第一章 それぞれの思惑が集いて、一つの結末を迎えていく。
王都の外にある景色
その日は朝から曇天の空模様だった。
ぶ厚い雲は絶えず激しく動いているものの、その切れ間も晴れ間もない。近いうちに嵐が来る。それは誰の目にも明らかだった。
そんな天気の中を、郊外に向けて誰が出歩くというのだろう。だが、その道を淡々と歩いていく者達がいる。もし、誰か他の者がその姿を見れば、きっと呆れてしまうに違いない。
――いや、それは少し違うか……。
この荒れ果てた街道を、そのように見る者の方が珍しいと言えるだろう。何故なら、生きてこの道をゆっくりと、しかも周りを見ながら歩く人などいないのだから……。
この道を通る誰もが、わき目もふらず駆けていく。
その理由は、街道の一歩脇を見れば明らかだった。そこには様々な死体があふれている。もちろん焼かれたり、壊されたりして捨てられた荷物の残骸も多くある。だがそれ以上に、人と思われる死体が無残な姿をさらしていた。
白骨化したもの、腐乱しているもの、それらが元々人間だったと言われても、にわかには信じられないものすらあった。時折それらを糧としているかのように、普通の獣達もその姿を見せている。
王都を囲う壁の内側と外側で、世界が全く異なっている。
しかも、この国ではそれが当たり前の事となっている。だが、誰もそれを正そうとはしなかった。
淡々と歩き続けているものの、徐々にその歩みの速度はわずかに増す。
比較的高地にあるこの王都は、どこに向かうにしても道を下る。周囲から見上げられるように作られているあたり、権威主義の極みとも言えるだろう。
もっとも、今はそう感じる人も少なくなっているだろう。王都のまわりの集落は、もう人が住む土地ではなくなっているのだから。
荒れ果てた村々は放置され、すでに人の営みを感じない場所になってしまっている。王都は言わば、大海に浮かぶ孤島。かろうじてそれを繋いでいるのが権勢という道だった。
やがて道は分岐し、さっきよりも死体の数が増えていく。俺達が目指す場所はその先にある。その気持ちが、歩みをさらに少し早めていた。
その下り道はいったん森に入り、その先の小高い丘へと続いている。その頂には、どこかの貴族と思われる大豪邸がそびえていた。
向こう側とこちら側。それが同じ世界とは思えないほどに、それは立派な姿を見せている。
誰も何も言わずに、沈黙をつれて歩く。だが、森の手前に差し掛かり、誰とはなくその足を止めていた。
「ここだと思います。驚くほど簡単に、調べることが出来ました。ラッシュカルト伯爵は、この森で度々人間狩りを行っているようです。今回新しく行方不明になった子供の数は十三人。一件当たりの人数は毎回同じで十三人です。その数、すでに十二件。いずれも貧民街か地方から流れてきた者達のようです。ですが、それだけ調べがついているのに、伯爵に追及の手は一切まわっておりません」
不思議なやるせなさを伴って、アスティはそう告げていた。真っ黒なフードをかぶっているので、自分の左側を歩くギガーゴリラの顔を見上げてもその表情は分からない。
しかも、体をすっぽり覆っているそのローブは、その声を聞かなければ性別も分からない事だろう。だが、そうやって自分を覆い隠しているものの、その静かな憤りだけは隠しきれていなかった。
「その中に、あの兄妹が……、カールとミリンダがいたようです。あの九歳と五歳の兄妹が、何故そんな目に合わないといけないのでしょう……。同族の子供を、自らの愉悦の為に殺す。そんな事は魔獣でもやりません……。でも、この国の人間は、いとも簡単にそれをする。しかも、それを知っていても誰も止めない。国王ですら……。人間こそが、この世界で最も残酷な生き物ではないでしょうか? そうは思いませんか、ルル……」
再び見上げる彼女の瞳に、まっすぐに前を見つめる小さな姿が映っていた。
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