八月の悪夢(3)#91

電話をかけ直すと、やや待たされてからやっと応答があった。

「なにっ?」と、さっきの続きのような不機嫌な声だった。

「ごめん、あのね、私の勘違いだった。やっぱりママの言うとおり、警察の人ね、一応みんなの部屋を調べたんだって。そうする決まりになってるんだって。だからね、部屋を調べられたのはママだけじゃないの。で、誰のところにも問題がなかったから、もう大丈夫だって。だから気にしないで、夜のごはんは食べてね」

「そうやって、職員が言ったの?」

「うん、そうだよ。私も心配になって、さっきの電話のあとに訊いてみたの。そしたら、ママだけじゃなくて、みんな調べて、もう何も心配要らないって…」


話を黙って聞いていたので、これで大丈夫だろうと祈るように話し終わろうかというところで、また思わぬ反応が来た。

「バカだね! アンタ本当にわからないの!? そうやってウソついて騙してるんだよ! んもぅ、てことは、アンタもバカにされてるってことなんだよ!? どうして、それがわからないのっ!?」

ますます興奮してきてしまった。こっちは落ち着いて、穏やかにやさしく……。

「職員さんは、そんなことしないでしょう?」

「違うんだって! 誰かが私を通報したから、それからみんな私のことを疑ってるんだよ! それを私にわからないと思って、コソコソみんなで警察呼んで、いない間に調べてるんだよ! どうして違うって言うの!!」

「違うって言ってないでしょう? もう大丈夫になったって言ってるんだよ。警察も来たけど、全部もう心配ないから帰ったんだから」

「んもぅ〜〜!! 何言ってるの!! バカーーーーッッ!!!」


再び、ガッチャリ電話は切れた。

すぐにかけ直したけど、もう何度かけても出なかった。


そこからか……と、ため息をつきながら、生きた心地がしない自分の体を深呼吸で落ち着かせようとした。でも、息が吸えない。頭の中がグルグルして、しびれたようになっている。本当に弱くなったなぁと思う。何の心構えもないところにいきなり大ゴトが降りかかって、体が受け止め切れてない。


そこからか……と言ったのは、突拍子もない話のすみずみまで、1ミリもたがわず合わせないといけなかったのだ、ということだ。

ことも、警察が調べにきたことも、否定したのがダメだった。

そこから話を合わせて、その根本のところから解決したんだというふうにしなければならなかったのだ。


まだまだ、甘かった。もう何度電話しても出ないし、私は遠方にいるので、今からでは駆けつけるわけにもいかない。今夜のごはんも食べないだろうから、妹に頼むか。


そんなふうに、次の段取りを考えた。

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