生活力はないけど肝は座っている

まいずみスミノフ

第1話

◯塩原の部屋

   薄暗い部屋。

   カーテンの隙間から光が漏れている。

   玄関が開く。

   平島十波(16)と平島凪子(45)が立っている。

   二人は下を見る。

   塩原洋介(39)が玄関先で倒れている。

   二人顔を見合わせる。

   凪子はズカズカと押入りカーテンを開ける。

   十波は塩原を揺する。

凪子「起きなさい洋介! もう昼よ!」

十波「おじさん起きてー。お母さんに踏み潰されるよ」

塩原「ナミちゃん…? …おはよ、うっ!」

   塩原、凪子に踏まれる。

十波「ほらー言わんこっちゃない」

凪子「なにこれ!? 洗濯物腐ってんじゃないの!? ここはいいから、二人でご飯でも食べてきなさい!」


◯道・坂

   自転車が軽快に坂道を下る。

十波「これ逆じゃない!?」

   十波が自転車をこぎ塩原が荷台に乗る。

塩原「自転車の乗り方忘れちゃって…」

   自転車がカーブを曲がる。

十波「普通忘れる!? …おじさん!?」

   十波が振り返ると塩原の姿はない。遥

   か後方で転がっているのが見える。


◯ファミレス・店内

   十波が塩原に絆創膏を貼る。

塩原「いてて、いてててて」

十波「はいもういいよ」

   十波治療を終え、スパゲティを食べる。

塩原「握力と遠心力が釣り合わなくて…」

   塩原もスパゲティを食べようとするが、

   うまく巻けない。

十波「すいません! お箸ください!」

   十波、店員の持ってきた割り箸を割り、ささくれを落として塩原に渡す。

   入店音が鳴る。

   女の子三人組が入ってきて一人が十波の方を見る。

女子高生「十波じゃん!」

   十波立ち上がり少女たちと談笑する。

   その後ろで塩原の手が小刻みに震えている。

   十波、塩原の耳元で囁く。

十波「…早く食べちゃって、行こ」

   十波、友人たちを離れた席に連れて行く。


◯道・海のそば

   十波先頭を歩く。

   塩原が自転車を押しながらついてくる。

十波「生活力もない。体力もない。JKにビビる。それでどうやって生きてるわけ?」

塩原「面目ないです…」

十波「早急に嫁を見つける必要がありそうね」

塩原「いや相手がね…」

十波「お母さんのことまだ好きなの?」

塩原「一目惚れは認めるけど今は違うから…。血は繋がってなくても普通の姉弟だよ…」

十波「ふーん。あ」

   十波の視線が何かを捉える。

   直後、背後からガシャンという音が聞こえる。

   振り返ると十波の自転車が倒れている。

塩原「ごめんナミちゃん! …ウンコ!」

   塩原立ち去る。

   十波の後ろでは人々が逃げ惑う。

   十波正面を向き、見上げる。

   海上には巨大怪獣が現れ、今まさに巨大化したヒーローが到着した所である。

十波「あれで誤魔化してるつもりなんだから、さすがヒーローは肝が座ってるわ」

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生活力はないけど肝は座っている まいずみスミノフ @maizumi-smirnoff

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