第49話 覚醒

 あれはいつの出来事だろう。

 全く身に覚えがないけど妙な既視感に襲われる。

 でもこの光景はどこか見覚えがある。

 顔に飛び散った熱くて赤い液体を指先でなぞるように掬い取り、それが血液であることを理解する。

 その血と目の前に立ちふさがる大きな背中を交互に見て私の中の時が止まった。

 突然体中の痛みが消えると胸の奥が熱くなり、続いて頭が割れるように痛み始める。

 見覚えのない景色が、あるはずのない記憶が頭の中を駆け巡りこの光景と重なり合っては消えていく。

 まるでこの光景と一致する記憶を探すかのように。

 激しい頭痛に頭を抱えていると、不意にレンギョウの声が聞こえてきた。

 それはこんな状況にあっても勝利を諦めてない力強い声だった。


「ふ・・・、待って・・・いたぞ・・・この瞬間をっ!」

「負け惜しみを!!」


 レンギョウはそういうと錐使いの首筋を掴み、反対の手にありったけの力を込めた。


「貴様!わざと!?」

「そろそろ幕を下そうじゃないか。」


 次の瞬間、鈍い音とともに錐使いから憎しみの籠った叫び声が上がった。

 頭痛の影響もあってレンギョウの背中の向こう側で一体何が起きているのか考えることができない。

 そんな状況の中、目の前でレンギョウの背中から生えていた黒塗りの手が引き抜かれ、それと同時に振り返って何かを手渡してきて耳元で呟いた。


「お前が・・・やれ・・・」

 

 そういうとレンギョウは私の横をすり抜けるようにして地面に倒れ込んだ。


『ドクン・・・』


 心臓の脈動がやけにうるさい。


『ドクン・・・ドクン・・・』


 その脈動とともにある一つの光景が、聞いたこともないはずの声が、残像効果を持たせた漫画のように浮かび上がって再生される。


『生きて・・・』


 あたり一面火の海で血まみれの女の人がこっちを見て手を差し伸べている。

 毛先が黄色く変化した深い緑色の長い髪。

 秀麗な顔立ちに浮かんだ慈愛に満ちた表情。

 透き通るような美しい声。

 次の瞬間、ひと際大きな心臓の鼓動とともに胸の奥の何かが弾ける音が聞こえた。


「あ・・・あああ・・・あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 突然言葉にならない声が口から漏れ出した。

 頭痛は一層その強さを増し、消えていた体中の痛みが思い出したかのように疼き始め、筋肉という筋肉が激しく痙攣を始めた。


(知ってる・・・私はこの人を・・・知ってる・・・)


 激痛に視界が歪み、はじけ飛んでしまいそうな頭を両手で抱えて身悶える。


(知ってる・・・のに、思い・・・出せない・・・)


 焦りや戸惑い、怒りや悲しみといった感情が溢れ出して渦を巻いて考えがまとまらない。


「許さん・・・許さんぞ・・・貴様・・・らっ!!」


 意味不明な激痛に苛まれている中、怒りの黒い炎を滾らせた錐使いが呻き声を上げた。

 見ると腹部から激しく出血し、いくつかの臓物がはみ出している。

 絶命していてもおかしくないほどの損傷にも拘らず、怒りに染まった双眸が怪しく光って憎しみと殺意を放ってる。


「止めを・・・刺せ・・・」


 ゆっくりとこっちへ近づいてくる錐使いの足をレンギョウが掴んで苦しみの声を上げた。

 錐使いは忌々しそうにその手を蹴り払い、顔を蹴り上げて転がしたあと懐から細長く尖った黒塗りの錐を取り出した。


「やめて・・・」

「そんなに死にたいのか・・・なら貴様から殺してやるっ!死ねぇーーーレンギョウーーーー!!」


 口元を引き攣らせた錐使いが狂気じみた叫び声とともにその手に持った錐をレンギョウの心臓めがけて振り下ろした。


「やめてーーーーーー!!!」


 叫ぶと同時に右手が、いや、レンギョウから手渡されたあの宝石のようなものが激しく発光したかと思うと、今までに感じたことのないほどの気が膨張して体の中に流れ込んできた。

