007
木々を背に、隠れて移動する二人組と、それを追い、木々を倒して進む二人組の姿が有った。
「おらおらどうしたッ!!隠れる場所が無く成ってきたぞ?そんな逃げ腰で良いのかよ白馬の王子様よッ!!」
「王子様って歳じゃないでしょうに…遊んでないでさっさと捕まえますよ」
「勿論捕まえるのは俺の仕事だが?奴を殺すのはお前の仕事だろうが、さっさとぶち抜けよ」
「そうは言われても、姫様に当たったらどう責任を取るつもりですか?私だけじゃ済みませんよ?」
「うるせー黙ってぶち抜いとけ、どうせ奴が盾になんだからよ」
「はぁ…これだから脳筋は…」
「姫様、ここからは後ろを見ないで前だけを見て走ってくださいッ!!俺が奴等の攻撃を防いで居る内にッ!!」
「ベルッ!!」
「大丈夫です。木の代わりに盾と成るだけです。しっかりと後ろを付いて行きますよ」
「分かったわ…ッ!!しっかり守ってくださいましッ!!」
「仰せのままに…ハードプロテクションッ!!」
追う者と追われる者が、滝が流れる絶壁へと向けて駆け回っていた…。
そして此処にも、ごろ付いた岩々を軽快に飛び越えながら、楽しそうに燥ぐ一人の少女が、その滝へと向かっていた。
ピョン ササッ クルンッ スタッ
「やッッホッ!!…。自分でも驚き…まるで体操選手ねッ!!。こんな動きした事も無いのに出来ちゃうなんて…」
プラムは岩と岩の間を、平均台で宙を回る様に飛び越え、着地して行く。そうして進む内、滝つぼまでやって来ていた。
ザザザザザザザッ…
「うわぁ…迫力満点…。流石、遠くから虹が見えただけある…」
岩壁が高く、じめじめ感のない滝。その周りは広く開けており、日当りは十分だった。プラムは生乾きの服を脱ぎ、大きく平らな岩の上に敷くと、その隣で大胆に寝ころぶ。陽の光を肌に感じて居る内、徐々に意識が掠れ、次第に眠りに落ちて居た。
スゥ…
――― … ―――
時が進み、肌寒さで身体を丸める様に寝返りを打つ頃、滝の周囲では異変が起きて居た。
ズドンッ!! … ズドンッ!! … ズドンッ!!
「んん…音ッ!?」
何かが倒れる音に気付き、仰向けで空を眺める様に目を開くプラム。すると滝の有る岩壁の上空から青白い閃光が通り過ぎて居た。
「な、何が起きてるの?」
ズドンッ!!
プラムが不思議そうに立ち上がった時、再び音が鳴り響いた。そしてその瞬間、滝の上から何かが降って来る。
「ぇ?」
――― ズバーンッ!! ―――
バチャバチャッバチャバチャッ!!
「あヴぁヴ、うぶあばッ!!」
「う、嘘でしょ?」
水面から顔を出したのは女性であった。更に音は鳴り響き、再び何かが落ちて来る。しかしそれは、大きな波紋を残し、水を赤く染めながら沈んで行った。女性に気を取られ、沈む影しか確認出来なかったプラムは、空気を大きく吸い、靡く衣服が絡まり沈みかけている女性目掛け滝つぼへと飛び込んだ。
スゥーー!!ザバンッ!!バチャバチャッ!!
「ぶばぁ…あっぶぶあぁッ!!」
「お願いだから…大人しく…してッ!!」
水面でバチャバチャと渋きが上がる中、プラムは強引に女性を抱き連れ岸辺へ寝かすと、赤く染めたた水面へと再び泳ぎ、潜って行った。
暫くして水面から顔をだしたプラムは、男性と思わしき肉体を担ぎ、岸辺へと辿り着く。
「ぐ…ケホッケホッ…。べ、る…ッ!!」
女性は息苦しそうに這いつくばって来る。その目的はプラムが肩に背負う男性であると察し、女性の元へと寄せ置いた。
バタン…
「ベルッ!!ベルゥッ!!…べ、るッ!?そんなぁ!!?ベルッ…!!」
男性に這いより、肩を揺らす女性。しかし、女性の目に映ったのは、大きく穴の開いた腹部であった。
揺らす事を辞めた女性は濡れた衣服を強く握り、唸り出した。
「早く…助けな"いと"ッ!!ベルがッベルがッ!!」
「ど、どどうしよう…えっとえっとッ!!とにかく助ける…お医者さん!?お薬?ン――ッ!!」
「お薬で…治る訳ッないじゃないッ!!ウヴゥ…治癒魔法でもこんなの…ッ!!」
「ち、治癒魔法ッ!?あ、そう言えば私…ぐぬぬ…やるだけやるしかッ!!」
「ギフトメニューッ!!」
「ッ!?」
ブィン
「アクティブッ生体再構築ッ!!」
――――――――――――――――――――――
⇦
生体を指定してください。
――――――――――――――――――――――
「うげぇ面倒なッ!!この人ですッ!!このベルって方ですッ!!」
――――――――――――――――――――――
⇦
ジェスチャー機能により対象を確認。生体と判断しました。
生体情報を人族と認識し、人族の正常状態を基づき、破損箇所を再構築します。
――――――――――――――――――――――
プクプク、ヌチャヌチャと気持ち悪い音を立てながら男性の穴の開いた胸が徐々に塞がって行く。
「し、信じられない…こんな治癒魔法…いえこれは再生魔法!?。ベルの傷がッ!!?」
「や、やったッ!?成功したッ!!」
「う…ぐふぉ…」ッぺっ!ッぺっ!
