八月の悪夢(4)#92
母が電話に出ない限り、今はこれ以上どうすることもできない。
まず、施設に電話して、こう伝えた。
なだめたけどダメだったこと、もう電話に出てくれないのでこれ以上はできないこと、妹に直接行ってもらうよう頼むけど、今仕事中で連絡が取れないからどうなるかわからない。もし妹が行けなくて、母が今夜もごはんを食べなくても、それはもうしかたないとこちらも承知しているから、気にしなくていい。
それから、母が何をどう思っているのか、その結果、何を主張しているのかを、わかった限りで伝えた。
「そうですか〜。困りましたね」との返事。母が今は施設の人を信用してないので、彼らにはどうしようもない。
母は電話での話の中で、自分の部屋のすぐ下の入居者さんが通報した可能性もあるようなことを言っていたので、もはや職員さん入居者さん含め周りの全員に敵意を持っていると言ってもいいくらいだった。部屋から出て、周りの全員に何か言ったりやったりして迷惑をかけるよりも、ごはんの時間も含めて部屋にこもっていた方が問題が少ないかもしれないとも思った。
それから妹に、仕事が終わってこのメールを見たらすぐに電話をほしい旨、送っておいた。
17時過ぎ、妹から電話。コトの次第を話して、これから夜ごはん用のお弁当と数日保ちそうな軽食類を買って持って行き、母の様子を見て知らせてほしいと言った。
妹も驚き、ゲンナリした様子ながら、わかった、やってみると言ってくれた。
そして、19時過ぎ、意外に早く妹から電話が来た。
やはり、夜も施設のごはんを拒否していたので、買って行ったお弁当を渡すと、おとなしく食べ始めた。そこで、穏やかな調子で言って聞かせようと話を持ち出すと、途中で突然怒り出して、お弁当を床にぶちまけたのだと言う。それ以上は取りつく島もなかった、何を言ってもやってもダメで、しまいには叩かれそうになったので、お弁当のゴミを片付けて、軽食を食べるように言い残して帰って来るしかなかった、ということだった。
だから、こんなに早かったのか。
妹が施設の人に結果を伝えると、病院に連れて行って、落ち着くような薬をもらった方がいいと言われたと言う。その日は木曜だったが、翌日の金曜は妹も仕事が抜けられないので、土曜に連れて行く、明日は残してきた軽食で食いつないでもらって、なるべく周りに迷惑をかけないようにしててくれることを祈るしかないね、とのこと。
妹に労いの言葉をかけてお礼を言った。私は電話でもショックを受けたのだ。おそらく、直接興奮する姿を見た妹は、もっとショックを受けただろう。
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