入ってきたギガーゴリラが残酷な笑みでそれに答える。だが、それに続いてもう一匹の声が上がる。
しかも、そのギガーゴリラ。『人を小馬鹿にする毛』が雨に濡れて若干しなだれている。
いや、本気で落ち込んでいるのかもしれないな……。
部屋に入る前の自分の行動。すなわち、礼儀正しくお辞儀をした事に対して、『礼はいらない』と言われたと勘違いしている残念なリラがそこにいた。
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