第52話 明かされる真実2

真実とはいつも喜びを与えてくれるものではない。

父から告げられた真実という名の現実をどう受け止めていいのか分からない。

床に落ちた父の手を呆然と見つめ、膝の上に乗せている父の顔へ視線を動かした。

流れ落ちる涙が父の顔に滴り、頬を伝って消えていく。

何の反応も示さない父の顔に覆いかぶさり、ぐちゃぐちゃになった感情をその胸にぶつけた。


「私は!・・・何者・・・なのっ!?これから・・・どうしたらいいのっ!!教えて・・・教えて・・・よ・・・」


誰も何も言ってくれない。

この世に一人取り残されたような孤独が私の心に広がっていく。

この真実を私はどう受け止めたらいいの?

これから先、何をしたらいいの?


「分からない・・・わからないよ・・・誰か・・・教えてよ・・・」


その時、父の胸の奥から小さな音が聞こえた。

吹けば消えてしまいそうな、その小さな灯のような鼓動がまだ父が死んでいないことを告げていた。


「まだ生きてる!!」


がばっと顔を起こしてカグラにそのことを伝えた。

でもカグラの表情は暗いまま顔を横に振った。


「ごめん・・・イロハ。これ以上は・・・」


もう手の打ちようがない。

涙目でそう続けられようとした瞬間、レンギョウから怒声が響き渡った。


「貴様らはそろいもそろって・・・ふざけるなっ!」


そういうとこちらに向かって歩きながら五鬼将の面々に指示を飛ばす。


「絶対にクルスを死なせるなっ!どんな手を使ってでもだっ!すべて白状するまで勝手に死ぬことは許さんっ!」

「承知しました!」


それぞれがすぐさま行動に移ると城内に伝令が伝わっていく。

歩み寄ってきたレンギョウが土気色に変わっていく父の顔を見て憎々し気に舌打ちを鳴らした。


「貴様!さっきの術、まだ使えるのか!?」


唐突に耳元で大声を出されたカグラは涙目のままレンギョウに向き直った。

打ちひしがれているところに罵声を浴びせられてカグラの言葉にも棘がたっていた。


「使えます!ですが見ての通り外傷の治癒のみで毒素の中和はできません。」


それを聞いたレンギョウはフンと鼻を鳴らした。


「それでよい!今すぐやれ!」

「ですから!外傷を治癒しても毒が・・・」

「それは俺が焼いてやる!早くしろ!手遅れになっても知らんぞっ!」


疑心暗鬼になりながらもカグラは一縷の望みにすがる様に祝詞を上げた。

腹部に押し当てた手から暖かい光が零れだし、徐々に父の体を包み込んでいく。

それを確かめるように見つめていたレンギョウがぶしつけにカグラの背中に手を当てた。

驚いたカグラが姿勢を崩しそうになって術の光が弱まる。


「術に集中しろ!今から俺の炎を貴様に注ぎ込む。その力を使って貴様の術でクルスの体に送り込め!その道ができたら後はこっちで何とかしてやる!」


言い終わるとレンギョウから溢れ出した熱気がカグラの背中に当てた手に集まっていく。


「ンンッ!」


背中に集中した気が次第にカグラを包み込んでいく。

強烈な熱気に包まれたカグラが苦しそうな声を上げて額に汗が浮き始めた。

しばらくすると今度はその気がカグラの手に集まり、父の体を包んでいた光と融合してうっすらと赤みがかっていく。


「いくぞっ!気を抜くなよ?」


気の道ができたことを確認したレンギョウは大きく息を吸い込むと同時に吸収を行い、自らの体に気を溜め込んだ。

そしてそれを徐々に熱気へと変換させてカグラに注ぎ込んだ。


「アアッ!」


またしても苦しそうな声が上がり、苦悶の表情を浮かべて必死に意識を保とうとしている。

まるで燃え盛る炎に包まれたかのような熱気は近くにいる私にも伝わってくる。

それを全身で受け止めたカグラは受け取った気を自分の術へ乗せると父へ送り込んだ。

