第8話 星という神の遊技盤

 この世界には複数の世界が存在する。

 それらは決して同じ時空に存在せず、歪みを通り抜けなければ辿り着けない場所。

 そこには魔法があり、スキルがある。

 片方しかない場所、両方ある場所。そして、両方ない場所だ。

 神々は遊技盤の中でそれぞれが理想の世界を創り、命を与え、物語を紡ぎ自慢し合った。

 それは現在でも続いており、俺たち、つまり、この世界という盤上に生きる者たちは皆、神々の駒でしかないのだ。

 しかし、ゲームにシステムというものがあるように、この遊技盤にも根幹を担う神の力があった。

 それが、星という概念である。

 日本人から見て、星とは地球を含めた惑星と呼ばれるものであり、宇宙を含めたこれらを総じて“世界”と呼ぶ。

 しかし、何もないところからビッグバンによって生み出された宇宙。

 これが、宇宙も含めて神々の遊技盤に生み出された“星”だとしたら?

 そう、我々が世界と思っていたものは“星”であり、神々が住まう場所こそが“世界”なのである。

 飛行機や船を使うことで日本からアジア大陸へ渡れるように、異世界に転生や転移など、星から星へ渡っているだけに過ぎず、神々の常識から言えば、世界の中で起きた現象なのだから何も変なことではないのだ。

 では、異世界転移や転生というものは一体なんなのか?

 この世に生きる全ての生物は神々の駒であるということは、ゲームで言うところのプレイヤーが生物であり、当然、成長するものである。

 神は星を生み出し、運営しているものの、世界を改変することは拒んでいた。

 それは、星に愛着を持ち、それまで積み重ねてきたものをなかったことにしたくなかったからだ。

 故に、ありとあらゆる困難に対し、星に影響のない範囲で親として施しを与えてきた。

 その一つが勇者召喚などに代表される異世界転移である。

 他の星に住まう力あるものを助っ人として、別の星へ招くことにより、その星をより良い方向へと導くのだ。


「なんだか小難しいわね……

 結局、神はなんで転移なんかを承諾するのか分からないわ。

 新しい存在を生み出せばいいじゃない。

 力持った子供が生まれるとかそういうもの」


「それじゃあ、使い物になるのに十数年、下手をすれば数十年掛かる。

 それだと間に合わないのさ」


「間に合わない?」


終焉バッドエンドにだよ」


 何処の星においても、必ず終焉の物語が始まるものなのである。

 しかし、その度に生を受けし者たちは抗い立ち向かってきた。

 時には英雄が生まれ、時には勇者を呼び、あるいは敗北し滅ぶ。

 実際、今この瞬間にも新しい星が生まれ、そして滅んでいるのだとか。


「もし、それが本当だとして、その遊技盤は負荷に耐えきれず壊れてしまうんじゃないの?」


「その通り。

 だからこそ、要世界アクシスと呼ばれる八つの世界が存在する」


 要世界とはそのままの意味で、遊技盤を支える要となる星のことを指す。

 建築物で言うところの柱がこれに当たる。

 これらには全て属性が与えられている。

 精霊四属性と聖獣四属性の八つ。それぞれ一つずつ担当しているのだ。


「この世界にある全ての属性はお互いに牽制しあってバランスを保っているんだ。

 つまり、これら八つの星の内、一つでも滅亡すると属性同士のバランスが保てず他のアクシスにも影響が出て、本当の意味で世界が崩壊する。

 だからこそ、これらアクシスへの神の干渉は比較的強い」


「私には想像もつかない話ね。それと、ツカサが星の守護者と呼ばれていた理由は?」


「俺は異世界召喚を何度も経験しているって話はしたよな?」


「ええ、それとなく聞いたわね」


「俺はその終焉に立ち会ったことがある」


「――え?」


 決して一人でというわけではない。

 光属性の力を宿したアクシス“地球”で人知れず戦っていた。

 そして、安定をもたらし星を救った――多くの代償を払って。


「それで、星の守護者?

 そこまで行くと勇者や賢者なんて呼ばれるような存在じゃない……」


「実際、そう呼ばれたこともあったさ。

 俺自体はそんな大層なものじゃないんだけどな」


「そんなことはないんじゃない?

