ある話し合い。#69
突然父が亡くなり、忌引き明けに学校にあいさつをすると、私はすぐに母の実家に連れて行かれた。
父亡き後は、父の勤務先の社宅をできるだけ早く明け渡すことが必要で、まずは私だけが先に移った格好だ。母は私を置くと、仙台に取って返した。そして、家財道具一式をまとめて引っ越しの手配をし、後日、実家に戻ってきた。
母の実家、つまり私の祖父母宅では、そのために大きな物置き——簡易な木造の造りながら、ちょっとした蔵ほどの大きさの——を用意してくれ、私たちの荷物は一時的にそこに保管されることになった。
当面使う文房具や日用品、洋服類とそれを入れるタンス、それと私の電子オルガンだけが家の中に運び込まれた。仮住まいという形だ。
このような形が決定されるまでにどういう選択肢が検討されたのか、私はわからない。もしかすると、父方と母方とどちらの実家に身を寄せるか、あるいはまったく関係のない所で自分たちだけで住むのか、そういった話し合いがなされたのかもしれない。
というのも、どのタイミングだったのかはわからないけど、母と私と妹が父の実家にいて、大人たちが何かを話していたという場面の記憶があるからだ。そして、話し合いの途中か終わってからか、母が妹をおぶって揺すりながら仏壇の前で激しく泣いているのに気づいた。「これからどうやって生きていったらいいの?」と仏壇に向かって訴えかけ、嗚咽していた。
祖母は祖父に向かって「子供の前でやめなさい」と言っていた。祖父が母に何か言って、それによって母が泣き出したのだろうと私は思った。
こういう時、私はいつも何もしない子供だった。ただぼんやりと状況を眺め(時にはあえて見もせず)、ぼんやりと解釈し、何も訊かないし、何もしないし、何も言わない。
そんな私と一歳の妹を抱えて、きっと母は孤立無援な気持ちだっただろう。
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