第49話
「この間来たのにまた来たかと思ったら、そんな事を言いに来たの?」
香里は誰も居ない豪邸で、呆れる様に克樹を見て言った。
「はぁ?一応元妻のお前に報告をだな……」
「報告?水樹さんと一緒に住んでる事?」
「……じゃなくて……」
「あなた、自慢しに来たんでしょ?」
「じ、自慢?何を……」
「あなた昔から、そういうところあったものね……」
香里はお手伝いさんが休みを取っているので、自分で入れた紅茶を飲みながら、克樹を嘲る様に言った。
「何が?」
「昔からの付き合いの?仲間内?とかいうお友達に、私を自慢してたでしょ?……何回か会わされたりもしたもの……」
「あれはだな、自慢じゃなくてだな……」
「隠せない
「確かにあの時は、道を外れた後だったが……」
「あなたは、そんな俺でもちゃんとしてる……自分は昔と変わらずできてる人間だって、そう誇示したかったのよ……」
香里はほくそ笑むと、克樹を見入った。
「そして、水樹さんが淋しそうにする姿を見て、優越感を覚えてたのよ……」
「はぁ?お前何を……」
「あなたねぇ……本当に幼稚なのよ、昔も今も……まっ私も、そんなあなたを見て、悦に入っていたけれど……?」
「…………」
「……その、仲間内のお友達の言うところじゃ、あなた相当なもんだったそうじゃないの?」
「何が?」
「水樹さんに対して……彼らはあなた達は可笑しいって言ってたわ。私だって一目で解ったもの……だから、あなたがわざと水樹さんの前で、私にして見せる事を見て、水樹さんが辛そうにする姿を見るのが楽しかったわ……私の自尊心を十分に満足させてくれたもの。だから、私あなたと結婚したのよ」
「…………」
「あなたの一番大切な人の悲しむ顔を、ずっと見ていたかったから……」
「お前なぁ……」
「だってそうでしょう?あなたはお馬鹿さんだから、本心を知ろうとしないで、あの時は私に夢中だった……友達という友達に自慢して……だけど、あなたの本心は自分で解らないんだもの……だけどある日を境に、あなたの気持ちに変化が見えたわ。それでもあなたは私に夢中だった……水鈴が産まれて少し経ったら、仕事に夢中になって……その時、あなたが自分の気持ちに気がついたって、聡い私は気づいたの……不思議よねー、何をするにも一番じゃないといけない私が、宗方の事がバレた時、どうしてもあなたを手放したく無いって思った……仮令あなたの心に、違う人間が居たとしても……」
「それで別れたくないって言ったのか?」
「だって本当に過ちだもの……するとあなた何て言ったか覚えてる?」
「いや……解ったそうしようって……過ちなら……」
「そうよ。あなた平気な顔してそう言ったの。このままでいよう……って……その意味って考えた事無いでしょ?あのまま夫婦として、別に生きようって事だと、聡すぎる私はちゃんと理解したのよ。揉めに揉めたけど、最後は私があなたを自由にしてあげたのよ……。あなたは苦しそうだったし、もはや私に満足感を与えてくれないもの……」
「満足感?」
「あなたが逃げて歩くから、水樹さんの悲しそうな顔を見る事ができないもの……」
「お前なぁ……」
「今言ったでしょ?私が一番じゃなきゃ駄目なのよ。あなたの心の中でも全てにおいて……弟の様に可愛いと思い込んでる相手でも許せない。だからあなたのやけっぱちな姿は、自業自得だしザマーミロだったわ。だけど、私にとってはあなたが一番だった……あの頃は本当に好きだったのよ……まっそれも、心の中に自分で認めようとしない相手が居るから、他の男子みたく
「そうだな……良家の子息達は君に夢中だったもんな……脛に傷を持つ俺なんか、相手にされる訳ないからなぁ……お前が気にかけてくれなきゃ、付き合える訳がない」
「きっとあなたの魅力って、水樹さん有っての魅力よね……だから、私はあの人だけは一目置いているの。それに変人の兄の友人だけど、本当に魅力的な人だわ……あなたが逃げて歩いてる間にそう思った……あなた、本当に馬鹿なのねー」
「お前なぁ……」
「……で?お祝いでもして欲しいの?」
「そうじゃなくてだな……」
「じゃ何?奥様って呼んで欲しいの?」
「じゃなくて……」
「いいじゃない、今迄通りしていてゲイに見られたらそれで由。夫婦に見られたらそれも由。聞かれたら夫婦だって言えば?」
「……水樹にもそんな感じで言われてるが……」
「ほんと、あの人はできてる人だわ。まっ、私の次だけど……」
香里はちょっと塩だれた克樹を見て微笑んだ。
「あなた変人兄と一緒ねぇ……」
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