25.嬉しい提案

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 買い物から拠点へと戻ってきた三人は、早速作業を始めていた。


 四つある作業机の内、三つの机の上には大きな亀型ゴーレムが置かれており、残るもう一つの作業机には小型の亀型ゴーレムが二十体ほど並べられていた。


 大きい亀型ゴーレムの方は前足が未完成だったり、頭部がまだ付いてなかったりと、完成にはまだかかりそうだが、パッと見るだけでも精巧な作りが分かるほどの仕上がりである。

 全体的に濃緑の色で統一され、体長は約二メートルくらいの大きさだ。

 背中を覆う甲羅は楕円形をしており、頭部近くの甲羅に手で掴む為の取っ手が付いている。


 外された頭部は現在レイが制作を担当。

 タロと同じように、口から光線を放出出来るように、口の中に放出用の魔術道具を取り付け、目には幾つもの魔法陣を専用の道具で描いていた。

 細かな作業に集中して取り組んでいる。


 そして前足はサンシーナが担当。

 オルズが編み出したゴーレム用の特殊素材を叩きながら整形し、その上に耐水に優れた素材を、何枚も重ねながら張り合わせている。

 前足の水掻き部分が難しいらしく、悪戦苦闘しながらも作業を続けていた。


 リリィは甲羅部分を外し、ゴーレム内部の制作に没頭している。ゴーレムの核となる重要な部分である。

 しかしリリィにとってはそんな重要な部分でさえも、サクサクと慣れた手つきで作業を進めていた。


 五歳の時に初めてハルフォードの作るゴーレムを見て、ゴーレム制作に目覚めたリリィ。

 彼女にとってゴーレム制作は、子供が積み木で遊ぶように、リリィにとっては慣れ親しんだ遊具のようなものである。


 魔術道具片手に体勢を変えながら、パチパチと部品を繋げたり、ゴーレムの体内に次々と魔術道具を組み込んでいく。

 リリィは和やかな顔をして、楽しそうに鼻歌を歌いながら作業に取り組んでいる。

 ちなみにリリィが鼻歌で歌うのは、今日マスターに会ったからなのか、ハルフォードに教えてもらった、森のクマさんという曲だ。


 緻密な作業が続くゴーレム制作。

 黙々と手を動かしながらも三人は明るく、嬉しさを隠しきれない顔付きである。


 しばらくすると、オヤツを持って来たバルトーレが作業室に姿を現した。

 バルトーレは三人とも根を詰め過ぎではないかと心配していたが、三人の表情を見て安堵の表情を浮かべる。


 三人はバルトーレが用意してくれた、オヤツを食べながら休憩を取る。


「そういえば、昨日でドリーグの件は終わったから、借りていたタロ、返さないとね!」

「あぁ、それならまだいいぞ。

 協力者の方もいるみたいだから、この一件が片付いてからの方がいいだろう!」

「そうですよ、サン。まだ、協力者もいるんですから安心するのは早いのです!」

「あ、そうだったわね。色々あったからすっかり忘れちゃってた……

 ありがとう。じゃあタロはそのまま借りておくね!」


 昨日、ジュリアから聞いた話では、王都に住んでいたところを誘拐されて、しばらくは王都で監禁されてた可能性が高い。

 それに古代遺跡の性質を理解した上で、ジュリアを誘拐し、予備として確保したと考えると、まだまだ油断出来る状況ではない。


 マリーは今日、朝から旧研究棟に行っているので、協力者に関してはいずれ分かるだろう。


 それか三人は今後のことについて話し合い、ガンツやサンシーナの家族に影響がないように、対策を練った。


 話は昨日のゴーレム達の活躍に移り、サンシーナがバルトーレに興味深々で尋ねる。


「昨日の大蜘蛛型ゴーレムはバルトーレさんが作ったんですか?」

「はい、あの子達は私が作ったゴーレムで御座います。私の場合、ハルフォード様に色々とフォローして頂きながら、なんとか作れるようになりました……

 ご興味が有りましたら、サンシーナ様もご自分のゴーレムを作ってみてはいかがでしょうか?