 要の星を救ったということは、世界を救ったということでしょう?」


「結果論を言えばな。

 だけど、その結果を得るために多くの犠牲を払った。

 それで救えたなら安い命だなんて――俺には言えないよ」


 そう言って手をにぎる。

 これまで数々の苦渋を舐めた。

 今度こそは、今度こそは――と。

 正直、何も知らずに生きられるのであればそうしたかった。

 だけど、知ってしまった以上、見過ごすことも己の性格上できないのも分かっていた。

 だから、突き進む。望んだ結果を得るために必死で――必死で……


「そうは言うけど、ツカサは私と同じくらいの歳じゃないの?」


「そうだな。確かに今の俺は肉体的に言えば十八歳だ」


「私は十六。だったらやっぱり――」


「あくまで、肉体的な話だ。

 実際に過ごした年数なんか遠の昔に数えるのをやめた。

 ま、まだ三百歳まではいかないはずだ」


「それって二百歳は越えてるってこと!?

 普通の人間じゃありえないわ!」


「だから言ってるだろ。俺は召喚された者なんだ。

 辻褄合わせと言えばいいかな。

 俺のいた光のアクシスである地球と、この世界では根本的に時の流れが違う。

 時空の歪みとでも言えばいいのかな。

 例えば、この世界の前に別の世界に召喚された時は召喚された目的を果たすために星は救ったが民を守ることは出来なかった」


「――っ!?」


「地は枯れ、食料は尽き、略奪と争いが絶えない世界が広がった。

 当たり前だが、召喚された目的を果たした以上、地球に帰ることは出来た。

 だけど、俺には出来なかった。

 俺の所為で荒れた土地を復興するまでは……

 その時は目標達成まで三年。復興に百二十年くらい費やした。

 それで、地球に戻って何になる?

 両親はとっくに死んでるはずだし、友達もいないはずだ。

 しかし、いざ戻ってみれば、召喚された瞬間に帰るんだよ。

 だから、異世界で過ごしている期間は肉体の時間が完全に止まるんだ」


 つまり、一瞬瞬きした瞬間に百二十三年分の経験を得るのだ。

 普通であれば廃人になるようなことも、既に星を救ってしまっていた司の体と精神は幾度も耐え抜いたのだ。


「そして、俺を好き勝手派遣する神様とやらが罪滅ぼししてるのか記憶はきっちり蘇る。前の星で経験した記憶の多くを失ってな。

 まったく、俺の人生は失ってばっかりだよ」


 心なしか珍しく神妙な顔つきをする司にリーナは寄り添った。


「確かに失うことは多いかも知れない。

 でも、それと同じくらい得るものもあったはず。

 人間の人生は多種族に比べれば短いわ。

 その中で必死に生きている。誰もが得て失って補って生きている。

 だから、今は私と一緒に貴方の目的を探しましょ?」


「こんな与太話を信じるのか?」


「ええ、私は貴方の主だもの。

 使い魔のことなら何だって信じてあげたいわ」


「俺はいい主を持ったよ。リーナが死ぬまで付き添ってやるから覚悟しろよ」


「それはそれで楽しみね。私だけ歳を取るのは不服だけど。

 それは他の星でもその星で出来た仲間に言われた」


 そういって二人は笑った。

 この世界の仕組みなど今更考えたとて神の考えることなど分からない。

 なら今を必死に生きるのが人生ってものなのだろう。

 そして、二人は眠りにつく。来たるべき魔術大会に向けて。


――

 あとがき

 30話分くらい書き終わるまで公開するつもりがありませんが、新作3つくらいかいてるので、こっちの更新が止まってます。

 ちまちまは書くつもりって言ってあんまり書かなそうで怖い今日この頃。

 プレビュー数とか評価が多くついたら頑張るかも(宣伝してくれていいんですよ?)

 というわけで、次回更新未定。なるべく早くはしたいけど、黄昏も書きたい……

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幾度も世界を救った少年は、再び世界を救う 初仁岬 @UihitoMisaki

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