中2で参加し、20年後にアニメ専門学校の教員として新世紀宣言の語り部を

@tommy240zg

第1話

当時、中学生だった私はアニメ新世紀宣言へ友人数人と参加した。ステージ向かって右の前から5列目くらい。

発泡スチロールで造形されたシャアザクが足裏をギシギシと削りながら歩いていて、皆がジッと見ていたのを覚えている。

イベントが始まり、富野さんが登壇、集まったファン以上にご本人もテンションが高かったように覚えている。

というのも、大衆を前に緊張もされていたのだろう、結構難解なお話をされていたが、途中で頭の中が真っ白になられたのか、10秒近く無言になられ、ジッとアルタ方向を凝視されていたのを昨日の事のようにハッキリ覚えている。

その後、何事も無かったように話を続けていたお姿もハッキリと覚えている。内容は詳しく覚えていないが、異常なまでに集まった若人を前に、自信と確信に溢れたお姿だったと記憶している。その富野さんの勇姿に感動し、その後のメインであった新世紀宣言自体は、大して感動もせずに淡々と見ていた。

そして、やしきたかじんさんが、公開が迫った劇版一作目の主題歌『砂の十字架』を歌ったのだが、その歌唱力の素晴らしさと凄みにアルタ前が完全に圧倒されていた。そして間も無くイベントが結びになっていたように覚えている。他に催しが有ったかもしれないが、後述の通り早々に解散となった。とにかく富野さんのギレンの如き革命家さながらのお姿と、たかじんさんの歌しか覚えていない、というのが本音だ。

それから20年が経ち、私は都心の専門学校でアニメの教員として人材育成に当たる事になっていた。

そんな中、富野監督を招致し、講演をして頂くチャンスが有った。終了後の接待で新世紀宣言に集わせて頂いていた事を打ち明けた。すると監督は笑顔で語った。

「あのイベントはね、開始早々に警察が来て即中止を求めて来たんですよ」と。アルタ前のスペースに15,000人が集まったのだ。事故がいつ起こってもおかしくない。当然の判断だったであろう。

支持に極力従う方向で、富野監督の挨拶、宣言書の読み上げ、歌で早々に終了となっていたと思う。

また、仕事柄、今西隆志監督にお話を聞ける機会がその後に有った。イデオンで制作進行を氏がされていたのを知っていたので、タイミング的にもしやスタッフで?と思い聞けば、的中した。何と氏はアルタ前の交差点で参加者が道路にハミ出ないように誘導係をやっていたとの事。さすが制作進行、イベントでも駆り出されて雑用をこなしていたのであった。

「とにかく人が溢れてしまい本当に危なかったよ」との証言を頂けた。

小二で運良く1作目のヤマトの第1話から観れていた小生だったが、ファーストガンダムは、ヤマト以来の魅力的で厚みのある作品だった。なので、当イベントの異常な集客は驚く事も無く、むしろ当然の盛り上がりと思っていた。制作側はその大きなうねりを知っていつつも劇版1作目には用心して「1」を付けなかったが、当時の参加者で有れば続編、なかんずく最後まで作るであろう事は予想だに難しくは無かったし、むしろ続編が作られて当然と思っていた。

それが新世紀宣言大会に参加した者として、肌で感じた確信と言って過言では無いと思う。

あのムーブメントを、体験した一人として、業界を継いで行く後世にしっかり伝えて行きたい。

オレンジ色の宣言書は、安彦さんが描いた劇版のチラシと前売り券と共に、今も大切に保管し、毎年ファースト3部作を授業で鑑賞させる度に学生達に見せている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

中2で参加し、20年後にアニメ専門学校の教員として新世紀宣言の語り部を @tommy240zg

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