直後、父の体から黒い煙のようなものが立ち上り始め、しばらくすると土気色だった顔色に赤みが差してくるのがわかった。


「カグラ!」

「え、ええ!」


カグラは苦しそうな表情を浮かべていたけど、父の顔色を見て安堵の声を上げた。

苛烈な炎の気はしばらく父を包み込んだ後、ゆっくりと鎮火するように収まっていった。

術を解いたカグラは肩で息をしながら父の様子をうかがった。

私はすぐさま父の胸に覆いかぶさって心音を確認した。


・・・トクン・・・トクン・・・


小さいながらもさっきよりは力強い鼓動がはっきりと聞こえてくる。


「父上っ!?鼓動が戻った!」


そう叫ぶと同時に大広間へ鬼人族がわらわらと集まってきた。

担架を持った大柄の鬼人族が父に駆け寄ると、一瞬怪訝そうな表情を浮かべた後すぐさま父を担架へ乗せて移動を始めた。

立ち上がったカグラも術の疲労を見せることなく後を追い、私も急いでそれに付いていった。

父を乗せた担架は大広間を抜けると城内を駆け抜け、目的の部屋の前まで移動すると勢いよく戸を開けて中へ入っていく。

戸の両側に武装した兵士が一人ずつ立っていて、中に入っていく私たちを目で追ってきたけど入室を止められることはなく、ただ警戒を解くことはなかった。

運ばれた先の布団に父を寝かすと、待ち構えていた医療班の面々が手早く治療を施していく。

あまり勝手なことができない私たちは聞かれたことにこたえるくらいのことしかできなかったけど、毒が消えた父の体はそれ以降大きな問題がおこることはなく順調に回復していった。


◇◇◇◇◇


あれから一週間がたった。

父の体は傷口こそ痛々しく跡を残しているけど上体を起こせるまでに回復し、治療に詰めていた鬼人族も今はいなくなって家族三人水入らずとなった。

ただ私の心の中はというと、父が命を取り留めたことを安堵する気持ちと、これからどうしたらいいのかという気持ちがせめぎ合っている。

予後がいいとはいえ相当な無理をしてここまで駆け付けた父の体力はかなりすり減っている。

いろいろと聞きたいことはあるけど、無理させて悪化させるわけにはいかないので父の口から話しがあるまでぐっと我慢することにした。

とはいえ私がカンバラ砦を飛び出してからどうしていたのか気になったので、その点はカグラから話しを聞くことにした。

父が寝息を立てていることを確認したカグラは睡眠の邪魔にならないよう、部屋の隅に移動すると私を招き寄せ小さな声でことの顛末を教えてくれた。


私が砦を発ってからも継続して治療を受け続け、カグラとハクは比較的早い段階で治療を終えた。

父は外傷こそ治癒するけど毒の影響で完治には至らず、一進一退が続いた。

人間を砦に滞在させていることや、まして治療させられる点について鬼人族にも思うところはあったと思う。

だけど危害を加えてくるようなこともなければ治療の手を抜くようなこともなかったという。

こればかりはレンギョウに感謝しなければならない。

そんな治療の日々が続いているとき、同室で意識不明となっていたハクが急に光の粒になって消えてしまったというのだ。

それまで何の兆候もなく、話しかけても無反応だったハクの消失に全員が驚き、警戒を強めるとともに周囲の捜索が開始された。

そのことをコクセイ城へ伝えるために伝令を送り、そして何日か経過した後、コクセイ城からも伝令が到着した。

コクセイ城から届いた情報には錐使い討伐の報告と間欠泉の変化について、そしてイロハの無事と白髪の男を捕まえたことも記されていた。

姿を消したハクが間欠泉に現れたことや、そこで起きた異変など調べることは山ほどあるけど、まずは合流してこれからのことを今一度話し合わせてほしいという父の申し出を受けて、急遽コクセイ城へ足を運んだとのことだった。

