26.もふもふ
26
ゴーレム制作は夜まで続き、バルトーレに夕食の準備が出来たと呼ばれたところで、三人は今日の作業を終えた。
三人が居間に行くとマリーとジュリアは既に席についており、六人で食卓を囲む。
今日はジュリアの歓迎ということで、ジュリアの好きなものが食卓に並んでいた。
ハンバーグにフライドポテト、チーズをたっぷり乗せたピサトースト。
そして鳥のから揚げ……
どの料理もこちらの世界では馴染みの薄いものばかりであるが、ハルフォードを通じてサンシーナを除く四人は食べたことがあり、オルズでも定番の料理だ。
サンシーナは食卓に並ぶ料理に驚いている。
しかし一度その料理を口にすると、目を丸め次々に口に運び料理を絶賛していた。
その隣でジュリアは口いっぱいに頬張りながら、目尻を下げている。
レイとリリィはハンバーグの横に添えてあるニンジンに眉をひそめつつ、食事を楽しんでいた。
食事をしながら、マリーがジュリアの検査結果を皆に知らせる。
検査の結果、どこも異常は見当たらなかった。
そしてジュリア特有の頑丈さも調べてみたが、はっきりとした理由は何も分からなかった。
「それでね、ジュリアが頑丈なのが何故なのか結局分からなかったんだけど……
ジュリアは転移者で希有な存在でもあるから、成人するまでの間オルズで預かることに決めたわ!」
「本当、マリ姉?!良かったわねジュリア!
これからもよろしくね!」
「ん。@¥&&;ー¥¥@/」
「ちょっとジュリア?
何言ってるか分かんないわよ!それに口に入れながら喋っちゃ駄目でしょ!
あーもう、口の周りにソース付いちゃってるじゃない!ちょっとこっち向きなさい!」
サンシーナがジュリアに近寄り、口の周りに付いたハンバーグソースを拭う。
ジュリアの世話をするサンシーナ。
その様子を羨ましそうに見つめるリリィ。
リリィは突然、ハッと何か閃いたような顔をし、皿の上にあるハンバーグソースをスプーンですくう。
そしてサンシーナをチラリと見て自分の口元に持っていこうとした時「――駄目よリリィ!そのソースはちゃんと食べなさい!」とマリーが遮る。
リリィはジュリアのように口元にソースがついていれば、サンシーナが世話を焼いてくれると思ったのだ。
そして口元にソースを付けようとしたが、それをマリーに見られ怒られるのであった。
マリーは諭すように「リリィはジュリアのお姉ちゃんになるのよ?そんな恥ずかしいことしないの!」と言い、リリィは「私が……お姉ちゃん!」と小さな声で呟き、口角を上げる。
そんなお姉ちゃんに見つめられながら、ジュリアの食欲は留まることを知らない。
夢中になって食べていた。
もぐもぐと料理を頬張り、ほぼ皆の倍の速度で食事をしている。
ジュリアの話では、前の世界で病気になってからは、満足に食事を取ることが出来なかったようだ。
またこちらの世界では、一年近く孤児院にいたが、貧しさもあって食べる量も少なかったということだ。
そのせいか、ジュリアは他の同年代の子供と比べると身体が小さい。
六人で会話を楽しみながら食事をしていると、話題は海中探索の話になった。
リリィは今日イライザの店で話があった、ハルナビで町の人達も海中の様子を見れるようにしたい旨をマリーに伝える。
「ふふふっ、そんな話になっていたのね。
そうね、五百年前の遺跡だし……
気にならない人はいないでしょうね……
分かったわ、以前包囲戦で使った大型の魔術道具があるから、それを用意しておくわね!」
「ありがとう、マリ姉。助かるのです!」
「ん。ジュリアも海の中、見てみたい!」
「ん?ジュリアも見たいのか?
まぁ、ジュリアは小さいから、ゴーレムに二人乗っても大丈夫だけど、あとは水中で息を吸う魔術道具があれば……」
「それなら問題ないわよ!ジュリアが行きたいって言うんじゃないかと思って、研究室に行った時に、ジュリアの分も頼んでおいたから!」
「ん。ありがとうです!マリ姉ちゃん!」
ジュリアは身体を上下に揺らし、満面の笑みを浮かべ、隣に座るリリィとサンシーナにハイタッチを交わす。
食後の紅茶を嗜みながら、マリーは三人に研究室での話をする。
マリーが研究室に行った時、ユープリスに聞いた話では、頼んでいた水中で息をする魔術道具は、あと三〜四日くらいで出来上がると言っており、完成したら拠点へと持って来るとの話だ。
「じゃあ、こっちも同じくらいに仕上がりそうだから、探索の予定は六日後にしない?」
「あぁ、問題ないぞリリィ!」
「うわぁ、本当にもうすぐなのね!
