「兄」
母の通夜だった。母は不幸な事故で死んだ。それが残された家族全員の認識だった。
隣に座る妹の頭をぽんと撫でる。悲しみ疲れたのか、ずっと押し黙ったままだ。
「……事故だって、父さんは言ってたけど。贈り物しよう、なんて俺が言わなければよかったね」
「お兄ちゃん……でも……私が……」
また嗚咽を漏らしはじめたちいさい背中を、ゆっくりさする。その間にも新たな弔問客が来て、父と兄が応じるのが気配でわかった。
「この度は……」
驚いた。来るとは思わなかった。母のこと、あんなに嫌っていたくせに。いなくなってほしいって、何度も俺の耳元で囁いていたのに。
思わず顔を上げた俺と、一瞬だけ目線がかち合う。彼女は複雑そうな、困惑したようなそんな顔を、していた、気がする。
「……お兄ちゃん?」
ああ、息苦しい。
普段は留めない詰襟のホックを、何故だか無性に外したくなった。
母を殺害せしめたのは誰か 早藤尚 @anyv-nt41
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