豪遊

まいずみスミノフ

第1話

◯上野公園・噴水前(深夜)

   満開の桜を立ち上る煙が隠す。

   荒島春子(26)噴水の前で煙草を吸っている。

   空き缶の入った袋を引きづりながら古川明夫(68)が現れる。

   小脇には小銭が大量に入った瓶。

   古川、春子の前を通り過ぎようとした時目の前にパンが落ちる。

春子「賞味期限過ぎてっけど、さっきまで棚に並んでたから」

古川「地面に落ちたものを食べるほど落ちぶれちゃいないさ」

   古川通り過ぎる。

   春子しばらく煙草をふかしているが、

春子「待てよおっさん」

   古川が去った方へ歩いく。


◯同・ホームレスの家

   蝉時雨。

   室内には小銭が入った瓶が並んでいる。

   古川の前に冷やし中華が置かれる。

古川「目には青葉、山時鳥、冷やし中華、か」

春子「廃棄で季節感感じてんじゃねえぞ」

   春子、小銭の瓶の間に位牌を見つける。

春子「おっさん何のために金貯めてんだ?」

古川「金を貯めることに理由などいるか」

   古川冷やし中華を啜る。

   春子タバコをふかす。


◯同(夜)

   古川の前におでんが置かれる。

古川「わかっているじゃないか! こういうことだ! …おい酒はないのか」

春子「…廃棄で酒が出るわけねえだろ」

古川「片手落ちというのだまったく」


◯同(夜)

   クリスマスケーキとチキンが置かれる。

古「こんな脂の塊を年寄りに食わせるとは…」

   春子ドン! と続けて一升瓶を置く。

春子「プレゼントぐらい用意しとけおっさん」


◯同(深夜)

   二人酒を飲む。

   一升瓶は殆ど空。

古川「…何故来た。今日は家族と過ごす日だ」

春子「父親は死んで母親は田舎に捨てて来た。家族なんてご高承なもんあたしには無縁だ」

古川「…きっとご母堂は会いたがっている」

春子「だったら連絡ぐらいよこすだろ?」

古川「それでも子供の顔を見たくない親はいない。…会えるうちに会っておけ」

春子「るせえ!」

   叫んだ瞬間春子倒れる。

   そのまま寝息を立て始める。

   古川ため息。

   ふと、無造作に置かれた財布と携帯に気づく。

古川「すまん。もうしばらく待ってくれ」

   古川、位牌に向かって頭をさげる。

   

◯同(朝)

   春子起き上がり辺りを見回す。

春子「いてて…。…おっさん?」

   小銭の瓶が一つ残らず無くなっている。


◯コンビニ・外観

   そばには満開の桜の木が生えている。


◯コンビニ・店内

   春子と店長並んで立っている。

店長「それで最近廃棄を持ち帰る量が減ったのか。しかしスマホと財布を盗むとは…。だいたいね、信用する方もどうかしてるよ」

春子「はあ」

   店長長々と高説を垂れる。

   春子が聞き流していると自動ドアが開く。

   太い足首とパンプス、小皺の目立つ口元。

   初老の女性が入ってくる。

   春子目を見開く。

   女性の脇をすり抜けて店の外に飛び出す。

   遠くに古川の背中が見える。

春子「バッカヤロウ! 余分なことしやがって!添加物まみれにしてぶっ殺してやる!」

   春子荒く息を吐く。

   やがて伏し目がちに店の入り口の方を見る。

春子「…ママ」

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豪遊 まいずみスミノフ @maizumi-smirnoff

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