その時点で父やカグラが何か企んでいるのではないかとか、疑われる点はいくらでもあったと思うけどコクセイ城まで護送してくれたというのだから、よほど恩を仇で返すような真似をしたくなかったんだろう。

私のことは無事だという情報しかなく、その無事がどういう状態を指しているのかまでは記されていなかったので、二人ともそれは心配したと言われて少し心が暖かくなる。

ただ、和平交渉とは別にイロハに関する真実をどう伝えるべきか、父は最後まで悩んでいた。

真実を告げることでイロハを傷つけるだけになってしまうことを何よりも恐れていた。

そこまで話したところで父が目を覚まし、同時に呼びつけられる。


「レンギョウ殿を呼んでくれ。」


その指示を受けたカグラは素早く立ち上がると戸の外に控えている兵士に声をかけ、そのままその兵士と連れだって消えていった。

その背中を見届けると父は体を起こして私の顔を直視してきた。

父から向けられる視線に今まで感じたことのない居心地の悪さを感じて視線を逸らし、それが嫌味と受け取られないよう上体を起こした父の体を横から支えるように移動した。


「嫌われてしまったか・・・」


父の口から消え入るような声が零れ落ちる。


「そんなこと!・・・ない・・・」


はっきりと最後まで言い切れず、自分の心の弱さを痛感してしまう。

父はそんな私の心境を見透かすかのように力ない笑みを浮かべた。


「無理をする必要はない。謝っても償いきれない嘘を塗り固めてきたのだ。今更許してもらおうとは思わんよ。ただ・・・」


そこでいったん口をつぐむと虚空を眺めて目を閉じ、どこか祈るような面持ちで言葉を紡いだ。


「命を懸けてお前を守った二人の母のことだけは・・・恨まないでやってほしい。」


私を助けるために身を挺した鬼人族の母のことはわかる。

でも私を生んで体調を崩したと聞かされた人間の母の方は嘘の話だけど、体調を崩して床に臥せっぱなしなのは事実。

いったい何があったというんだろう。

そんなことを思案していると廊下を歩く足音が近づいて部屋の前で止まった。

兵士が姿勢を正したのか鎧のこすれる音が聞こえ、そのあとすぐ戸が開いてレンギョウとハクキを連れたカグラが戻ってきた。

この二人とは大広間で顔を合わせて以降、姿を見せなかった。

十五年前の惨劇を聞いた彼らの思いがどんなものなのかを想像することはできても本心を知ることはできない。

当事者である私に至っては記憶もないのでレンギョウやハクキに対して何を思えばいいのかもわからない。

気まずい空気が漂い始めたところで父が口を開いた。


「レンギョウ殿、そしてハクキ殿お呼び立てして申し訳ございません。そして無礼な姿勢、お許しください。」


そういって頭を下げた父に対してレンギョウは少し離れた場所に腰を下ろした。


「建前も治療の礼もはいらん。さっさと用件を申せ。」


何ともレンギョウらしい言葉が飛び出してきた。


「ありがとうございます。本日は私からの話というより、そちらから聞きたいことがあるのではと思いまして。少々聞き苦しいところもあったと思いますが重要な点についてはお伝えいたしましたので。」

「ならば洗いざらい白状してもらうぞ。」


そういってレンギョウはちらりとこちらを見るとすぐに父へ視線を戻した。


「貴様の話が事実だとして、なぜ連れ帰った?」

「それはあの場が戦場であり、隠すことはもちろん鬼人族側へお渡しすることも難しかったからです。あの時すでに鬼人族側は撤退を行っており周囲にはおりませんでした。それに人間である私が乳飲み子など抱えていたらどんな間違いが起こるかわかりません。」

「・・・」

「それにあの子は投げ出された衝撃で頭を打っており意識不明の状態で一刻の猶予もありませんでした。連れ帰った判断に間違いはないと心得ます。」

「ならば落ち着いた頃合いを見計らってこちらへ引き渡すべきであろう?」


父の話が全部納得できるわけじゃないだろうけど、落ち着いた様子のレンギョウがかぶせる形で父に問いかけた。


「それは確かに考えました。前長、奥方様そして赤子まで殺されたとあれば鬼人族もただではおりますまい。そこへ実は生きていたと言われたら即座に打って出てくるはず。互いの兵は消耗しきっており戦を重ねればどちらかが滅んでしまう可能性がありました。」

「そのような言い訳を!」

「落ち着けハクキ老!」

「しかし・・・」


立って話を聞いていたハクキが激しい剣幕で父の言葉を遮るとレンギョウにたしなめられた。

レンギョウは自分の中に発生した疑問を一つ一つ潰していくかのように質問を重ねていく。

そして小さくため息を付くと何かを思い出すかのように目を閉じ、そしてゆっくり目を開けると最後の質問を投げかけた。


「最後に一つ。・・・こいつの髪はなぜ黒い?妹はおふくろと同じ緑色だった。これをどう説明する?」

「確かに!若は前長と同じ赤、奥様は緑色でしたな。黒とはいったい・・・」


レンギョウの指摘にハクキも激しく同意した。

そういわれて唯一の記憶に現れた女性の姿を思い出した。

確かに美しい緑色の髪だった。

でも私は真っ黒だ。

私がレンギョウの妹だというなら髪の色の矛盾が説明できない。

父はその問いに答える前に私をしばらく見つめ、そして何を言うわけでもなくレンギョウに向き直ると口を開いた。


「お答えします。それは我が妻、ナナオの影響によるものです。」

「どういうことだ?」

「あの日、私はこの子の存在を誰にも悟られずに家に連れ帰りました。これは私が後方支援部隊だったことが功を奏したと言えるでしょう。補給物資の中に匿い台車を全力で走らせ、あらゆる手を尽くして人目を避けながら家に戻りすぐ妻に診せました。折良く妻は医療を学んでいたので。そこでわかったことがありました。このままでは助からないと。」

「なに?」


一番の当事者である私のことを話しているのにどこか他人事のように聞こえる。

それは自分の記憶にないことだからなのか、どこかで事実を受け入れたくないのか、あるいは人間として生きていきたい願望からきているのか分からない。

そんな私の葛藤を無視するかのように話しが前へ進んでいく。


「状態は最悪でした。投げ出された衝撃で頭蓋骨は割れて片肺も損傷。外傷こそ治療で何とかなるものの手足の骨折や内臓への傷が深く、生きていることが奇跡のような状態でした。このままでは確実に死ぬと告げられ、私は妻に頭を下げました。何としても救ってほしいと。」