 その気は周囲に溢れていた錐使いの邪気を吹き飛し、なおも膨張を続けて収まる様子もない。

 その間にも体の中に無理やり膨大な量の気を送り込まれて、細胞の一つ一つが泡立って沸騰しているかのような錯覚を覚える。


「おのれぇぇぇぇーーーーー!それはぁ俺のものだぁぁぁーーーー!!」


 怒りに染まった錐使いは吹き荒れる嵐の中、黒い霧を纏いなおすと邪霊憑依じゃれいひょういを発動して龍の首を生み出し、忍刀と錐を持って猛然と突っ込んできた。

 鳴りやまない鼓動、止むことのない激痛、それらが頂点に達したとき、突然頭の中に声ともいうべき音が聞こえてきた。

 それは聞いたことのないだったけど、何を伝えたいかはその気の流れで理解できた。


『・・・の慈悲よ・・・受け取り・・・』


 その瞬間、宝石から溢れ出た気が変化を始めた。

 無理やり送り込まれていた気の流れが穏やかになると、ある種の規則性に基づいて体中に広がっていく。

 そして胸の奥に集まると壊れた何かを包み込み、同時に体中の細胞が息を吹き返したかのような感覚を覚える。

 それはまるで本来の姿に戻ったとでも表現すべきだろうか。


(そう・・・か・・・)


 引き延ばされたような時間の中、痛みと鼓動が徐々に引いていき、ある一つの答えに到達して思考が鮮明になっていく。


(私・・・人間じゃないんだ・・・)


