君と交わした約束
ひみ
君と交わした約束
真っ暗な空の中、星たちは淡く輝いていた。それらはとても美しくて、何処か儚くて。
そう、君のような。
屋上から下りて院内に入る。照明が落とされて闇に閉ざされた病院は、安っぽいホラー映画に出てきそうだ。
もし、君が隣にいたら、キャーとか叫びながら僕の腕に抱きついてくるだろうな。
その姿を想像して笑おうとしたのに、何故か涙が溢れそうになって、僕は慌てて上を向いた。涙をこらえながら、溜め息をつく。
ああ、僕って、ダメだなあ。君とした約束、早速破ろうとしちゃったよ。
通い慣れた病室に辿り着く。いつもはすぐ着く筈のそこが、今日はとてつもなく遠く感じた。
ガラリ。
重い扉を引き開ける。
いつもは聴こえる筈の元気な声が聞こえてこないことに寂しさを感じながら、君のーーーいや、君のだったベッドの前に立った。そこには真っ白なシーツと布団が整えられた状態で置いてある。
ついさっきまでいた筈の君のぬくもりは、もう感じられなかった。
「ねえ」
気がつけば、口から言葉が漏れていた。それはもう、僕には止めることはできなくて。
「君は今、何処にいるの」
どんなことがあっても、楽しそうにしていた。
「君はどうして、いなくなったの」
いつも僕を支えてくれた。
「君は......なんで、死んでしまったの」
その笑顔は、もう永遠に見ることはできない。
もう、耐えられなかった。
僕は、その場に泣き崩れた。小さな子供のように、泣いて、わめいて。
暫くの間そうしてから、ベッドの下に落ちている二つ折りの紙を見つける。そっと開いて、中を見た僕の滲んだ視界に映ったのは。
『泣かないで。私の好きな、笑顔でいて。』
紛れもない、君の字だった。
その言葉は、君が死んでしまう前、交わした約束と同じで。
本当に、君には敵わないな。
僕は、涙を流したまま、笑ってしまった。
君の透き通る笑い声も、聞こえた気がした。
君と交わした約束 ひみ @harapekoshirayuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます