不毛な闘い。#7

病院の下剤をどんどん大量に摂取して、それでも飽き足らずに市販の刺激性の下剤を複数買って来て、重複して飲むようになっていった母。


そこまで深刻になる前も、外出しない時でも外出前と同じように頻繁にトイレに通うようになっていて、昼間はざっと10回強くらい(8割方は「大の方」のつもりで行く)を数えていたのだけど、市販の薬を重複して飲むようになってからは1時間に2、3回行くようになってしまった。

夜中も、ひどい時は10回くらい起きる。


もう出る物がないのに、下剤のせいで腸がもよおすように動く。つまり、市販の下剤による慢性下痢状態で、当然そんなにトイレに行っても毎回出るわけもなく、すると出ない出ない…とまた薬を飲む、という悪循環になっていると思われた。


その後、病院の下剤はもらうのをやめた。結局は市販のも買って来てしまうので、さらに重複することになるからだ。


そのほか、病院からは、何度もトイレに通って、出ないのに便座に座ったまま長時間粘ったりしてると痔になると注意されていた。痔になると、その患部の感触を出口に引っかかった便だと勘違いして、悪循環になるということだ。


だから、私たちは母がトイレに行くのをある程度ガマンするようにと必死に働きかけるようにしたが、母の方もしまいには強い口調で反抗したり、止める手を暴力的に振りほどいて怒りながらトイレに行くといった強硬な態度をするようになり、とてもじゃないけど止めるのは無理だった。


お腹がグゥグゥと動いてもよおすから、トイレに行かずにいられない。

お腹の中に便が溜まって苦しいから何も食べられない。

だから、なんとしても出さなくてはならないんだ、と言い張る母。


出すものがないのに腸が動くのは下剤のせい、便秘じゃなくて下痢してるんだ、そっちを治さなくてはならない、このトイレ回数は異常だ、下剤を買っちゃダメ、飲んじゃダメ、と私たち。


何度も何度も何百回も、同じことを繰り返し言い合った。


ていねいに説明して、母も自分から「わかった、もう下剤はやめるね」と納得することもあるのに、トイレから出て来ると、さっきまでの会話はまったくなかったかのように「出なかったから、下剤飲まなくちゃ」と別人のような真顔で言うのを見て、壊れたおしゃべり人形を連想してゾッとしたこともあった。


もはや、すべて不毛だった。

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