第7話 綴る

 直樹は、翔への恋心を語り始めた。

 どんな風に翔に惹かれて、どんな風に普段、接しているか。

 バンドメンバーという事で、毎週毎週、会う。

 バンドは、家族や他の友達とは違う関係性だと。

 物凄く嬉しくて、物凄く辛いと。


 段々、語るというより、綴る、の方がしっくり来る。

 きっと、行き場のない恋心をどうしたらいいのか考えた挙句、辿りついた所。

 それは、恋の詩を読む事。

 きっと、古典を読んだ。

 私もそうしたからだ。


 直樹は、オーラが見えたかと思う程の気迫だった。

 そういえば、母子手帳の謎が解けたのだ。

 私の母が私を産んだ病院で、ベッドが隣だった人と連絡先を交換した。

 当時は携帯電話が無く、紙に書いた。

 母子手帳の最後の頁に連絡先を書き、破って渡したそうだ。


 その時に連絡先を交換した相手の子どもは今、何をしているのだろう。

私と同じ歳の筈だ。

 三十歳、男か女かは解らないけれども、結婚して家庭を持っていても違和感の無い年齢だ。


 というか、同じ学区ではなかったのだろうか。転校したのだろうか。

 母親が里帰りして出産したのだろうか。

 それともどちらかが紙を失くしたのだろうか。

 母親が出産した当時、隣のベッドにいたからといって、近距離に住んでいるとは限らないし関わるとも限らない。


 むしろ今仲良くしている人たちは多分ほぼ、違う病院で産まれているだろう。

 中には同じ病院の人もいるだろうが。

 何処の病院で産まれたかなんて、関係ない。

 だから母子手帳の頁が一枚二枚ないからといって、何がどうした。


 直樹は、ずっと何かを云っている。綴っているのか。


「翔に想われているのに、亜衣さんはいつも周りばかり気にしている」直樹は軽蔑の視線を、私に向けた。


 翔が好きなら、翔の事を考えていればいい。

 私の文句を探し始めるなんて。

 直樹の歪んだ想い……。


 私がもし翔を受け入れたら、直樹の憎しみは燃え上がり、いつかは沈下するかもしれない。そうして諦めるかもしれない。

 けれどもバイセクシャルの彼は、肉体的にセフレに癒しや救いを求める事が出来る。一時的にだけれども。

 そう、あくまでも一時的だ。

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