褒められた!#34
いつごろからかわからないけど、「アンタはホントにワガママで!」とか「ワガママ言うんじゃない」と母からよく言われるようになり、私は自分がワガママなのだと刷り込まれた。
大学の時に取った心理学の講義で、母子関係による「bad me(バッドミー)の形成」みたいなことを習った時に、これって私だ! って思った瞬間を今でも覚えている。私は悪い子だと思い込み、何か起こると私が悪いからだと考える、そういう思考パターンになる。
子供のころを振り返ると、私はどんなワガママを言ったりしたりしたのか。そんなにしょっちゅうワガママだったのか。
自分では全然わからない。子供だから、おそらく時々は聞き分けのない言動をしたのだろうけど、いま思うと、私ってそんなにひどいワガママだったかなぁと、自分でもピンと来ない。とにかく私が母の理想とは違っていて、それが母的には「ワガママ」と称すべきものだったのではないかと想像する。
昔は自分以外にもそうされていた子を時々見かけたので、しつけ? のために当時はポピュラーなやり方だったのだろうけど、私も何度か外に締め出された。
泣き叫んでドアを叩いて、「ごめんなさい」「もうしません」とどれだけ言い続けても、絶対にドアのカギは開かない。
父が仕事から帰って来て、やさしく「どうしたの?」「怒られたの?」となだめ、「いっしょに謝ってあげるからもう泣くんじゃない」と私の手を引いて玄関に入る。母は何か父に言い、穏やかな雰囲気で何ごともなかったかのように私は家に入ることを許される。
どう怒られたかは覚えているのに、何を怒られたのか覚えてない。当時からわかってなかったのか、月日が経ち過ぎて忘れたのか定かじゃないが、いずれにしてもあの「お仕置き」にしつけの効果があったのか疑問だ。少なくとも私はそれによって、「父はやさしい、母はこわい」と認識しただけだった気がする。
さておき、母が褒めてくれたことがあったのも思い出した。
幼稚園のお遊戯会で、お姫様の役と悪い魔法使いの役があった。やりたい人〜! と先生が言って、お姫様には女子全員の手が挙がるけど、魔法使いは誰もやりたくない。先生の説得があって、何とか役は振り分けられ、私は魔法使いになった。幼稚園あるあるかもしれないが、どっちの役も5人ずつだ。
衣装の一環で、赤い手袋が必要だった。母は、例の皇室のような自分の洋品の中から赤い手袋を私にくれて、手首のところに名前を縫い付けてくれた。その作業をしながら、私が誰もやりたがらない魔法使いになったことを「えらい」と褒めてくれた。
いま考えると、ぼんやりした私がみんなと同じように我こそ! とお姫様に手を挙げたとも思えない。先生はあの手この手で子供たちが魔法使いに立候補したくなるようなことを言っただろうから、それに簡単に引っかかっただけのことじゃないかなぁと思う。
ともあれ、母は不人気の役を引き受けた(押し付けられた?)私を褒めて、楽しみにしてるからがんばりなさい的なことを言った。
座った母の周りに広げられていた裁縫道具、やさしい母、照れくさい気持ちの私、柔らかい陽ざしが差し込みほんわかした室内。そういう情景も記憶の中にある。
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