 そう思った瞬間、目の前に迫った錐使いが両手の武器と黒い龍を操って波状攻撃を仕掛けてきた。

 その攻撃に合わせるように私は左手をゆっくり前に突き出した。


「き、貴様!鬼人・・・族・・・なのか!?」


 突き出した左手の前に風の膜で出来た障壁が生み出され、すべての攻撃を無効化すると錐使いから驚きの声が上がった。

 そう聞かれても私には分からない。

 一つ言えることは人間ではないということだけ。

 ただ、鏡を見てないから正確にはわからないけど、額の両側に今までにない違和感を感じるのは気のせいではないんだろう。

 角。

 多分、今私の額には角がある。

 だから錐使いはそう言ったんだろう。

 鬼人族なのか、と。

 何で角があるのかは分からない。

 見たことも聞いたこともない記憶が何であるのかも分からない。

 だから分かっていることだけに集中する。

 離れた場所で気を失っているハクとレンギョウを交互に見て、静まり返った心にさざ波が立って髪の毛が逆立ち始める。


「おまえだけは許さない。」

「この・・・化け物がぁ!」


 風の障壁を食いちぎらんと龍が口を開けて噛みつき、少しずつ気を相殺していく。

 しかし左手から発する気が消えた障壁を再生させて錐使いの猛攻を押し返した。


「それさえあれば・・・まだ好機は・・・あるのだぁぁぁぁ!!!」


 執拗に右手の宝石らしきものを奪い取ろうと足掻いている姿に憐みの目線を送る。


「そんなに欲しいんなら、どうぞ。」


 そういうと大穴の空いた腹部に拳を突っ込んで手を開く。

 絡みついてくる臓物と何とも言えない感触に嫌悪感を感じてすぐに手を引っ込める。


「馬鹿めっ!自ら手放すとはな!これで皆殺しだ!!」


 そういうと錐使いは血の滴る腹部を抑えながら再度術を発動させた。


哭呪印こくじゅいん邪霊憑依じゃれいひょうい!」


 両腕を天高く突き上げて盛大に叫び声を上げ、それからしばらくの間静寂が訪れる。

 しかしその静寂が術の発動によって破られることはなかった。


「な、なぜだ!なぜ術が発動しない!?」

「それは・・・もう眠った。」


 ひどく狼狽する錐使いに私はいたって冷静に答えた。

 そう、あの時、あの声が聞こえたあと、この宝石から気が溢れてくることはなかった。

 それはまるで眠りにつくように静かに消えていった。


「ふ・・・ふ・・・ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」


 風の障壁を削り取るために気を消費してしまい、最早残されたのはその肉体のみ。

 発狂を始めた錐使いが口元から涎をたらしながら瞳に狂気を浮かべた。


「ふっ、ふっふっふっ・・・わーーーはっはっはっ!・・・よかろう、最早この世に未練など・・・ないっ!」


 そういうと外套の端を千切って気で撚り合わせた黒塗りの針を作ると、おもむろに自分の首筋へ突き立てた。


「おわり・・・だ・・・すべてを・・・滅ぼしてやる・・・」


 上空を見つめてうわごとのように呟くと、錐使いの気の流れに変化が訪れる。

 滲み出ていた黒い気が体の内側に吸収されていくと同時に、被っている外套が溶けるように体にまとわりついていく。

 今度は首筋に刺した黒い針から気が放出され、全身に蠢く外套の糸くずへ吸い込まれて体と同化していく。

 その過程で肉体が腫れあがる様に肥大化すると同時に異臭を漂わせながら腐り落ちていく。

 腐り落ちた肉片が外套の糸くずによって分解されて肉体へ戻っていく。

 その異様なまでの術によって腐敗と成長を続け、最早人間の姿を維持できなくなって蠢く肉塊となり果てた。

 見るも無残に変わり果てた錐使いは肥大化した肉塊の一部を触手のように尖らせると、鞭のようにしならせて打ち込んできた。

 それを風の障壁で受け止めると、気を込めて右手を振り上げた。

 直後、一陣の風が巻き起こると巨大な刃を形成して肉塊を両断する。

 しかし、両断された肉塊は時間がたつと融合してまた一つの塊となって消滅することはなかった。


(厄介・・・)


 心の中で呟くと吹き飛んで舞い上がった外套の切れ端がハクやレンギョウに降りかかり、途端に焼けるような匂いがして衣服や皮膚が溶かされた。


「もとより持久戦は不利。」


 刀はハクをかばうときに投げて以来見つからない。

 かといってレンギョウの太刀では大きすぎて使えない。

 あるのは私の体だけだ。

 そして錐使いの肥大化の速度を考えると、この空洞を埋め尽くすのも時間の問題だろう。


(今ここで止めないとハクもレンギョウも・・・)


 自然と体に力が籠り、それと同時に今まで存在しなかった器官が機能し始める。

 頭が熱を持つような錯覚とともに周囲の気が角に集まり、その角の根本から全身に満たされていく。

 初めての感覚だけどなぜかとても懐かしく感じる。

 なぜ私が吸収の能力を使いこなせるのか、今はっきりと理解した。

 蓄積された気が全身の筋肉を活性化させると同時に風を纏って地面を蹴った。


(もうだれも・・・傷つけさせない!)


 肉塊が無数の触手を生み出して周囲を無作為に破壊し始めた。

 姿勢を低く前傾姿勢のままその触手を軽い身のこなしで躱して接近すると、下段に構えて腕を振り上げた。

 直後、肉塊の一部が鋭利な刃物で切り裂かれて上空に舞い上がった。

 風の力を細く鋭利な形状に変化させた実体のない刀を軽く振り下ろすと、小さく飛び跳ねて着地と同時に前へ倒れ込みながら地面を蹴る。

 頭に浮かび上がる技を連想し、その形をなぞる様に気を操って体に伝えて消耗した気を即座に吸収する。

 ついに私は求めていた剣技の理想形を体現していた。

 すれ違いざまに風の刀を振って触手を切り落とし、軽く地面を蹴って加速するとその勢いのまま肉塊を切り裂く。

 狙いは一点のみ。

 最初に両断したときに見えた、肉塊の中心にある黒く蠢く核。

 それをむき出しにして破壊するしかない。

 今一度手に力を込めて横に薙ぐと同時に巨大な風の刃を打ち出した。

 しかし、肉塊は触手を撚り合わせるように密集させて風の刃にぶつけ、その気を霧散させる。

 人間の思考が残っているのか、同じ手は通用しないということなのだろう。


(だったら・・・どっちが尽き果てるか・・・勝負っ!)


