第8話 死神帰還
「それがしの、帰還でござるっ!」
魔石ゴーレム事件から数日が経過し、コルンもテスラに慣れたことで平穏が訪れていた生活環境隊の隊室に、ぶち破らんばかりの勢いで開いた扉の音を伴って、そんな声が響いた。
「なんだっ!?」
「あぁ……。テスラ、構えんでええぞ」
思わず身構えて迎え撃とうとするテスラを、大きな音に動じていないゲンが止める。
「――っ!」
「おお! コルン殿、すまんでござる! 驚かせるつもりはなかったゆえ!」
やはりというか大きな音と声に驚いて固まるコルンへと、やはり大声で謝りながら大男が身をかがめるようにして入室してきた。
「でっか……」
テスラが思わずそう呟くほどに大きく、厚みのある体型を衛兵の制服に包んだ男は、意外と爽やかな印象の顔を申し訳なさそうに曇らせている。体も声も大きい割に、態度は小さい男だ、というのがテスラの印象であった。
「あんたは?」
「それがしは生還隊のザンキでござる! しておぬしは?」
テスラが何者かと問うと、やはり大きな声で返ってきた。
そして、返された同じ問いに、なるほど初対面だとテスラも名乗ろうとしたところで、扉が開いたままだった出入り口から、薄く笑みを浮かべたレールセンが入ってきた。
「隊室の方がなにやら騒がしくなったと思えば、やはり君か、ザンキ」
「おお、隊長殿! なにやら緊急事態と聞いて急ぎ戻った次第にござる!」
ザンキの言葉に、テスラも含めて皆が合点のいった様子をみせる。そしてその場を代表するようにレールセンが両手を広げて話し始めた。
「その件はもう大丈夫だ。ザンキには無駄足を踏ませてしまって申し訳ないのだけれどね。この生活環境隊期待の新人こと、テスラがコルンと共に見事魔石ゴーレムを退治してくれたのだよ」
「よろしく、オレがテスラだ」
レールセンから紹介を受けて、テスラが片手を上げて名乗ると、ザンキは二度瞬きをしてテスラをじっと見た。
「なんと、魔石ゴーレムを! ……、なるほど、真に頼もしい仲間が増えたでござるな!」
破顔したザンキは、深い笑顔を浮かべて頷くのだった。
「しかし、あんたがザンキか。魔石ゴーレムの時にすごい強い衛兵がうちの隊にいるってのは聞いてたけど、なるほど、雰囲気あるなぁ」
「いやいや、それがしは未熟ゆえな、隊の皆には迷惑ばかりかけているでござる」
小さく両手を振って、しかしやはり大きな声で謙遜するザンキだったが、しかしテスラはその身のこなしから明らかに尋常な腕前ではないことに既に気付いていた。
しかしそのテスラの見立てを否定するように、ゲンが首を振りながら口を開く。
「確かにこのザンキは未熟でなぁ、強いことには違いねぇんだが……」
「うむ、腕前があるとは言い難いのがこのザンキの面白いところだな」
奥歯にものが挟まったような物言いのゲンに、なぜか楽しそうなレールセンが補足する。
「は?」
どういうことか理解の追いつかないテスラに、始めの驚きから立ち直ったコルンが補足する。
「ザンキさんは、加減ができない、です」
つまり、このザンキはこう見えて頭に血が上るとやり過ぎてしまう性分なのだろうか、とテスラが自分のことを棚に上げて考えていると、本人がテスラの方を向いて口を開いた。
「要するにそれがしは、方法問わず攻撃をすると、相手を破壊あるいは殺害してしまうでござる!」
「それ加減とかそういう問題か?」
ザンキの物騒極まる自己紹介に、逆に冷静になったテスラが微妙に論点のずれた感想を呟くのだった。
千拳万化!!!! 回道巡 @kaido-meguru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。千拳万化!!!!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます