そこまでやるの!?(2)#75

「模様替え、終わりました」

施設から電話が来て、私はお礼を言った。そして、その次の訪問で結果を見るまでは、「そこまでやる!?」なんて当然知る由もなかった。


行ってみると、まず、私が大汗をかきながらスペースを作りキレイに飾った食器類が、根こそぎ取っ払われていた。たとえ、もう意識的に鑑賞する能力がなくても目に触れさせてあげるだけでもと、母の大事なコレクションの食器のほんのほんの一部を持ってきていたのだ。母らしいものを飾って、少しでも自分の部屋っぽくしてやりたかったのだ。

私たちが訪問した時に使おうと思っていたカップもあったのだけど、それも含めて施設側に不要と判断された物たちが、空き部屋に移されていた。


思い出の品にしても、これまではしまいっ放しだったけど、今後ちょっとずつ眺めて、もう十分だ、なくても大丈夫とちゃんとお別れできたら、処分するか私が持ち帰ろうと思っていた。それもすべて空き部屋に移されていて、悲しくて胸にずしーんと来た。そんなに実利主義なの? と。


私が母のところに泊まるためのお泊まりセット一式も、すべてがちょうどよく収まる大きさのキレイな箱に入れて置いてあったが、中身を出され、母の物と混ぜられて、箱もなくなっていた。細かい中身まで手を付けられると思っていなかったので、内心ちょっと立腹してしまった。おあつらえ向きだった箱は、今も代わりが見つけられないで困っている。


そして、何よりも私が戸惑ったのは、それによって母が一時的におかしくなってしまったことだった。

施設から電話で模様替え完了が知らされた時、母が電話を代わってくれと言ってると言われたので、少し話した。すると、母があまりにわけのわからないことを口走るので、そんなに頭が混乱するほどのことが行われたの? と内心訝っていたのだけど、すぐ行くから安心してと何とか母をなだめて電話を切っていた。


で、行ってみたら、上述の状態だったというわけだ。

母は、私がその物について母と話しながら片付けたり飾ったりしてるのを見ていた。それでやっと部屋が少し落ち着いたと思っていたところに、今度はいきなり複数の人が来てすっかり室内が変えられ、お馴染みの物もなくなってしまった。母にとっては知らない人(家族以外)に部屋をいいようにされたという認識で、わけがわからず混乱し、不安を感じ、認知症的な妄想が出たのだろう。


電話の声は恐ろしく硬く、別人のようで、口調は好戦的だった。

「○○(うちの妹)が、と自分の荷物を持ってきたんだけど、施設の人が全部部屋に入り切らないからと言って荷物ごと追い返してしまった」

私に言いつけるように訴え、どうしよう、何とかしてほしい、というような感じだった。


きっとこの妄想は、混乱や不安によって「潜在的な願望」が出てきたものだろう。

一緒に住みたいと思っているのは妹ではなく母の方で、私は遠方にいて結婚もしているので、相手は(独身の)妹なのだ。

もっと言うと、潜在意識的にはやはり本当は施設にいたくないのかもしれない。または、この状態が ”仮” のつもりで、ずっとこのままでいるわけじゃないと思っているのか。どこかよそに移る途中、あるいは、これから本気で妹がここに引っ越してきてくれる、というふうに。


そう思うと、また悲しくて涙が出てしまった。

なんであれ、部屋は片付きつつある。でも、母も私も心の整理はまだまだ付いてないようだった。

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