第13話 執事ではなく背後霊でございます、お嬢様
私の毎日は、お嬢様を中心に回っております。文字通り、物理的な意味で。
背後霊が物理的というのもアレですが、お嬢様の周囲3メートル以内をグルグルと取り巻くように回ることしかできません。そして、視線はお嬢様に釘づけ。
地球の周りを回る月のようなものでございます。
お嬢様はとても愛らしくて、元気なお子様です。いつも広い舘の中を走り回り、興味を引くものはなんでも手を出すので、目が離せません。最近は、ついて歩く女中を撒いてしまう知恵も付けてこられました。
「お嬢様、お待ちを!」
年かさの女中が息を切らせてゼイゼイとあえいでいる間に、お嬢様は廊下の角を曲がってドアの一つを開け、中に滑り込みます。そして、音が出ないようにドアを閉めます。
本当に賢いお子様です。困ったものです。
その部屋は、使われていない客間の一つでございした。掃除は行き届いているのですが、ベッドにも家具にも布がかぶせられております。
お嬢様は壁際の家具にかけてある布を両手でつかみました。
「よいしょ、よいしょ」
引っ張るとズルズルと布が滑り落ち、大きな姿見が現れました。布はくしゃくしゃです。
後で叱られますよ、お嬢様。
そして、姿見の前に立って自分を映します。走り回ったから、縦ロールの御髪が乱れてますね。手があれば
「タロー、いた!」
ニコニコとご満悦のお嬢様。
鏡に映るお嬢様の背後に立つ、中年の男。なぜか四十代の頃のわたくしでございます。まだ髪も黒く豊かですが、ちょっと腹も出てます。そんな体系で、なぜか服装はこちらの世界のもの。やたら装飾が多い中世西欧風で、この家の執事が来ているものとお揃いになってます。
やはり前世のお嬢様が愛読なされてた漫画で、ベルバラと言う作品の登場人物にされた気分でございます。似合わない事、この上ありません。
そしてこの際、はっきりと申し上げないとなりません。
……お嬢様。わたくしめは背後霊ですので、執事のお役目は果たせません。
お嬢様は、鏡に向かって「こてん」と首を傾げられました。
背後霊でございます、お嬢様 原幌平晴 @harahoro-hirahare
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