第54話 久しぶりの我が家
コクセイ城を発った私たち一行は誰一人欠けることなく久しぶりの我が家へ帰ってきた。
タタラで待っていたシンとサキ、そしてシバ先生ももちろん一緒だ。
道中、強硬派が勝手な行動をした私たちに癇癪を起して襲い掛かってくるんじゃないかと危惧したけど、それはさすがに杞憂だったようだ。
でも全く油断できない。
錐使いは
私たちの計画を挫くために、いつ何時送り込まれてくるかわかったものではない。
深く息を吸い込むと意識を集中して心を落ち着かせ、とりあえずこれから考えなきゃいけないことに思考を向かわせる。
結局のところ、鬼人族との対話がうまくいったわけではない。
父が言うには和平交渉が最初からうまくいくとは思っていなかったらしく、ただ、爪痕は残せたということだ。
鬼人族との共存を考える人間がいること。
十五年前の戦で救われた命があり、それをレンギョウに知らせることができたということ。
その事実が鬼人族にとってどれだけの影響を与えるかは分からないけど、確実にこれまでとは違う状況を生み出すはずだという。
そういう意味では小さいながらも進展はあったと捉えるべきだろう。
そしてイエスタ全体の問題でもある間欠泉の出来事。
これまた父の推測だけど、やっぱりハクは間欠泉と関係ありと見ている。
そうじゃなきゃ人間が出たり消えたりできるはずないし、間欠泉から気が溢れ続けた説明が付かない。
とはいえハクが何をしたのかは全く分からないし、聞くに聞ける状態じゃない。
間欠泉そのものの調査は鬼人族が行うとのことだけど、多分何もわからないと思う。
変化があったとはいえ、それは人智を超えた現象だった。
仮説は立てることができるかもしれないけど、結論に至ることはないだろう。
そう思いながら左耳にぶら下げた薄緑色の丸い宝石を指で弾いた。
最初それはハクが握りしめ錐使いに奪われた後、レンギョウが奪い返して私に手渡した。
いつの間にか無くしていたと思ったら鬼人族が回収していたらしく、投げ渡された刀の柄の部分に括りつけられていたそれが、今は私の耳に静かにぶら下がっている。
間欠泉の調査に必要なものじゃないのかと思ったけど、その理由を知る相手は遠いかの地だ。
丸い形をしたその宝石のようなものは表面に不思議な模様が施されている。
かすかに見覚えのあるその模様を頼りに記憶を探っても検索に合致するものは見当たらない。
見間違いか勘違いの可能性が高いのでそれ以上は考えるのをやめたけど、とりあえず私が預かることになった。
消えていた鬼人族としての能力が少しだけ復活したきっかけかもしれないし、もしかしたら完全復活の可能性もあるというのが理由だ。
(そうなったら、もうここでは暮らせないよね。)
そんなことを考えつつ今はまだ目立たない額の膨らみに意識を集中した。
今となってはその角を意識するだけで吸収が自動的に行われ、体中に素早く満ちていく感覚を得られるようになった。
人間だったころ、というと変な感じだけど、吸収の練習を始めたころとは雲泥の差となった自分の体に、今更ながら驚きを隠せない。
小さく息を吐いて集中を解き、傍らに置いていた木刀を握って立ち上がった。
正眼に構えてゆっくり腕を振り上げてから素早く振り下ろす。
目には見えない小さなほこりが差し込んでくる朝日を受けて幻想的な光を放つ。
漂う空気を木刀が切り裂いて小さな渦を生み出し、小さな光が周囲に舞い上がった。
その光景を目の端に捉えながらハクのことを思った。
タタラでハクを見たシンとサキの表情を今でも忘れられない。
シバ先生をもってしてもどういう状況なのかわからないらしく、肩をすぼめて白旗を上げた。
だからといって放置できるわけもなく、ハクを離れに寝かせて昼夜監視させている。
息をしていないので死んでいるように見えるけど、死んだら体は徐々に腐っていく。
