第48話
さて克樹は大喜びをして、小学校中学校時代からの仲間を、飲み会と称して招集をかけた。
そして乾杯の代わりに、カミングアウトというヤツをぶちかました。
そう……大いに威勢良くぶちかました。
すると一瞬大盛り上がりだった場に、静寂が漂った。
「克樹が水樹と?」
小見がビールのジョッキーを片手に聞いた。
「そうそう、俺ら一緒に住んでだな……」
「はっ!そんなの中坊の頃から騒いでたべ?」
「騒いでた騒いでた……」
「水樹を養子に出したくなくてさ……」
「そうそう……三野の伯父さんだっけ?新聞配達の……」
「叔父さん叔父さん。住み込みで新聞配達するって言って……」
「駆け落ち……」
皆んなは異口同音で言った。
「駆け落ちじゃねぇだろ?」
「ふん。俺らはそう言ってたの」
小見がビールを飲んで言った。
「そういやぁ、言ってたわ」
「はぁ?お前ら、俺らの不幸を笑ってやがったな?」
「馬鹿を言え、俺は叔父さんに話しを通してやったろ?」
「帰されたけどな……」
「そりゃ仕方ない。駆け落ちしたって、バレバレだったんだから……」
「だから、駆け落ちじゃねぇって……」
「は?あんだけ騒いで家出してか?」
「家出と言っても帰されたから、一泊家を空けたかどうかだった……」
「……そんなお前らが同居したって、誰も驚かんわ」
大森がおちゃらけて言った。
「……じゃなくてだ……」
「なんだ?お前らがくっ付いても誰も驚かんわ」
「お前なぁ……」
「
「そうだそうだ」
「克樹お前は顔に出るからな……知らんかったろうが……で、コイツらの事は置いといて、実は三野結婚する事と相成りましたー」
三野はちゃっかり克樹の〝ぶちかまし〟を取り上げて、その場を驚かせた。
「えー一体誰だ?と言ったところで知らん子か?」
「知らん知らん……大事に大事に育んできたからなぁ……」
「まさか出会い系サイトじゃないだろうな?」
「馬鹿を言え……これでもモテるんだからな」
場を三野に持って行かれた感がある克樹と水樹は、大盛り上がりの三野を見つめる。
「皆んなホッとしてんだよ……」
木本は二人に向かって笑顔を向けて言った。
「お前ら二人が一緒に住めて、マジでホッとしてる。中坊の時のお前らは、俺達にはどうしてもやれんかったからさぁ……。俺たち皆んな水樹を養子に、出して欲しくはなかった。だけど子供の俺たちに何ができた?ただ見ているだけだった……だけど、水樹は立派になったし克樹も立派になった。俺たちよか苦労した分出世した……だから、俺たちはホッとしてるし、一緒に住んでくれてマジで嬉しい」
「やっ、そうじゃなくて……」
「いいんだよ。俺たちの中じゃ昔からお前達は一つだ。だから今更言われなくても解ってる……。たぶんお前達より先に解ってた……」
「…………」
「俺たちの間柄で、黙っていたくないのかもしれんが、解ってる事を言う必要はない。聞かれたら言えばいいんだ。遠慮の無いヤツらだから……だろ?」
「うん。そうだね……」
水樹は素直だから納得した様に頷いた。
克樹は無表情で黙り込んだ。
「式には来てくれよな」
三野は上機嫌で手を振って別れた。
「チッ、三野の祝いの会になった……」
「克樹は皆んなに、お祝いしてもらいたいの?」
「……そうじゃないが……」
「皆んなずっと心配してくれてて、もう一緒に住んでるから安心してるんだ……さっき皆んな言ってたじゃん?中坊の時の事、皆んな覚えてたんだぜ。自分の事だってあやふやになってくのに、凄く覚えててくれた……って、皆んな気にかけてくれてたって事じゃん?一緒に住めてりゃ、それで由だよ……克樹は不満なの?」
「いや……確かに一緒に居るのが当たり前だからな、俺たち……」
「そうだよ。別になってたら心配してくれるんだ。一緒に居たら心配する必要ないじゃん?そうだろ?」
「そうだな……それが当たり前なのか俺たち……」
「そうだよ。克樹変に気負わなくていいじゃん?ただ一緒に居られればいいよ。聞かれたら判然そう言おう?ね……」
「なぁ……タクシーで帰る?それとも電車で帰る?」
「じゃ……電車で帰ろう、久しぶりにさ」
「年末には家を建て始めるつもりだ」
「楽しみだね」
「お前は?」
「何が?」
「藤沢……に何時戻んの?」
「ああ……克樹に言ったら直ぐにする」
「俺に?」
「そのつもりだったんだ……明日藤沢にするよ……みたいな?」
「なんで?」
「掛け声みたいなもんだよ。おじいさんの所に行った時みたく……克樹と一緒じゃないとなんか不安つーか……」
水樹は、駅に向かう人気のない商店街で、はにかむ様に言った。
よく子供の時に見せた、可愛い表情だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます