「今後」のこと。#30

入院する時、近所のかかりつけのメンタルクリニックの医師から、「今後どうするかよく相談して決めてきて」というようなことを言われていた。


私自身は、すっかり治して自宅に戻るのが自然な流れと思ってはいたのだけど、すっかり治るのか、また、治ったと思っても自宅で以前の環境に戻ったら同じことが起こらないかと不安に思わないでもなかった。

でも、最初はまさか「今後どうするか」の意味が、主に「自宅に戻らない方がいい」ということを大前提にしているとまでは思っていなかった。


そんな私にあらためて「今後」が突きつけられたのは、入院して1カ月余り経ったころだった。

ソーシャルワーカーが電話してきて、「自宅には戻らない方がいい」「また同じことになる確率が高い」と当たり前のように言う。


ということは、どういうこと?

「だいたいこういう場合は、高齢者のための施設に入られるケースがほとんどです」。

家族の誰かが同居することはムリと思っているのか、立場上、家族の負担を前提とする話はしないことになっているのかわからないが、とにかく最初から「施設入居」ありきなスタンスのようだった。

確かに私たちも、同居して付きっきりで世話をする環境は作れないため、それを打診されても申し訳ないという罪悪感を感じるだけだったろう。それにしても、ほかの選択肢はないのか?


そもそも母が同意するとは思えなかった。絶対に、治って家に帰るつもりでいるに違いない。

でも、夫や妹に相談すると、これから認知症も進みこそすれ治ることはないのだから、また今回のような症状が出ないかハラハラ過ごすより、誰か見守ってくれる人が常時いる環境に置いた方が双方のためによいのでは? となった。(#24で書いたように、民生委員の方も同意見だった)。


それならそれでいいけど、帰る気満々だろう母をどうやって説得するか。それから、そんなにすぐに施設の空きがあるものか? しかも、気に入るような所は人気も高くて空いてるはずもないのでは?

入院は3カ月まで。施設入居を説得して、気に入る施設を見つけてその空きを待つとしたら、その間はどうなるのか?


どう考えても問題山積——また、頭が痛くなってきた。


ともあれ、動き出さなければ何も始まらない。そのとおりの方向へ進むにしても、ダメという結論になるにしても、早く感触だけでもつかみたい。


というわけで、入院からひと月半あまりのタイミングで、病院に集まって「今後」について話し合うことになった。

看護師、ソーシャルワーカー、本人、家族の4者面談だ。こちらは私たち姉妹と私の夫が出席した。


始めに、本人抜きで家族の意向を確認された。「施設やむなし」という結論を伝える。

そのあと、面談室に母が呼ばれてきた。

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