なのにハクは腐るわけでもなく、そのままの状態を維持し続けている。
生命活動もなければつついたり捻ってみたりの条件反射もない。
ただ、気だけが体中を駆け巡っている。
これは間欠泉で見た二羽の鳥と同じ状態に見えるけど、本当のところは謎だ。
最初から謎だらけのハクに、今更謎が一つ増えたところで驚きはしない。
いや驚く。
大いに驚く。
考えてもわからないこともある。
自己解決できるような疑問は疑問とは言わないんじゃないだろうか。
うっすらと汗をかき始めているのを感じながらひたすらに素振りをつづけ、タタラのナツカワ様にあったことを思い出した。
錐使いがハクを抱えていた時にタタラへ残してきた三人のことを考えて肝を冷やしたけど、ハクを除く三人が無事だったのはナツカワ様の力によるものだったらしい。
私たちが宿泊していた温泉宿のオクツ亭に踏み込んできたのはタツミ砦の兵士たちで、その兵士たちは謀反を企てている奴らがここに潜伏しているという情報を掴まされて乗り込んできたらしい。
その兵士たちの動きをいち早く察知したナツカワ様が私兵を動員して駆け付け、女将さんのミツハと協力して三人を保護したということだ。
その時はすでにハクは拉致された後だったらしく、その報告をしているときナツカワ様は見事なまでの土下座を見せていた。
やっぱりすごい人には見えない。
そのことを父は全く気にすることはなく、その代わり、もし依頼したいことができたら是非とも協力してほしいという約束だけ取り付けていた。
多分それは鬼人族との貿易拠点の建設依頼のことだろう。
それができたらカグラがその責任者となって舵を取るという話だったっけ。
いったいいつからそんな話になっていたのか。
(私・・・聞いてなかったのかな?)
移動の最中は修行のことでいっぱいいっぱいだったし、重要なことを聞き漏らしていたのかもしれない。
そう思った瞬間、大広間で父が放った一言が脳裏によみがえった。
カグラをレンギョウに差し出す。
それは・・・要するに・・・どういうこと?
「イロハ・・・あなたねぇ・・・」
頭の中をいろんな想像が走り回って目を回していると、ふいに入口の方から声が聞こえてきた。
そこには考え事の張本人であるカグラが立っていて、すぐ横の壁に私が持っていたはずの木刀が突き刺さっていた。
「稽古中に考え事なんて、危ないでしょ!」
「・・・ごめん。」
しょぼくれてその場に正座すると反省の言葉を伝えた。
カグラは壁に刺さった木刀を引き抜くと私の前まで歩いてきて目の前に置き、正面に正座した。
怒られると思ってうつむき気味に上目遣いでカグラを見ると、そこには心配そうな表情を浮かべたカグラの顔があった。
「何か、悩んでるの?」
そう聞いてきた声はやさしさに包まれていて、不埒なことを考えていた私は恥ずかしくなって顔が赤くなり俯いた。
「別に・・・」
「そう?ならいいんだけど・・・じゃあ、どうしたっていうの?稽古中とはいえ剣士が刀を手放すなんて。」
「それは・・・」
要領を得ず歯切れの悪い言葉にカグラは余計気になっている様子だ。
私の顔をしきりにのぞき込んで心配そうな表情を浮かべている。
でも父の言葉を聞いたカグラの態度はそのことを受け入れたものだった。
「あの話・・・本当?」
「あの話?どのことかしら?」
おずおずと聞いた言葉に対してカグラは小さな顎にすらりと細い指をかけて考え始めた。
あまりに抽象的過ぎて何のことを聞かれているのかわかるはずもない。
自分の言葉の少なさにがっかりしながら、質問の言葉を重ねた。
「・・・レンギョウに・・・その・・・もらって・・・」
なんで私が恥ずかしくなるのかわからないけど、すごくもじもじしていることだけは分かる。
その言葉と態度を見たカグラはすぐに何のことか察した。
「あぁ、私をもらっていただくという話のことね?」
そういうとカグラは割とあっけらかんと答えてきた。
