やっとこぎ着けた最後の関門で…#21

振り出しも振り出し、ゼロどころか、いっそマイナスくらいの地点まで思いっ切り戻された気がしながら、かかりつけのメンタルクリニックに電話した。

結局ここに戻るなら、これまで一人で彷徨っていたつらい放浪は何だったのか!?

いや、まさか、ここからまた同じことの繰り返しにならないよね!?


電話に出たソーシャルワーカーに、保健師に言われて電話してる旨を伝え、自分で交渉しても入院先が決まらない、そちらの先生から紹介してもらうことはできないか、など窮状を訴えた。そして、今までダメだった病院名を全部伝えた。

彼女は、あまり積極的じゃない感じで「病院の所在地はどこでもいいんですか?」と言う。彼女に任せると行き来の不便な所になるから、自分で探した方がいいとでも言いたいのか。


いいです、とキッパリ答えた。また、これまでいろいろと書いたものを一部書き換えて、FAXを送ろうとした。でも、院長がFAXの機械を管理しており、書面を受け取るには許可がどうこうと面倒な話になったので、要望も状況説明も抜きで、ただただ任せるという形にした。


翌日、彼女から電話が来て、ある病院と連絡を取ったので、その病院のソーシャルワーカーと娘の私が直接話して、双方よければ入院ということになると思うと言われた。また断られるかもしれないので、過度に期待は持たずに電話。もうぬか喜びはしたくない。

すると思いがけず、積極的に何とかしてくれようとしてる熱意を感じた。ただし問題は、ベッドが空かないことだという。


結果、認知症患者のための病棟ではなくて、精神科に入ることになった。それだと3カ月しか入院できないらしい。

こちらとしては、なんでもいい、とにかく早く下剤をやめさせ、健康を取り戻させたい。それだけだった。


そしてついに、やっと、その日がやってきて、母を連れて行った。

診察では、「どこも悪いところはないが、便が出ないのでそれを治しにきた」と母。先生は、任意入院ということになる、帰りたいと思ったらいつでも帰れます、ここは山の上の郊外で近くに下剤を売ってる薬局がないから、病院から出て買いに行きたいと思っても一人では簡単に出かけられない、家族が迎えに来るまでは待ってもらわないとならないけどいいですか、などと言っている。

どうしてそんな余計なことを言うのか、ヤキモキした。ウソでもいいから、治るまで出られない、早くしっかり治してから帰りましょうって言ってくれないのか。


きっと、これは特別な入院であって、上記のようなことを説明して患者の了承を取る、あるいは本人の希望による入院であることを双方が確認する、ということをしなければならないんだろうと推測しながらも、キョトンとする母を見てハラハラしないわけにいかなかった。


その後、病棟の看護師が迎えに来て、精神科の閉鎖病棟に軟禁(?)。

自由な外出はできず、カギは看護師に開けてもらう、刃物はダメということで爪切りを預かられる、デイケアの時間があって自由に参加できる、着衣は、入浴は……長々と説明を受けて、書類を10枚くらい読んだり押印したりが始まった。


そこで母が、全身を硬直させたかのようなガチガチな態度で、すべてに反抗的な言動を取ったもんだから、下手するとこの時点で「ヤダ! 帰る!」と言うのではないかと生きた心地がしなかった。

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