暫くして何も無かった様に男の胸に空けられた穴が全てが塞がり、穴の開いたプレートメイルの痕跡だけが残って居た。男性は息を吹き返すと同時に、器官に詰まった血液を口から吐き出した。
「ベルッ!!ねぇ返事をしてベルッ!!」
「姫、様…生きて…」
「良かった…ベルッ!!」
「俺は確か…」ガチャン
「動ける?身体は何ともない?」
「ええ、不思議と何故か…。姫様も…御無事そうで何より…っハッ!!追手は!?」
お互いの安否を確認し合う男と女。しかし思い出したかのように男は辺りを見渡した。
そして目が合う二人…。
「き、貴様ッ!!何者だッ!!」ガシャンッ!!
プレートメイルが音を立て、男は立ち上がる。
「わ、わたしぃ!?」
「待ってベルッ!!その方は私達を…」
「その様な姿で姫様の前へ現れるとは…さては貴様…透明化の魔法を使い、姫様の暗殺をッ!!だがしかし、このベルモンドの目には誤魔化せなかったようだなッ…今直ぐ此処でッ!!」
「ぇ?」
「だから待ってベルッ!!その裸の少女は私達をこの岸辺まで引き上げ、助けてくれた恩方よッ!!」
「なッ!?この露出狂の変態女がだと?」
――― ヒューン ―――
助ける事に夢中であった少女は男に何を言われてるか理解出来て居なかったが、自らの姿を風が撫でた
「ふぇッくち!?………あ、」
――― ギヤァァぁ!! ―――
裸で有る事を思い出した少女は、見ず知らずの男女を目の前に嘆きの悲鳴を響き渡たらせた。
「今の悲鳴は」
「何って、大事な忠犬に風穴空いてて泣き崩れたんだろ」
「…にしては汚い声が…?」
「姫の地声がどうであれ、逃がす訳には行かないんだよ。何時までもソコに居ないでさっさと降りて来いッ!!」
プラムの悲鳴が鳴り響いてから追手であろう謎の二人組が滝つぼに到着するのは時間の問題であった。追われている事など知らないプラムは服を干した日の当たる岩場へと向かう事しか頭にないでいた。
「ここ、これではッ!!と兎に角ふふ服をとりに…」
「お、お待ちに成ってッ!!」
「ぇ…そんな…!?」
「この際、趣味は関係ないわ。例え露出狂であろうと助けて貰った恩人には変わりがないのだからッ!!」
「そ、れは誤解ですよ!」
「誤解?貴女以外の恩人など居ないと言うのに!!それなのにベルと来たら…」
「その事じゃなくてですね…」
「姫様…そこまで言うので有れば…。すまない恩人殿よ、何も知らずに敵意を向けた事を謝罪しよう。ここでゆっくりお礼を述べたい所では有るが…」
「あぁはぁ…。と、兎に角そろそろいいですかね…」
プラムは行くに行かせてくれない二人の会話に身体をモジモジさせつつも、女性の言葉を返して行く。
「ベル、貴方はいい加減、その目線を避けるべきよ。見つめるなら私だけにしてちょうだいッ!!それと貴女、この森を抜ける道はご存知かしら…急いでこの国を出なくてはならないのです…」
「そうですね…私も早く此処から去りたい所です…」
「ふむ、その様子、恩人殿もどうやら逃げ仰せてきた様だな、」
「た、確かに逃げて来た身では有りますが…そう言う意味じゃ…あ、そうだ!!でしたらこの滝沿いにそって下れば馬車が在る筈ですッ!!この国を出る目的で進んでいるので、ご一緒すると良いかも…」
「おおッ真か!!姫様…是非向かいましょうッ!!」
「そうねベル…。此処は危険だから貴方も一緒に…」
「あぁ、後で向かいますよッ!!直ぐに追いつきますからッ!!」
「…分かったわ。ベルッ!!」
「ッハ!!」
プラムが救助した二人は追ってから逃げる為に一足先に滝を離れて行った。
「ふぅ…思う事は色々あるけど…取りあえず服を取りに行かないと…」
やっと解放されたプラムは颯爽と滝つぼを飛び越え、日当りのいい岩場へと着地すると、日光により干され乾ききった下着を手に取り、着替え始めた。
ササッ…シュルル…カチッ…
続いて衣服を肌に通そうとする時、茂みから追ってと思われる男二人が着替え途中のプラムの前へと現れ目と目が合う。
「…え?」
「…あ?」
「…待ち伏せかッ!!」
「な訳有るかよ、下着一丁で待ち構える奴があるか」
「ふむ、一理有りますね。この様な露出狂に一瞬たりとも動揺するとは…」
「ギヤァァッ!!」
「うるせぇな、殺すぞメスガキが…」
「この声、先程の悲鳴と似て居ますね」
「あぁ?嘘だろ?…そう言えばお姫様の姿が見えねぇな…。大事な王子様置いてもう逃げたのか?だとしたら笑えるな!!」
「そこの露出狂の貴方、此処で人を見かけませんでしたか?」
細々しいフードの男に尋ねられた少女で有ったが、それ所ではないのかイソイソと服を着け続けていた。
「は、は、はやくしないとッ!!」
「人の話しを無視して呑気に着替えてんじゃねーぞクソガキがッ!!」
「ッ!?」
シュンッ!!