いったいどういう心境なのかわからない。
だって自分の一生を決める大事な決断なんじゃないだろうか。
あの話は要するに婚姻のことだ。
状況からみて私たちが裏切らないようにするための人質という側面が強いけど、婚姻するということはつまり結婚するということで、結婚は婚姻と同じ意味で・・・
自分でも何を考えているのかわからなくなって、結婚の先のことを勝手に想像して更に顔を赤くして俯いた。
「え?ちょ・・・ちょっと待ってよ!」
何を想像しているのか理解したカグラが変な空気になっていることを察して、私の思考を停止させる。
「あのね、何を想像しているのか考えているのかわからない・・・、いや、分かる、あぁもう!この場合は分からないで通すけど!」
そこまで言うといったん言葉を切って少し横に目を逸らした。
変な考えに感化されたのか、カグラも少し赤くなっている。
口元に手を当ててコホンとわざとらしく咳をすると、まだ少し赤い顔を私に向けた。
「あの話・・・イロハにはしてなかったわね。」
そういうと普段と同じ表情に戻ったカグラの顔があった。
少しだけ目線を落として悲しげな感情を浮かべている。
「父上がどういう順番で話を切り出すか、それは相手の出方による部分もあった。ただどういう展開になるかは想像してたし、そうなった時の覚悟も決めていたのよ。」
「そんなっ!?」
声を荒げた私に向かってカグラは「落ち着いて」とすぐさま手を上げた。
そして私を射抜くように見定めると言葉を紡いだ。
「父上の娘として生まれたことには意味がある。使命を全うする責務がある。誰だってこの世に生まれたからには何かしらの使命を背負っているものよ。私も、そしてあなたも。」
「それは・・・」
カグラから告げられた言葉の意味を理解して二の句が告げられなくなる。
それがカグラの使命だというのなら、あまりにあんまりだ。
だけど黙り込んだ私を見るとカグラは笑って見せた。
「バカね。イロハが責任を感じる必要なんてどこにもないのよ。これは私が決めたこと。父上や母上に指示されたわけじゃない。父上がイロハを連れ帰った日、母上が命がけでイロハを救った日、私は姉になったわ。あなたを抱き上げて、その小さな手で私の指をつかまれた瞬間、自分の生きる道を決めたの。」
「・・・」
「みじめだなんて思わないで。哀れだなんて思わないで。私は必ずやり遂げるんだから。」
「・・・わかった。」
私の考えはカグラを否定するものだったんだ。
自分の信念を貫いて生きる。
私にもできるかな?
正面に正座したカグラが眩しくて目を細めた。
その眩しさに照らされて少しでも否定的な考えが浮かんだ自分が恥ずかしくなった。
「だから・・・その・・・あんまり変なこと考えないでよねっ!」
だから急に背中を向けたカグラから発せされた言葉が何を指しているのか理解できなかったけど、両耳まで赤くなっているのを見てまた不謹慎な想像が蘇り、頭に血が上って顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇
随分長いこと家にいなかったこともあり、帰ってきてから何日か経ってはいるもののセツの作る料理に毎回舌鼓を打った。
監禁中や療養中、鬼人族から出された食事は豪勢なものとはいえず、硬い穀物やイモ類といった栄養の偏りそうなものばかりだった。
不満がないと言えばうそになるけど、食事を抜かれることを思えば感謝こそすれ、嫌味なんて言えようわけもない。
その点、我が家ではふっくら炊き上がったお米に新鮮な野菜、お肉や汁物などなど食卓にいろんな食べ物が並べられる。
自分の前に配膳されたお茶碗を手に取ってお箸でつまんで口に運び、味を確かめるように何度も咀嚼する。
噛めば噛むほど甘い味が口の中いっぱいに広がって、やっぱり鬼人族のところで食べた食事とは雲泥の差があることを痛感した。