もう楽しみすぎて、寝られなくなっちゃいそうだわ!」
「うふふ、駄目よサン。寝不足はお肌に悪いから、ちゃんと睡眠は取らないと……
そうそう、レイにちょっと頼み事があったの。
ジロはまだこっちに呼んでないわよね?」
「うん、まだあっちのゴーレム部屋にいるよ。
こっちにジロ呼ぶの?マリ姉」
「ちょっと呼んでくれるレイ?
ジュリアの護衛をジロにお願いしたいの!」
「了解、ちょっと待ってて!」
レイはそう言うと立ち上がって、食卓テーブルとソファースペースの間にある場所へと移動し、召喚魔法を展開していく。
床の上に半径一メートル程の魔法陣が浮かび上がり、青く淡い光を放ち周囲を照らす。
幾重にも重なるような複雑な模様。
円形の中心には眩く光る五つの光。
神秘的な、その魔法陣は見ているだけでも、引き込まれてしまいそうになる。
魔法陣が現れるとジュリアは「ふぉー」と前のめりになり、目を輝かせる。
レイが魔法陣に「ジロ、おいでー!」と声をかけると魔法陣の中心から、ピョコンと頭だけ出して「くぅーん」と一鳴き。
キョロキョロと周りを見渡し、レイを見つけると勢いよく飛び出してレイの足にしがみつき「くぅーん、くぅーん」と鳴いている。
レイはしゃがみ込んで、わしゃわしゃとジロの頭を撫で、魔石をジロの口元にやると魔石をパクリと飲み込むジロ。
尻尾を振りながらレイを見つめる。ゴーレムではあるが不思議と嬉しそうに見える。
明るいクリーム色の毛並み。
耳は垂れ下がり、目元は少し下がり気味で優しい顔立ちをしている。
容姿はタロと同じく、どう見ても大きな犬のぬいぐるみにしか見えない。
体高はジュリアより頭一つ分小さいくらいだ。
ジロが魔石を食べると、ジュリアが勢いよくジロに抱きつき「ワンワン!可愛い〜」とジロに顔を埋める。
レイがジロにジュリアの護衛を頼むとジロはジュリアを見向いて「くぅーん」と鳴くと、ジュリアは「うん、よろしくねジロ!」と応えていた。
それからジュリアはその場に座りジロに話しかけ、ジロが「くぅーん」と応えると、その応えにジュリアが言葉を返している。
その様子を見てサンシーナがレイとリリィに見向いて尋ねた。
「あれっ?!何かジュリア、ジロと話をしているんじゃない?」
「ふふふ、サン。ジュリアはジロの言葉が分かるはずなのです!」
「えっ!そんなことあり得るの?」
「あぁ、ハル兄が言ってたけど転移補正ってやつらしいぞ!言葉を知らなくても、相手が何言ってるか分かるらしい。ハル兄もゴーレムと会話できるからな」
「そうなんだ……凄いわね……」
席に戻り、ジュリアは食後のデザートを食べながら、ジロとの話をみんなにする。
ジロは人見知りをする性格らしい。
それを聞いたサンシーナは「ゴーレムなのに?」とジュリアに尋ねると、ジロが言っているので間違いないようだ。
そして甘えたがりでもあるらしい。
ジュリアがジロに聞いた話では、どうやらマスターの性格が色濃く反映されるらしく、ジロはその影響で甘えたがりな性格のようだ。
兄機であるタロはジロと対照的で、好奇心旺盛でエロいという話だ。
その話を聞いてサンシーナはレイに呆れた眼差しを向け「やっぱり……」と呟く。
その呟きにレイは「ジロの勘違いだ」と応えるとマリーがレイを覗きこんで聞き返す。
「うふふ、本当にジロの勘違いかしら……
私も色々と覚えがあるのよね……
例えば、あの時――」
「――あー、マリ姉!悪かった、俺の勘違いだ」
「うふふ、サンも気をつけなさい!
レイはこう見えて、ムッツリだからね!」
「はい、分かりました……
レイ、やっぱりムッツリだったのね?
まったく、何がジロの勘違いよ!
自分がいつもやってる勘違いを棚に上げないの!
ちょっと、何でそこでキョトンとするのよ?お願いだから、そこは自覚してよ!
何、勘違いなんかしてない風な雰囲気出してるのよ!言っておくけど、あんた毎日勘違いしているわよ!」
サンシーナの訂正が居間に響く。
その訂正に何言っているの?とでもいいたそうにレイが首を傾げ、サンシーナを見つめていた。
それからしばらくの間、サンシーナはレイがいかに勘違いをしてきたか説明するが、レイにその言葉はまったく届いていない様だった。
最強の兄妹は世界最強を目指さない〜無双ですか?それよりも探検しませんか?〜 広瀬蒼 @hiroseaoi
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