008
プラムの救助により謎の二人組から逃げ延びた二人の男女は、川沿いに停めてあると言う馬車を頼りに水が下たる服を着たまま向かって居た。
「男性は良いですわね!そうやって上半身裸で居られるのですから!」
「姫様、ですから私がおぶって差し上げますと先程から…」
「殿方の裸に抱き着け。と、この私に申すのですか?もう子供じゃないのですよ!」
「その様な事を言って居る場合では!!それに俺からみたら姫様はまだまだ子供で御座います」
「酷いですわ!!もう立派な淑女なんですからね!!」
そう言って、濡れたドレスを武器に胸元を強調させて魅せた。
「姫様…このような時にお戯れはよしてください…。それに、淑女とはその様な淫らな格好いたしませぬぞ…」
「ふふ、分かって居ますわ…私ね、ベルが生き返ってくれて嬉しいの。もしかしたらこうやって揶揄う事も出来なくなって居たなんて思ったら、今からでもベルに…」
ドゴォ―ン!!
(( 「ッ!!?」 ))
「いけない!!あの恩方が!!」
「姫様、失礼します」
「ちょ、離しなさい!戻らないとあの恩方が!!」
「耐えて下さい、今姫様が向かえばあの恩人殿だけでなく、犠牲になった部隊や民達までもが無駄に成ります。」
「ぁ…。ベル…全力で行きなさい。但し私を落とさない程度にね」
「ハッ!!」
ずぶ濡れの姫は紳士の老兵に抱かれながら馬車へと向かう。そして同じ頃、
森の奥から鳴り響く轟音と共に、川の上流方面から空高く幾つもの閃光が飛び去っていた。その異変に気が付き、男達は急いで馬を引き連れあっという間に森をでる準備を終わらせていた。
「後はお嬢ちゃんだけだが…」
「プラムちゃんまだ帰って来てないの!?」
「見た限りそのようだな…仕方ない、お前達は先に逃げておけ。女性達は家族持ちの男達に任せる」
「お、おいビリッシュッ!!勝手に決めるなッ!!」
「頼むから早く行ってくれ…寝坊助組の俺達が少し遅れて付いて行くってだけだッ。揉めてる暇は無いんだよ」
「ビリッシュ、ポトム、バークよ、あまり長居はするでないぞ」
「分かってるよ婆さん。ヒューゴ、さっさと婆さんを乗せてやってくれ」
「ック…」
ヒューゴは苦々しい表情を浮かべ、ビリッシュ達を置いて馬車を走らせていった。
プラムの帰りを待つ三人は、再び鳴り響いた轟音に怯える馬を必死に落ち着かせ、程無くして森は静かになると川沿いから一つの人影、厳密には二人の人影が三人の視界に入って来た。
「バーク!!」
「言われなくても分かってる、馬を出す準備だ!」
「おいおい正気か!?嬢ちゃん置いて行く気かよ!!」
「あの音と姫様抱っこで向かって来る老人、どうみても潮時だ。」
「そうは言ってもな!!」
「良いから荷台を開けておけ!」
「一応注意はしておけよポトム」
「勿論だ、もしもの時は置いて行け」
馭者席に跨るバーク。ポトムは槍を持ち、女性を抱き抱えて来る老兵へと向かって行った。
老兵は姫を降ろし、敵意が無い事を伝える為、両手を上げながら言葉を交わし出す。
「この先で合った少女に助けられ、馬車が有ると教えられ逃げ参った者だ」
その言葉にポトムは馭者席へと顔を振り向き、再び老兵と相見えた。
「その少女は今どこに?」
「この先の滝で合いましたわ。すぐ追いつくと言ってその場に残って行きましたの…」
「そうか…急いで乗れ、直ぐにこの森を出る」
「ッ!!」
「良いのですかッ!?」
「そんなボロボロな姿で逃げて来て置いて行けって言う方が無理だ」
「そうでは無く、恩方が!!」
「良いから乗ってくれ、どうせケロッと帰って来るさ」
「そんなッ!!」
「シシリー、彼等は耐えてるのが分かりませぬか、従いましょう」
「なッ!!?…わ、わかりましたわ」
「さぁ乗った乗った!」
老兵にシシリーと突然名前を呼ばれ息が詰まる女性は何かを察し、老兵は背中を押す様に女性と荷台へと乗り込み、馬車はプラムを置いて街道へと走り出した。
馭者組と老兵組、両者が何も言わず、何も聞かず、何事も無かった様に馬車は走り続ける中、シシリーと呼ばれた女性が荷台の後方で小さく口をこぼし始めた。
ガタガタ…ガタガタガタ…
「何が ケロッと帰って来る よ…。そう言う言葉を残して私の前から居なくなった人がどれだけ居たか…。本当に有り得ない…戻るかも分らない人を軽はずみで言う言葉…私が嫌いな言葉ですわ…」
沈黙が流れ馬車が走る音だけが響く
ガタガタ…ガタガタガタ…
「お嬢さん、腹は減ってないか?パンと干物位しかないがな~、ほら」
「…要らないですわ」
「シシリー…」
「随分口が尖っちまってるなッ!!ひな鳥がご飯欲しくて仕方ないのかと思ったわ!!」
「この私をバカにしてるんですの?」
「仕方ねぇモノは仕方ねぇもんさ、その身なり、お嬢さんが何処のお偉い貴族さんかは知らんが、俺達平民は理不尽なんて日常茶飯事、いつまで考えて様がしょうがないモノだ」
「その性根が腐った言葉で逃げてる事が良く分かりましたわ。何がケロッと帰って来るですか、帰る事を悲願せず、諦めて、想いでから遠のく為の言い訳じゃないですか」
「そうかもな、少なくとも俺達は貴族様達より大事にされてない存在だ。上の気分次第で生き死にが決まりかねないやわな存在。身内が明日には故人になってた何てざらじゃないのさ」
「そんな事わたくしだって同じですわ!!」
「命の重みをわかっちゃいねぇな、アンタはお孫さんの弁護に入らなくていいのか?」
「ふ、お孫ごさんか…そうだな、確かにその通りですな、こういう機会でも無ければ発言の一つ二つで簡単に摘み取れてしまいますからな。軽ければ軽い程心配するだけ無駄、と言う思想は前向きで有り決して悪い事では無い」
「バロッシュ、そろそろやめておけ、俺達まで首が飛びかねんぞ…」
「へいへい…でもな、お嬢さんがプラムの嬢ちゃんを心配してくれてる事は凄く嬉しいぜ、独り言のつもりだろうが思いっきり聞こえてたしな~」
「なっ!!」
「おおっと、そこで悲しいお知らせが…」
「悲しいお知らせ?」
「なんと、お嬢さんの嫌いな言葉が現実となりやした~」
「何を言っていますか理解できませんわ…もしかしてまた私を馬鹿にしてるのかしら!?」
「ひ、姫…様……ッ!?後ろを…ッ!?」
「ちょ、ベルッ!!名前ッ!!…え、後ろ?」
「お嬢さん、良いから後ろ見てみぃ」
ダダダダダダダダダダダダダダ―ッ!!!
――― 「おーい!」 ―――
シシリーが振り返る風景に、高速で走るプラムが映り込んでいた。
Paradise World - gift for the dead - 椿りんせ @TsubakiRinse
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