そして、それと同時に何とも言えない感情が湧き上がってきて、持っているお茶碗とお箸を机の上に置いた。
「イロハ様、お口に合いませんでしたか?」
濡れた手を前掛けで拭きながらセツが近づき、しゃがみこんで私の表情をうかがった。
心配そうにのぞき込んできたセツに首を振って否定を表現する。
「おいしい・・・」
寝たきりだった母も最近は調子がいいらしく、帰ってきてからというもの夕食を一緒に食べるようになった。
隣に座った私の表情を見て察したのか、膝の上に置いた手を優しく包んできた。
「優しい子ね。」
僅かに残っている左手の傷痕をさすりながら、その言葉の前につけられていたであろう「あんなに傷つけられたのに」を汲み取って母の手を握り返した。
確かに私たちは敵として刃を向け合い、兄妹なのに命のやり取りをした。
母も別に鬼人族の行いを責めたわけなじゃない
ただ実際に起こった事実と、その結果に対しての言葉だ。
潤沢とは言えない食料を分け合いながら生活している鬼人族たちから見たら、私たち人間の食生活は贅沢そのものだ。
置かれた状況の違いといえばそれまでだけど、その一言で終わらせてしまうには向こうの生活に長く浸りすぎてしまった。
「んぐ・・・んぐ・・・ぷはぁ。毎日食っても飽きないうまさ!ちょっと前の俺らからしたら考えられないよな、サキ?」
「うん、そうだねー。」
空気を読んだとは思えないけど、シンの言葉がその場の空気を柔らかくする。
同じ人間の中でも生まれた場所が違うだけで生活水準に大きな差がある。
そんなことを考えると余計にお箸に手が向かわなくなる。
「食える時に食っとかねぇとな!イロ姉ぇ、食べないんなら俺がもらうぜ?」
「ちょっとシン!意地汚いことしないでっ!足りないんならわたしのをあげるから・・・」
「プッ!」
もうどっちが上なのか疑わしい言葉を聞いて、沈んだ気持ちが消え去ると吹き出してしまった。
そしてお箸を力強く握るとシンに取られそうになった焼き魚を一気に口へ放り込んだ。
「あらあら、イロハ、落ち着いて食べなさいね?」
そんな私の姿を見た父が少し安心した表情を浮かべた後、真顔に戻って口を開いた。
「イロハの考えていることはわかる。そのことに心を痛めることも重要なことだ。だがそれだけでは何も変わらん。同情だけではな。お前が出された料理を食べなかったからと言って彼らの口に入るわけではない。」
「・・・ん。」
「何かを成したいと思うなら動くしかない。そして動くためにはしっかり食わねばならん。イロハが何を成したいか、それを決めた時に動ける体を作るためにも今はしっかり食べなさい。」
「ん。」
「そういう意味ではシンを見習わなければならんかな。」
最後にそう締めくくられると急にシンが立ち上がって手を腰に当てて胸を張った。
「聞いたかイロ姉ぇ!まぁ、これからはしっかり俺を見習ってだなぁ・・・いでっ!?」
「食事中に立ち上がるのは行儀が悪いわよ?」
横に座っているカグラが椅子をシンの膝裏に押し当て、無理やり座らされる形となったシンは盛大におしりを打ち付けた。
シンとサキが来てから我が家には笑顔が増えたように思う。
小さい子供がはしゃぐ姿を見ると元気がでる。
ちょっと落ち着きがないのは玉に瑕だけど。
「ちょっと・・・はしゃぎすぎたかしら・・・」
みんな笑いながら夕食を楽しんでいると、ふいに隣からかすれるような声が耳に届いた。
はっとして母を見ると少し苦しそうに胸を抑えて冷や汗をかいていた。
「ナナオ、無理はするなよ?イロハ、部屋まで送ってやってくれるか?」
「ん。」
すぐに立ち上がると母の肩を抱いて立ち上がらせ、後ろにおいていた車いすへ乗せた。
「大丈夫?」
「ええ、問題ないわ・・・」
そういって肩に乗せた私の手にそっと自分の手を重ねた。
セツを伴って食堂を出ると一直線に母の部屋へ向かい、布団の段取りをして寝付かせる。