 特に勝算があるわけじゃないし、いい作戦を思いついたわけでもない。

 至って単純に力技で押し切る。

 それが今の私ならできるはず。

 そう信じて腰を落とし、ありもしない鞘に風の刀を納刀するようにして前傾姿勢を取った。


「参る。」


 その言葉を合図に一歩前に出ると同時に辻風つじかぜを使ってこれまで以上の加速を得る。

 擦れあう空気との間に静電気が発生し、一筋の黄色い光となって駆け抜ける。

 強烈な加速によって変化し続ける間合いを見逃さず抜刀一閃して肉塊の一部を消し飛ばしていく。

 切り抜いて着地すると同時に反対後方へ跳躍し、刀を振り抜いて次の跳躍へ。

 雷蹄八景らいていはっけい

 龍気転生之書に記されていた雷の型の一つ。

 跳躍するたびに速度が上昇し、およそ人が認識できる範囲を超えていく。

 空洞内を黄色い閃光が縦横無尽に駆け巡り、肉塊を細かく切り刻む。

 舞い上がった細かい外套の切れ端が跳躍のたびに体へ付着して鎧や皮膚を溶かしていくけど、ここでやめるわけにはいかない。

 みなぎる気を膨張させて跳躍と斬撃を繰り返していると、ついに核の片鱗が姿を見せた。

 その瞬間、核を守るかのように切り飛ばした肉片が吸着しあってまた一つの肉塊へと戻っていく。


(これ以上はこっちも持たない・・・だったら勝機は一瞬だけ!)


 体の奥底に眠っていた力を開放するかのように手と足に力を込める。

 四肢に発生した風の力が互いに擦れあってバチバチと音を鳴らし、体中に稲光にも似た閃光を纏うと右手に持った風の刃とともに左手に意識を集中させる。

 初めて使う雷の気が荒れ狂って左腕にやけどの跡を残しながら、荒々しくも輝く刃を生み出した。

 しかし激痛によって刃の形が安定しない。


(う・・・く・・・、ここで・・・負けるわけには・・・いかないの!!)


 大きく息を吸い込んで呼吸を落ち着かせる。

 その間にも隙だらけと見たのか、錐使いだった肉塊からいくつもの触手が私の体を絡めとろうと迫ってくる。

 それを最小限の体捌きで回避しながら左手の落ち着きのない気をなだめつかせていく。

 でも私の意志とは反対に荒れ狂う雷光は収まる気配を見せない。


(・・・っ!でもこれ以上は・・・私の体がもたないっ!)


 レンギョウに付けられた炎の傷の上に、樹木の小枝のような火傷が上書きされていく。

 体中に充満している気の影響で新陳代謝は活性化されているけど、その程度で治癒可能な傷じゃない。

 意を決すると痛みを堪えつつ地面を蹴って肉塊に突っ込んでいく。

 その突進を止めようと肉塊から触手が生えてきて打ち出されてきた。

 極限まで満たされた気と体に起こった変化の影響なのか、迫りくる触手の一本一本の動きが手に取る様にわかる。

 鎧のいくつかが触手によってはじき飛ばされて後方へ吹き飛んでいく。

 役目を果たした装備品に感謝しながら間合いを見定めて最後の一歩を踏み込んだ。


黄龍転生こうりゅうてんせい・・・雷迅双牙斬らいじんそうがざん!」


 技の発動とともに体中に溜め込んだ風と雷が迸った。

 右手に集まった気が極限まで膨れ上がり、風の刃から旋風が巻き起こった。

 ともすれば吹き飛ばされそうになる風の暴力を右手で抑えつけたまま肉塊の近くに着地する。

 それと同時に肉塊の正面が口を開くかのように大きく割けて覆いかぶさってきた。


(今さら避ける気なんて、ないっ!)


