「アニメ新世紀宣言」の体験談「あの日、ボクらは、、、」

斗筆家

人がそんなに便利になれるわけない

 新宿アルタ前、そう言われても、当時の僕にはそれがどこかも見当がつかなかった。

 今のようにどこからでもネットで情報を検索できるわけではなく、そのためのインターネットすらまだ存在していない時代。パソコンはかろうじて普及期に入っていたものの、高校を卒業したばかりの僕がそれを知ることはなかった。世界といえば、目に入るものがすべてであり、それ以上の世界は、存在を知ってはいても、現実感のないものだった。新宿は東京にある有名な街だとわかっていても、そこで行われる「アニメ新世紀宣言」は、当時の僕にはまったく縁のないイベントだった。

 ただ、そこで取り上げられた「機動戦士ガンダム」は、高校生であった僕に、革新的なリアルロボットとして衝撃を与えたアニメであった。当時の主流であった搭乗者が叫びながら戦うロボットアニメとは異なり、不平不満を口にしながら生き抜く(戦い抜く、ではない)姿は、ロボットが戦場に投入される未来を想像させてくれた(ロボットが身近になってきた今では、逆に、叫びながら音声操作するロボットこそ現実的で、レバーやボタンなどで逐一操縦するガンダム型のロボットは実戦向きではないようにも思えるが‥‥‥)。

 しかし、そんな興奮は長く続かなかった。「ニュータイプ」の登場である。

「アニメ新世紀宣言」の主題でもある「ニュータイプ」は、それまでどこか弱々しいところのあったアムロを、エースパイロットへと一気に押し上げた。ひたいに走る閃光は、アムロが特別な存在となったことを示していた。

 このニュータイプへの覚醒が、運動も勉強もたいしたことがなく、自宅と学校を中心とした狭い世界しか現実でなかった高校生の僕にとっては、とうてい納得できるものではなかった。なにしろ「機械好きな少年」(ミライ談)でしかなかったアムロが、特別な努力なしにいきなり一目置かれる存在となったのだ。最終話のセイラさんの台詞ではないが、「人がそんなに便利になれるわけない」と感じてしまったのである。

 もっとも、今ではなんとなく理解できる。一つのこと(仕事など)を続けていると、突然目の前が開けてくるような感覚になることがある。どんなことでもそうなるわけではなく、おそらく自分に合っていることに限られるように思われるが、「肝」というか「勘所」のようなものがわかってくるのだ。比べようもないくらい些細な変化にすぎないが、「ニュータイプとしての覚醒」とは、こうした感覚に近いものなのかもしれない(天と地ほどの違いはあるだろうが‥‥‥)。この感覚は、努力の結果として生じるものではなく、経験や観察などから生まれてくるようなものであり、そういう意味では、「ホワイトベースこそ実戦を繰り返してきた艦だからな」とウッディ大尉が評したとおり、数多くの実戦経験が土壌となり、加えてアムロの天性の資質が「ニュータイプとしての覚醒」を促したように考えられる。もちろん、母との決別、父への失望など、「あなたの中には家族もふるさともないというのに」とララァが見通したような強い孤独感も忘れてはならない。内向きの思考は自身にかける時間が増えることでもあり、少なからずの歴史的偉人がそうであったように、天才を目覚めさせる原動力ともなりうるのだろう。

「アニメ新世紀宣言」が発せられて約40年。イベント当時に登場したパソコンは、いまや手のひらサイズのスマホとなり、いつでもネットを介して世界中の情報を手に入れられる時代となった。今なら、新宿アルタ前どころか、世界中のいたるところの情報をすぐ入手できる。地図サービスからその空間に入り込んで、周囲を歩き回ることさえ可能だ。

 そのような仮想空間はいまやあちこちに存在しており、そこに入れば眼の前の現実とはまったく異なる世界を体験できる。その世界では異なる自分を演出することもできるし、異空間における不思議な感覚がもたらされることもしばしばだ。この感覚は、現実の世界にも影響することがあって、たとえば周囲に気を配って行動しなければならないような仮想世界に没頭していると、それが現実の自身の行動にも反映されていて驚かされることもある。

 このように、「ニュータイプとしての覚醒」がもたらしたような、感覚の拡張はすでに始まっていると思われるのだが、いまだ世界は「わかりあえる」気配すらない。くしくもガンダムの世界がそうであったように。

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「アニメ新世紀宣言」の体験談「あの日、ボクらは、、、」 斗筆家 @kkiida

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