少しだけ青ざめた顔を見て心配になり、布団の横に座って母の様子をうかがった。
「今日は調子が良かったから・・・頑張りすぎちゃったわね。」
「無理はダメ。」
「ふふっ、そうね。ごめんなさい。」
そういって少し目をつむり、小さく呼吸を繰り返した。
部屋の戸の隙間から天白の青白い光が差し込んで母の顔を照らしている。
青ざめた顔色が余計青く見えるようで、戸に手をかけて閉めようとしたとき母から声が聞こえた。
「戸は開けてくれない?なんだか今日は夜空がきれいにみえるから。」
「寒くない?」
「ええ、大丈夫。」
ロクシキから吹き下ろす風がないにしても、夏の夜だからと言ってバカにしていると風邪をひいてしまう。
まして母は気のめぐりが悪い体なのだ。
でも母は夜空が見たいと言って顔を外に向けた。
すこし頬がこけた顔を見て膝に置いていた手を握りしめた。
私を産むときに無理した結果だと聞かされていたけど、実際は自分の体を使って私の命を救ったと教えられた。
私が父に拾われなければ母もこんなことになることもなかった。
でも過去の出来事を変えることはできない。
それに母のしたことを私が否定するのは間違っているし、とても失礼なことだ。
すべてを飲み込んでやっとそう思えるようになった。
硬く握った手を緩めて、母が見つめる先の夜空を一緒に見つめた。
「ありがとう。」
「え?」
唐突に母から感謝の言葉が零れた。
何のことかわからず質問の言葉がこぼれると、続けて母が口を開いた。
「帰ってきてくれてありがとう。」
「・・・ん。」
優しい風が開け放たれた戸から部屋に滑り込み、私と母を包み込んで消えていく。
夜風は少しだけ肌寒かったけど、母は気持ちよさそうに目をつむって風の愛撫を受け入れた。
「・・・実はね、もう会えなくなるって思ってたのよ。」
突然の告白に驚き、なんでそんなことを考えていたのか疑問の視線を送った。
「前もって聞かされていたから。向こうにイロハのことを伝えるってね。そうなるとあなたも知ることになる。自分が鬼人族だということを。」
「・・・」
「向こうで暮らすっていうかもしれないでしょ?そうなると・・・寂しいわ・・・」
「・・・プッ!」
神妙な表情で何を言い出すのかと思ったら急に乙女じみた言葉が飛び出してきて、思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、冗談よ・・・いえ、冗談とも言い切れないわね。」
「え?」
「本当のことを知って苦しんだでしょう?嫌われるかもしれない、恨まれるかもしれない、いろんな事を考えたわ。私のしたことは本当に間違ってなかったのかって。」
「そんなことない!」
「そうね。今のあなたを見ていると断言できるわ。間違いではなかったと。でもやっぱり不安なものなのよ・・・ごめんなさいね、弱い母で。」
だんだん表情を暗くしていく母の顔を見て切なくなり、布団の中に手を突っ込んで母の手を強く握って引っ張り出した。
握った手は細くて何とも心もとない。
そんな母の手を私は力強く握った。
他人のために自分の命を賭けられる人が弱いはずなんてない。
母のお陰で私は命をつなぎ留め、ここまで生きてこられたんだ。
「母上は最強。父上を支えてカグラを産んで、私の命も繋げてくれた。何も間違ってないよ・・・本当に、ありがとう。」
両目でしっかりと見つめ、一人用の布団に無理やり体をねじ込ませるとすり寄った。
強引に入ってきた娘に母は「こちらこそ、ありがとう」というと頭を優しくなでてくれた。
母のぬくもりが心を包み込み、気持ちよくなったとたん睡魔に襲われて意識が消えかかっていく。
母の手は私が寝付くまで頭をなで続けた。
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