第7話 妄想と現実

                     

ー××ー


 ふと、目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。

 あたりを見渡すと、白を基調とした清潔感のある部屋にいることが分かった。


 「ああ、学校に遅刻してしまう」


 私はとりあえず家に向かう。朝食を食べ、学校に向かう。そして、適当に教師の話を聞き流しながら板書をする。昼食を食べ午後の授業をこなし彼とともに帰路につく。

 そんな日常をただただ費やしていく。


 そんなある日、彼は掃除当番だったので私は一人で帰ることになった。

 向こう側から、青髪で白衣をまとい、眼鏡をかけた青年が「困ったな~。間違っちゃいましたかね~。」などと、のんきそうな声で言いながらこっちに向かって歩いてきている。

 あ!不意に目が合ってしまった。


 「そこのお嬢さん、ちょっっとばかりいいですか?」


 親指と人差し指でちょっとを示している。

 もちろん、お嬢さんなどと言われたのは初めての経験である。


 「第一中学校ってどこにあるかわかりますか?」


 ちなみに、第一中学校とは、私が通っている中学校の名前である。

 頭をかきながら「あんまり迷ったことはないはずなんだけどなぁ。」などとつぶやいている。

 初見のインパクトは強すぎたが、悪い人ではなさそうだ。

 取りあえずざっと道なりを教えると、青年は「いや~。ご親切にどうも~。ってこっちから聞いたんですけどね。ハハハ」と感謝を述べ、「それにしてももうちょっと用心したほうがいいと思いますよ。そんなにボーッとして歩いていると、私みたいな不審者に連れていかれちゃいますよ」などとのたまう。

 ・・・確かに不審者である。


「現に、君の二つ後ろの右側の曲がり角から、たぶん数時間前ほどから尾行しているであろう女性が一人、チラチラとこっちを見ていますよ」


「えっ!?」


「あなたはいったいどこを見ているんですか。完全に心ここにあらずといった感じで、まるで廃人の様に現実から目を背け、己の世界に閉じこもり、日々を費やしている。

 まぁ、それもあアリなんでしょうけどね。

 しかしですよ、残されたものとして、己を救ってくれたものにいったい何ができるのか。

 確かに、『忘れないでほしい』って思いもあるでしょうけど、自分を理由に立ち止まられたりしたら、いい迷惑じゃありませんか?そろそろいいんじゃないんでしょうか?

 ってところで、私の雑談的助言タイムは終了です。まあ、あくまでも助言、アドバイスですので全く強制権はありません。もし、共感してくれたなら勝手に自分がやるべきだと思った事をやってください」


 そう、真面目なんだか不真面目なんだかわからない態度で彼は言った。


「それではさようなら。道を教えてもらって助かりましたよ」

 

 と彼は歩きながら言ってきて、私の横を通り過ぎるときにぼそりと、しかしはっきりと聞き取れる声で、


「縁があったあまたお会いしましょう。夢台 礼子むだい れいこさん」


 とズバリ本名を言い当てて私を抜き去っていった。

 ハッと、私は振り返った。

 もし、そこに彼がいなかったならば、白昼夢でも見ていたような気分になれたのだが、期待は見事にはずれ、彼は何事もなかったかのように歩いていた。

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