突然降って湧いた「こだわり」。#4

初期認知症の母。

十年ほど続けて来た、娘たちによる生活支援つき一人暮らしが危うくなって来たのは、去年の秋くらいからだ。


そこに至る経過を振り返ってみる。


まず、いつからだったか、母はしきりと便通を気にするというか、そこに極度にこだわるようになった。


最初は、出かける前に3回くらいトイレに行くというのが、私たちの悩みの種だった。今思えば、かわいい程度の悩みだったのだけど。

とにかく、そのせいでなかなか出かけられない。トイレを汚すこともあったので、母の使ったあとをチェックしてきれいにして、さあ出かけよう!となると、「あ、もう一回行く」の繰り返し。これで最後とわかれば最後の一回だけ掃除すればいいのだけど、回数はまちまちでわからない。で、掃除するのに待たせていると、その間にまた行きたい!となってしまう。


今まで2回、出先で失敗(粗相)したことがあった。それで、ますます神経質になったようだ。


これでは時間通りに出かけられないので、30分くらい前に「もう行くよ」と私が今にも出かけそうな雰囲気を作って、そこから平均して3回トイレに行ってやっと出かける、という作戦を取るようになった。小さい子供連れのお出かけみたいなものだ。


ところがそのうち、出かける前のみならず、出先でも必ずトイレに行くようになった。ほんの近くのスーパーでも、買い物中に必ず行く。初めて行く場所では、最初にトイレの位置を確認しておかないとおちおち用事が足せない。ますます小さい子供と出かけてるみたいな感じになった。


トイレに行って戻ってくるたびに、モノは出てるのかと確認すると、出る時と出ない時があるらしく、本当に「気分」だけの時もけっこうあるのだなと私は思っていた。


でも、本人は「出る」と思って行っているので、出ない時は便が硬いからだと思い込み、だんだんと出るまでトイレで粘ったりするようになっていった。しまいには、乗り換えの途中の駅で、高速のSAで、30分も40分もトイレから出て来ないのがふつうになった。


外出が大変。もう、気軽には出かけられない。そんな感じになってから程なくのこと。


妹がいつものように母の家に行ったあとメールで、「便秘だからって、自分で病院に行って下剤をもらって来たみたいだよ」と言ってきた。

私はその時、自分で体調を判断して自分で病院に行くくらいの知恵と行動力がまだあるのか!とむしろ良い方へ解釈して喜んだくらいだった。


しかし、これが悪夢の始まりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る