爺ちゃんが婆ちゃんと結婚したきっかけは、ガンダムのおかげ。

白雪❆

爺ちゃんが婆ちゃんと結婚したきっかけは、ガンダムのおかげ。


「ねぇ、爺ちゃん」


「んー、なんだ?よ」


「いや、私はなんだけど。を見ながら集中している時、爺ちゃんってば本当に返事適当だよねっ!?ちょっと、質問いい?」


「ちょっと待て、今『モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを……教えてやる!』のシーンを見るまでちょっと待って!なっ?」


「……はぁ。1981222


「っ!?」


 先程まで集中してDVDを見ていた爺ちゃんの動きが止まる。


、だっけ?それについて質問があるんだけど、いい?」


「なぜお前がそのイベントを知っているんだ!?」


「説明が面倒」


 そう言って私は、カクヨムのトップ画面にある『アニメ新世紀宣言』体験談コンテストの詳細を見せて簡潔に話をまとめる。


「なるほど……。確かに、これは俺に聞かないと流石にわからないか。時代を遡ってなお、俺のガンダム好きをこうして語るときが来るとはなっ!!」


「暑苦しいなぁ……。ま、そういうことだから体験談よろしく。私は、聞いた話を私なりにそのまま文字に起こすから、気にせずにあの時のことを話してみてよ」


「そうだな……。あれは、俺がまだ婆さんと出会う前のことだった……」


「なに、そのテンプレートな前置き……。それに婆さんなんて言ってたらまた怒られるよ?」


 そうして、爺ちゃんはあの時のことを思い出しながら、瞳を閉じて語り出す……。



♯♯♯



 ―――――時は遡り、1981年2月22日。


 「機動戦士ガンダム」に最初から興味があったのかというと、実は意外にもそうではない。そもそも、その頃の俺は「う○星やつら」のラ〇ちゃんの尻ばかり追いかけていたからな。


 じゃあ、なんでわざわざ東京新宿に来て「アニメ新世紀宣言大会」にアニメファンとして参加しているかというと、衣装に着替えて参加している友人の応援をしてほしいと当時の友達である神田さんに頼まれて、仕方なく来たというわけなんだが……。


「……いや、その友人ってそもそも誰?」


「てへっ!」


「てへっ、じゃねーっっっ!!!!!!」


 ……と、想像で舐めたリアクションをする神田さんの不手際により、まさかの顔も知らないことに今更気づくという緊急事態だった。


 無論、言うまでもないが「写真送ってもらえば?」という今風の疑問が仮にあるのだとすれば答えるが、今の時代みたいに携帯電話にカメラ機能もついていない時代なんだと言葉を付け加えておこうと思う。


 ……さて、ここからイベントの体験談だったよな。


 ―――――結論から言うと、人が凄くて圧倒されたよ。


 会場は大人から子供まで年齢なんて関係なくて、みんな笑顔で夢に溢れていて、とにかく冬で寒いのに熱気が凄くて暑くて、凄かったさ。


 あとあれな、コスチューム……あー、今でいうコスプレってやつか?ザクや、アムロのコスプレをしている人とかもいて、クオリティがまた半端ねーんだ!!


 まぁ、当時の俺はまだガンダム好きではなかったから、その姿に「日本はどうなっちまったんだ……」と、驚きを隠せなかったのはここだけの話な。


 それで、ふと俺はこう思ったわけさ……。


 ―――――ここまで、笑顔と夢に溢れている「機動戦士ガンダム」ってアニメは、どんなものなんだろう?とな。



♯♯♯



「そんなこんなで、俺の『ガンダム好き』はここがスタートだったと言っても過言ではないわけよ……って、だいぶ昔の事だから記憶がうろ覚えだがな」


 爺ちゃんの体験談の語彙力のなさに頭を抱える私は、ため息交じりに答える。


「……うん、二千文字以内だし、こんなものなのかな」


 ノートPC画面の前でカチカチと音を立てて相槌のみでその話を聞きながら返事をしていた私は「爺ちゃんが婆ちゃんと結婚したきっかけは、ガンダムのおかげ」と、タイトルを付けて、一つの結論を出した。


「それでさ、爺ちゃん」


 私は不敵な笑みを浮かべて、とある疑問を投げかける。


「……な、なんだ?」


「その話の中で、一つ気になることあるんだけど……。さんって、婆ちゃんの旧姓だったよね?ってことは……」


「……っ!?」


 顔を真っ赤に染めて、私から視線を逸らす。

 くすくすっ……。はい、私のネタ帳の仲間入り決定(笑)。


「あっ、やっぱりーっ!!婆ちゃんと出会う前の話だって先に前置きしておいたのは、そういうことだったんだーっ!!えっと、なんだっけ?だっけ(笑)」


「やーめーろーっ!!俺の黒歴史をこじ開けるなーっ!!」


「やーだよっ!婆ちゃーんっ!なんで爺ちゃんと結婚したのか経緯を知りたいんだけどーっ?」


 庭で草むしりをしている婆ちゃんに大きな声で、呼びかける。


「あらやだ、もうそういうことならもう少し早く言ってよー!えっとね……」


「やめれーっ!」



 ―――――1981年2月22日。


 アニメの新しい時代が幕を開けたあの歴史的な瞬間、爺ちゃんと婆ちゃんの恋が始まったのはまた、別のお話です。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

爺ちゃんが婆ちゃんと結婚したきっかけは、ガンダムのおかげ。 白雪❆ @project-sirayuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