認めたくない気持ち。#23

ついにこぎ着けた入院。

ベッドに案内されて、看護師さんがいろいろ説明しながら、同意書などを読んだり押印したりが始まった。

母はいちいち反発して、ほかの患者さんがいる大部屋で、大きな声で自分の主張を繰り返した。


病棟にはカギがかかっているので、売店に行くとか外出とか、看護師に言って開けてもらってください。

母「どうしてそんなこと(施錠)する必要があるの! おかしいでしょう。監禁するってことでしょ!?」

私「今はみんな(ほかの病棟)そうなってるんだよ(←ウソだけど)。外からあやしい人が入ってきて…っていう事件が起きるかもしれないでしょう? カギがかかっていた方が安全なんだよ。言えば出られるんだから問題ないでしょう?」

看「そういう決まりなので…出たい時はすぐに開けますから大丈夫ですよ」


貴重品は(希望があれば)こちらで預かることもできますが、ご自分で管理するのであればこちらのチェストのカギをお渡ししますので、カギの管理もお願いします。

母「自分のお金は自分で管理できます! なんでも預けたりカギかけたりって、そんなの必要ありませんから!」

私「必要ないならカギはかけなくていいし、お金は自分で持っててもいいんだから、一応(カギを)受け取っておこうよ」

看「。。。」


体操やレクリエーションや病気に関する講座などのデイケアをやっているので、ご自由に参加していただけます。

母「(デイ○○という言葉に過敏なので)そんなのやりません! 私は、年寄りに混じって歌ったり絵を描いたりとか、そんなことするつもりないですから! 必要感じてません!!」

私「ここには若い人もいるし、やりたくないならやらなくていいの。自由に、したいことだけしてていいから」

看「強制じゃないですから大丈夫ですよ」


お食事はあちらの食堂で摂っていただいても…

母「いえ、私はここでいいです! 一人で食べます!!」

私「わかったから。そうしよう」

看「。。。」


などなど。


万事が万事反抗的で、やっぱりやめる! 帰る! と言い出しそうでハラハラするやら、看護師さんやほかの同室の方に申し訳ないやら、生きた心地がしなかった。

以前、デイサービスなどを拒否した時もそうだったけど、どうしてこんなに突っぱねるのだろう、穏やかに断ればいいのにと思う。でもきっと、これが認知症というものなのだろう。

もしかすると、自分が認知症なのかどうか、不安だけどそう思いたくないというような軽度の段階では、「認めたくない」気持ちが強く働いて、必要以上にそうなるのかもしれない。


何とか所定の手続きを終え、持ち込んだ荷物を整理。りんごでもむいてあげようと用意してきた果物ナイフはお持ち帰りだし、爪切りも預けなくてはならない。昔よりずいぶん厳しくなってるんだなぁ、精神科だからなのかな? など、私もこの閉鎖空間にいると、ちょっと心細い気持ちになる。


心配で心配で、立ち去りがたい気持ちのまま、「またすぐ来るからね」と言って病院をあとにした。

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