第8話 提案と終わり
「直樹、私を愛してみない?」考えるより先に、言葉が出ていた。
直樹は絶句していた。
「最初は嫌だろうけれど、きっと翔は、他の人には抱かない気持ちを直樹に抱くよ。私の事も諦めると思うし」自分が云っているのか、云わされているのか解らない。
「第一、 翔は……女性を好きなのでは?」直樹の目つきが変わった。
その瞬間、頭が揺れた。
直樹に胸ぐらをつかまれた。想定内だ。
「俺はどっちにも行ける。けれど同時に、どちらにもいれない」直樹の目が少し、涙ぐんでいた気がした。
「翔が好きだ……どうして好きなのかは説明出来ないんだ。俺は……翔を求めている」直樹は泣いているように見えた。
解るよ、その気持ち。私だって直樹の事・・・・・。
段々、私は落ち着いてきた。
「亜衣さんは……どうしたいの?」
「今のままだと直樹は同じ所をずっと巡ってしまう。そこから抜け出す事を考えてみた」直樹は黙って私を見つめている。
「私は直樹が好き。翔とつきあうのは考えられない。第一、好きな人の好きな人だし……」私は少し、目を伏せていた。
「好きな人の好きな人って、俺もじゃん」少し間を置いて、直樹が云った。
「あ、そっか」私は間抜けに返事をした。
「亜衣さんの事はまだムカつくけれど……時々話したい」直樹は、多少ふてくされて云った。
これは……もしかして、チャンスが来るかも? などと思ってみた。
「でも亜衣さんを好きになる事はない」すかさず直樹に云われた。
「上手くいかないね」私も、すかさず云った。
私の携帯からメール音が鳴った。翔からだった。
「翔からメールで、【今行く】って」私はそのまま伝えた。
その瞬間、直樹が私に、掴みかかってきた。私の肩を掴み、壁にぶつけられた。
何が起きたのかと思った。
そうか、翔からのメールが、私に送信された事に嫉妬したのだろう。
けどこれって……壁ドン? 私は少し、上気した。
きっと顔が、赤くなっている。それを見た直樹の顔色が変わった。
先ほどの怒りから、焦りの色になっている。
直樹の考えはきっと、こうだ。
【いやいや、俺が襲えばこいつは喜ぶだけな上、翔が哀しむ】その通りだ。全部想像だけれど。
私と直樹は暫く目を合わせていたが、同時に視線を外して、同時にため息をついた。
直樹は向こう側に視線を向けている。
私は直樹を、見ている。
直樹、こっちを見て。
ずっとそう思っている。
【了】
こっちを見て 青山えむ @seenaemu
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