「・・・」

「妻は二つ返事で答えました。もちろんです、と。」


だんまりを続けているレンギョウに向かって父は落ち着いた声で話をつづけた。

幼かった私は気の流れをうまく制御することができないこともあって治癒術の効果が薄かった。

とはいえ鬼人族特有ともいえる肉体の強靭さは持っていたので、そこにすべてを賭けた。

母は自らの体に存在する気を私の体に繋げ、すべての気を置換する術を行使した。

その術が具体的にどういうものなのかは分からない。

ただその結果、私の気は母のものと入れ替わり、気の巡りによって私の体は回復に向かった。

その時、鬼人族としての力を失ったのか、私の髪の毛は黒に染まった。


「そして妻は寝たきりとなりました。」


父を支えていた私の体はいつの間にかブルブルと震え始めていた。

一歩間違えれば死んでしまうかもしれない。

なんでそんなことをしたのかわからなかった。


「なんで・・・赤の他人の・・・敵の私に・・・そこまで・・・」


いつの間にか父の体を手放すとふらふらと立ち上がって後ずさった。


「分からない・・・よ・・・」


そういいながら壁際まで行くとペタンと腰を落とした。

人間と鬼人族。

敵同士で幾度となく繰り返してきた殺し合ってきた。

なんで人間の父と母が命がけで鬼人族である私の命を救うのかが分からない。

あれからずっと考えてきた。

そのたびに思考の袋小路へ迷い込んで暗闇の中へ落ちていった。

答えのない問いに何度も心を折られ、もう何も考えたくなかった。

その時、ふいに暖かいものに包まれたような気がして顔を上げると、そこにはカグラの顔があった。


「あなたが眩しかったからよ。」

「・・・え?」


カグラから発せられた言葉の意味が分からなかった。

疑問の声を上げると、震える体を更に強く抱き寄せられ、力強い声が私の心を震わせた。


「戦場は命が失われていく場所。そんなところに命の息吹ともいえるあなたの存在はまさに光そのもの。」

「ひかり・・・」

「術が成功してあなたが大きな声を上げて泣いたとき、母上は心の底から喜んで涙を流したわ。そして私に言ったの。『しっかり面倒を見てあげてね、お姉ちゃん』って。」


そう続けたカグラの瞳には涙が溢れていた。

そしてその涙が私の顔を濡らしていく。


「その時、私の心は決まった。父上、母上とともにこの命を守る。この光を決して消させはしないと。私の妹には誰も手を出させない!」


私の頬に新しい涙が溢れていた。

それはカグラのものではなく、私の瞳から溢れたものだった。

不安だった。

自分が鬼人族であること。

みんなとは血がつながっていないこと。

でも本当は分かっていた。

心の底では分かっていたのに、自分の心の弱さがそれを否定していた。


「ご・・・めん・・・なさい・・・ありが・・・とう・・・っ!」

「ごめんねイロハ・・・全然お姉ちゃんできてなくて・・・」


最後まで家族を信じられなかったことへの謝罪が口から零れ落ちた。

そしてこれからも家族でいさせてくれることへの感謝。

父に拾われてよかった。

母に救われてよかった。

カグラの妹でよかった。

私はそのすべてに感謝して泣いた。


「我が妹はあの日に死んだ。」


その一部始終を黙ってみていたレンギョウが唐突に口を開いた。


「やはり貴様は我が妹リンではないっ!人間の・・・クルスの娘イロハだっ!」

「若っ!・・・いったい何をっ!?」


そして勢い良く立ち上がるとそう叫び、こちらをにらみつけてきた。

その言葉を聞いてハクキは驚きの声を上げた。

確かにすべて父の妄言と言えなくもない。

根拠もなければ証拠もない。

だからといって、父が命がけでやってきたことすべてを否定されて頭に血がのぼった。


「わからずや!!」

「何と言われようが貴様などがリンなわけがないっ!生かしておいてやるだけ感謝するんだな!治療が済んだらあの白い奴ともども城から消えてもらう!恩を仇で返そうなどと考えぬことだっ!」


そういうとレンギョウは踵を返して部屋を出ていった。

ハクキは動揺を隠せない様子で部屋を出ると、廊下に立っている兵士に見張りを続けるよう厳命すると姿を消した。

直後、本調子とは程遠い状態の父はやはり無理が祟ったらしく、すぐに布団へ倒れ込んだ。


「父上っ!」

「心配する必要はない。」


そう言って駆け寄った私を見つめ、申し訳なさそうに目を閉じた。


「ナナオはたしかにお前の母ではない。だが自らの命を差し出してでも構わないというその覚悟は本物だ。私のことは恨んでもらって構わないが、ナナオのことは信じてやってほしいのだ。」


そう言うと父は私をまっすぐ見つめた。

自分の命を縦にして守った母。

自分の命を削って生を繋いでくれた母。

今更恨むなんてことできるわけがない。


「わかってる・・・だからみんなで家に帰ろ?」

「そうだな。」


そう言って父の胸にすがりついた。

父の胸は暖かく、心の中のわだかまりが雪のように溶けていくような感覚に包まれた。

もう過去に囚われたりしない。

これからはちゃんと前を向いて、他のことに惑わされないようにしよう。

そう心に刻み込んだ。

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