また振り出しに戻る。#20

入院という最善と思われた解決策から、直前で引き剥がされた。

すでに折れていた心にトドメを刺され、どん底に沈んで泣いた。


それから何とか気を取り直して、介護相談センターが言っていた別の病院に電話をしてみた。こうなったら、遠かろうがどんなに不便な場所だろうが、かまわなかった。入院が決まった時のホッとした感覚がもう一度ほしくて、早くそのゴールに辿り着きたい一心だった。


電話したのは2軒だったが、1軒目はダメ。そして、2軒目で「検討してくれる」感触を得た。

ところが、折り返しの返事を待って、いざ電話がかかって来てみると「内科という部分で難しい」という返事。しかも、「うちよりも、○X病院さんの方がそういう分野が得意だと思いますので、そちらにあたってみてはいかがでしょう」というおすすめ先が、よりによって直前で入院を断ってきた例の病院だったというオマケつき。

「そちらにはすでに相談していて、直前で断られたんです」。

そのセリフを言いながら、また涙が出た。


かかりつけ医からもらったリストはあるけれど、これ以上どこに電話を掛けたらいいかわからなかった。全部に順番に掛けて、また書類を送って同じ話を繰り返しして…とやり続ける気力もない。さらには、リストを眺めていると、高齢者の長期入院の専門のようなところは、また「拘束具」の話が出そう、ここには内科はないだろう、など、ここまでの経験から結果が見えて来てしまう。

なにより、ヤミクモに掛けて跳ね返されるのをまた繰り返すには、心が疲れ過ぎていた。


せめて、このリストにある病院でも、そうじゃなくてもいいので、誰かうちの母の症状に合う病院をピンポイントで「おすすめ」してくれないか。

ワラにもすがる気持ちで、前回はトンチンカンな対応をされて終わった地域包括支援センターの保健師にもう一度相談してみようと電話した。


すると、立場上、どこかの病院をおすすめすることはできないと言う。ならば、リストを見て、それぞれの病院の特徴を客観的に教えてもらえないかと、食い下がった。この時、自分でもビックリしたのだけど、電話口で泣きじゃくっていた。

これまで、どれだけあちこち相談したか、いっこうにラチがあかず、あっちに訊いて、こっちに訊いてと次々たらい回し状態にされ、あと一歩まで行って突っぱねられ、もうこれ以上どうしたらいいかわかりません、と。助けてほしいです、と。

保健師も驚いたようだった。そして、なおも、かかりつけのメンタルクリニックに相談してみるのがいいと言うので、その結果で今の状態になってるんだと言った。


すると、保健師の方からクリニックに相談してくれることになった。もうなんでもよかった。交渉にしても相談にしても、自分でやれと言われたからやっていたのに、結局は素人(?)の一般人の私が何をやってもダメなんだとわかったからだ。


その日のうちに保健師から電話が来て、クリニックのソーシャルワーカー(病院リストをくれた人)に事情を説明しておいたので、こちらから電話するように言われた。


また結局、自分で電話か。「たらい回し」という言葉とともに、水のない状態で一人で砂漠でも彷徨ってるような図が浮かんだ。みんなそれぞれにオアシスはあっちだと教えてくれるけど、行ってみるとどこにも水はなかった、という。

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