庵野 界 -1
あれから二日後、私は瑠都さんに呼ばれ早い時間に代行屋の裏に行った。
「あ、……界くんに会った?」
「おはようございます。会ってないですけど……」
私は座っている瑠都さんの近くの椅子に腰掛ける。
「なら良かった。……じゃあ単刀直入に訊くけど。界くんがああなったのは桜木さんにも大きな関係があるんだけど理由訊きたい?」
そう、小さな声でつらつらと言葉を並べる。表情は見えないが、瑠都さんは少し疲れてるようだった。
「……庵野先輩は、話してくれるんですか?」
「俺が面倒だから話せって言った……多分話してくれる」
「じゃあ……聞きたい、です」
私が遠慮がちに言うと、瑠都さんは静かにため息をつき、スマホを手に取りいじりながらぶつぶつと言い出した。
「なんで俺こんなことしないといけないんだろう……これで二人とも崩れちゃったら俺死ぬよ……その時は遺書に相原とキラキラ女が全部俺に任せてきたからだって書いてやる……」
「えっと、あの、すみません……」
負のオーラが強すぎてつい謝ると、瑠都さんは初めてじっと私の方を見て言った。
「結構、きついやつだから、覚悟しておいて。あと、界くんはああ見えて不安定男だって事、よく覚えといて」
「先日は取り乱してしまい本当にすみませんでした……!」
庵野先輩は、会って早々謝罪をしてきた。もう、いつも通りの庵野先輩のようだった。
「いや、こちらこそすみません!理由、訊いてもいいですか……?」
「は、…………」
そう訊くと、庵野先輩は頷き笑顔で口を開け、しかしすぐ閉じ、下を向き黙ってしまった。
「界くん、大丈夫。俺も近くにいるから、大丈夫だよ」
「……わかりました」
庵野先輩は自分のことを話すのは苦手なのか、ちょくちょく言葉を詰まらせながら話をしてくれた。
「……僕は、自殺代行をしてから、……人を乗っ取ることができなく、なりました。屋上から飛び降りて……地面につく前に薬を飲むんです」
目を閉じて、深く深呼吸をして、また話し出す。
「その時僕は、薬を飲むのに手間取ってしまい、スレスレで自分の身体に戻りました。それから乗っ取ろうとするとその事ばかり考えてしまって……、パニックを起こしてしまうようになったんです」
「そんなことがあったんですね……、でも、私が前話した事と何が関係してるんですか?」
そう、私が疑問をぶつけると、庵野先輩は下を向いた。そしてその数秒後、私の足元でなんと土下座をした。
「えっ、ちょっと、庵野先輩……!?」
「そのっ……その依頼主が、茜さんのお父様だったことが、前の話で分かったんです……本当にすみません!!あの時僕が止めていれば……それか失敗していれば……っごめん、なさい、」
私は頭が真っ白になり、言葉が出なかった。ただ、目の前では、ごめんなさいと言いながら子どものように泣きじゃくり過呼吸になりかけている庵野先輩の姿と、それを見た瑠都さんが背中をさすり話しかけている姿があった。私は、どうすることもできなかった、
それ、代行させてください 夕凪霧子 @yunagi_kiriko
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