 レイ様もリリィ様もいらっしゃることですし、恐らくサンシーナ様がご想像されているよりは、簡単に出来るようになるかと思います。

 私の場合は、年のせいか物覚えが悪くて……

 ゴーレム制作は苦手でしたので……」

「えっ?!出来るんですか?私にも?」

「いいわね!ねぇ、サン。私達も協力するからサンのゴーレム作ってみない?」


 バルトーレからの提案に、サンシーナは目を輝かせる。


 実は昨日のゴーレム達の活躍を見て、サンシーナは素直に感動していた。

 そしてエントランス前での行進。

 あれを見てジュリアやリリィのように、カッコイイ!と心では思っていたが、ジュリアやマリーがいる前だったので、冷静を装いながらゴーレム達を見ていたのだ。


 その状況でバルトーレの提案である。

 サンシーナは内にある嬉しさを抑えきれなくなり、その感情は表情に出ていた。

 それをリリィは見逃さなかった。


 二日前の夜、マリーに色々と教わったリリィ。

 それからはサンシーナと色々なことを話し、注意深く表情を見るようにしていた。


 そしてリリィは嬉しそうなサンシーナの表情を見て、すぐにバルトーレの提案に乗ったのであった。


 サンシーナはリリィの言葉に身体ごと向き直り、

「うん!私、自分のゴーレム作ってみたい!

 でも、いいのリリィ?協力してもらっても?」

 と声を弾ませ、喜色の表情を浮かべて応える。


 リリィは微笑みを浮かべ「勿論よサン!」と言うと、サンシーナはリリィにギュッと抱きついて「ありがとうリリィ」と呟いた。

 サンシーナのその行動にリリィは、一瞬驚きの表情を浮かべる……


 サンシーナはマリーのように、嬉しい時に人に抱きつくタイプではない。

 そのことをリリィは理解していたつもりだった。

 だがそのサンシーナが、抱きついてきたことに、リリィは驚いていた。


 子供のように喜びをあらわにするサンシーナ。

 その様子を見てリリィは、にんまりと嬉しそうに顔をほころばせる。


 リリィとサンシーナの話し合いの結果、サンシーナのゴーレム制作は、海中探索用ゴーレムが全部出来てから作ることになった。


 そのやり取りを見ていたレイが、何か思い出したような顔をし、バルトーレに尋ねる。


「そういえば、バル……

 ゴーレム作り苦手だったか?

 確かハル兄が、オルズの中でもバルが一番覚えるのが早かったって言ってたぞ!」

「はて、何のことでしょうか?

 最近、歳のせいか昔のこととなると、忘れていることが多くて……」

「バル、言うほど歳じゃないだろ!

 ピンピンしているじゃないかよ!

 ははぁん、分かったぞ!また俺たちを騙そうとしてるな?」

「ふふふっ、何のことでしょう?レイ様」


 したり顔で話すレイを見て、目を細めるバルトーレ。


 レイが言うように、バルトーレはゴーレム作りが苦手ではなかった。というよりむしろ誰よりも覚えが早く、そして精巧に作れる。


 バルトーレが覚えが悪い、苦手、と言ったのは昨日ゴーレム達を羨望の眼差しで見つめるサンシーナの姿を見ていたからだ。


 バルトーレはサンシーナの心中を察して、あえて嘘を交えてハードルを下げ、サンシーナが自分でゴーレム作りが出来るように場を整えていたのである。


 しかし、その空気を読むことが出来ないレイはそのことを指摘してしまうのであった。

 昨日、過去を振り返らない男と豪語していたレイではあるが、こういう余計なことはよく覚えている。


「あっ?!バルトーレさん、もしかして……

 私の為に……」

「いえ、サンシーナ様……

 恥ずかしながら、私が物覚えが悪くて忘れやすいというのは確かなことで御座います。

 レイ様が何歳までおねしょをしていたとか、リリィ様が夜に一人でトイレに行けるようになったのが何歳の時か……というのは不思議と忘れないのですが……

 もしサンシーナ様がご興味有りましたら――」

「――こらこらぁ〜!バルー!

 そういう事は言っちゃ駄目なのです!

 言うならお兄様のことにしてください!」

「ん?リリィ、俺のことも駄目だろ?

 俺なんかな、おねしょの事だぞ?おねしょ!

 あーもう、分かったよ、バル!今回はバルの言う通りにしておくよ!」


 慌てるレイとリリィを見て、クスクス笑うサンシーナ。

 バルトーレの提案のおかげで、また新たな楽しみが増えたのであった。



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