いつか、あの海へ

@blanetnoir

「今日を生きられなかった奴の分まで強く生きろ。」



いつかの動画で彼の背後にある壁に貼られていた手書きポスターの言葉を思い出す。



彼が、亡くなってしまった事実を受け止めきれないまま時間だけは速度を変えずに流れ、



色々な思い出を再生しながら、まるで今もその延長にいるような感覚でいることに、苦しむようになった。



平成最後のライブで。



渋谷109のポップアップ企画で。



彼の先輩クリエイターのイベントで。



「あいつも令和に連れてくぞ!」



親方が叫んだ言葉や、



専用に作られたペンライトで真っ赤に染まったライブ会場で




「空から見てるやつがいる」




仲間が言った言葉や、




029と割り振られた、姿が見えない彼の枠。




わざと空けられたスペースを見る度に、彼が愛した、彼を愛した仲間の思いと、




“彼はもう、ここにはいない”




という現実を、見せられていることがつらくて。




「空から見てるかな」



「このイベントに参加してくれてるのかな」



「どんな表情で写っていたんだろう」




人の分だけの(想像のエイジ)がいて、



その想像には正解なんてない。



私が話しかけるえいちゃんとは違う形のえいちゃんをみると

(この人はこういう形で受け止めてるんだ)と

わかる。




時を刻々と重ねて、



次の新年が訪れた時、



一周忌ということになる。



あの海に、花をたずさえに行く予約をしたことをTwitterで宣言した人がいた。




私が4月30日に訪れる夢を見たあの海へ、





私もいつか彼の命日に、行かないといけないと、強く思った。

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