 心の声を張り上げると同時に体をひねって一回転するとその勢いのまま水平に薙いだ。

 荒れ狂う風の刃から発生した巨大な旋風が周囲の空気を吸い込むように回転を始め、同時に肉塊の巨体を絡めとりながら何の抵抗もなく横一文字に切り裂いた。

 そして大きく切り裂かれた肉塊の中心から人の頭ほどの大きさの核が姿を現した瞬間、間髪入れず上段から雷の刃を振り下ろした。

 耳障りな音を上げながら肉塊を焼き切り、振り下ろした刃が核に激突して甲高い音を上げる。

 不細工な丸い形の核はよく見ると外套の繊維がウジのように蠢きながら脈動し、雷の刃との間に黒い気を発生させながら抵抗を続けていた。

 同時に周囲の肉塊が核を守ろうとしているのか、むき出しとなった核を包み込もうと肥大化していく。


「させ・・・ない・・・」


 激しい勢いで消費していく気を補うように吸収を並行して行う。

 周囲の気が額の角から吸い込まれて根本が熱を持ったように熱くなっていく。

 ここに来るまでに何人もの命を奪い、今もなお異形へと姿を変えて災厄をまき散らす。

 近くで気を失っているハクとレンギョウの気配を感じ取り、わずかに涙が溢れ出してきた。

 もう誰も傷つけさせはしない。


「消えて・・・無くなれぇーーーーー!」


 左手に意識を集中させて吸収した気を一気に送り込むと、その気を喰らわんと膨れ上がって周囲に放電をまき散らした。

 激痛で意識が消えそうになる中、歯を食いしばって雷の気を規則性のある形へと練り上げていく。

 より鋭く、より勢いのある形へと思考を巡らせ、それをなぞる様に再現していった。

 次の瞬間、雷の刃がひと際大きく光り輝くとズブッと刀身が硬いものにめり込む感触が伝わってきた。

 そして一呼吸おいて、雷の刃は何の抵抗もなく核を真上から両断して地面を穿った。


「ブオオオオオオオオオオオーーーーーーーッ!」


 核を失った肉塊はこの世のものとは思えないような音を発するとピタリと硬直した。

 そして端からさらさらと粉状に分解を始めると、吹き荒れている風に乗って空中に舞い上がっていく。

 直後、舞い上がった粉に向かっていくつかの稲光が走り、醜悪なにおいをまき散らしながら灰となって地面に消えていった。


「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」


 二つに両断された核を見ながら纏っていた気を手放すと、立っているのも限界とばかりにそのまま前のめりに倒れ込んだ。

 もうこれ以上は何もできない。

 扱いなれていた風の気とは言え、直接風の刃を握っていたせいで右手はボロボロだし、左手に関しては言うまでもない。

 そして体中に受けた傷が思い出したかのように疼き始めて意識が消えかかっていく。


(ま・・・まだ・・・気を失うわけには・・・全部消える・・・までは・・・)


 風に溶けていく錐使いたったものの残留物に目を向けると、その断面には脳ミソのようなものが雷によって焼けただれてわずかに脈動していた。

 そして最後のひとかけらが緩やかな風に乗って宙に舞い上がった。

 それはこの戦いが完全に終結したことを意味するかのように空洞内をめぐると、一筋の発光とともに微かな煙を上げて消滅した。


「・・・おわ・・・た・・・よね?・・・」


 誰かの答えを期待したわけじゃないけど、最後にそう呟いた瞬間、世界が暗転していくのを感じて意識を手放した。

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