ふさふさの体毛を生やした男はプラムの顔を鷲掴む様に手を伸ばした。しかし、着替え途中のプラムが超人的な速度でそれを後ろへとかわした。
「は!?…コイツ…生意気にも俺から避けやがった…殺す。殺して食ってやる」
「ッチッ!!落ち着けッ!!お前の悪い癖だ、殺す前に情報が先だッ!!」
「知るかッ!!」
「これだから脳筋はッ!!メモリーリテイクッ!!」
シュウ…
「な、なにこれ!?」フンッ!!
フードを被る男の手から紫色の光が発せられ、前へと掲げた手の平からゆっくりと霧状の何かがプラムへと向かい、プラムはそれを払うように手の甲で振り抜いた。しかし…。
「っぐッ!?…待てレイナードッ!!、この娘…何か…知ってるぞ…」
「あぁ!?何かって何だよ、舐めてんのか?いつものお前ならもっとはっきり言うだろうがッ!?」
「水辺から何かを抱き抱える姿は見えた…しかし…それ以外はレジストされた…」
「ハァぁ!?嘘だろ!?…仕方ねぇ、面倒だが知ってるんなら捕まえて身体に聞くまでだなッ!!オラッ!!」
「ひぃぃ!?」
バチンッ!!
「ッ!?」
「レイナードッ!!下がれッ!!」
「ふざけんなよッ!?これからだろうがッ!!ンギィッ!!」
「こ、来ないでッ!!」
ドゴォォンッ!!
「レイナードッ!!」
「う…」
レイナードと呼ばれた男の腕が再びプラムへと伸ばされた。その手を拳に変えて…。しかし、か弱そうな防御姿勢にも関わらず、彼の拳は少女によって受け止められていた。次の瞬間、プラムは両手で押し返した。その力は尋常な無い程に…。そして男は岩壁へと衝突していた。
「ッチッ!!アクティブッ高速詠唱ッ!!」
~~~ …、…、…ッ!! ~~~
「プラズマクラスターッ!!」
まるでカセットテープの早送りの様な声がほんの数秒流れると、フードの男から青白い閃光が放たれた。
キューンッズドーンッ!!
そしてそれはプラムへと直撃し、少女と男は砂煙に包まれた。
「い…痛い…腕がぁ…」
ジュジュゥ…
反射的に腕で防いだプラムだが、その腕は火傷の様に赤く爛れ、火が鎮火した様に白い煙が細く漂う。
「この距離であの程度の傷だと!?レイナードッ!!大人しく引くぞッ!!あの肉体能力…間違いなく四帝クラスに匹敵するッ!!今回は引きますよ!!」
「ぐふ…ッぺっっ!!解ったよッ…」
スタ…
「クソ…ガキがぁ…その面ぜってぇ忘れねぇからな…ッ!!」
シュンッ!!
そう言い残し男二人は草むらへと消えて行った。
プラムは焼けただれた腕の痛みに耐えながら、ギフトを起動しだした。
「アク…ティブッ!!生体再構築ッ!!対象は…私ッ!!」
――――――――――――――――――――――
⇦
対象を確認。生体と判断しました。
生体情報を人族と認識し、人族の正常状態を基づき、破損箇所を再構築します。
――――――――――――――――――――――
「うぐ…はぁ…はぁ………。腕…もう痛くない…はぁ…。何なのよ一体…?向こうが退いてくれて本当に良かった…。兎に角馬車に戻らなきゃ…」
謎の二人組を追い払い、ギフトによって腕の再生を果たしたプラム。下着姿で安堵する彼女は、乾いた服に袖を通し馬車へと戻って行った。
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