第41話
「俺は暫く結婚は、しないって言ってるだろ?」
「ああ……そうだったわね」
美奈子は苦笑して克樹を見つめた。
「あなたには幸せな結婚を願っているんだけど、水樹を思うと……水樹は家庭に恵まれない子でしょ?養父の高城さんは結婚してしまったし、と言ってあの子が家庭を持てるとは、到底思えないのよ。うちに来るように幾度か言ったんだけど、やっぱり気を使うんでしょ?それに私達は信頼されなくて当然だもの……克樹が一緒に住んでくれて、本当にホッとしてるの……」
「また、おばさんが余計な事言ってんだろう?」
「そうじゃないわ。お義姉さんの言う事が本当なのよ。いくら不憫だからと言って、克樹を犠牲にしていいって訳ないもの……。どんなに仲がいいからって従兄弟と暮らすより、いい相手を見つけて暮らすのが当たり前の事よ。だけど私は水樹を穏やかに暮らさせてやりたい、あの子はいずれ一人になるでしょう?ちょっとでも一人になる日々を、少なくしてやりたいの」
「それは俺も同感だよ」
「そう?そう言ってくれると思ってたけど、克樹だって今が大事だって解ってるんだけど……」
「母さん。俺はそんなにモテない訳じゃないぜ。確かにいろいろ問題のある相手ばかりだったけど、それは結婚する気がないからであって、俺がその気になれば自分で見つけられる。今は水樹と一緒に居たいし、これからも一緒に居たい。母さんが気にやむ事じゃない」
「でも……」
「前から言っている通り、伯母さんからの縁談は全て断っていい。俺には水樹がいるし、一緒に居たのは水樹だから」
美奈子はホッとため息を吐いた。
「香里とも最近話しているんだけど、先々水鈴か水鈴のパートナーに、うちの会社を継がせるつもりだ」
「何も今からそんな事……」
「香里は俺に変な女を、相手にして欲しくないらしい。それはたぶん女性の良し悪しじゃなくて、どんな女性でも気に入らないんだと思う。だったら俺ももう結婚はする気ないし、渡りに船の話しだ」
「あんたまだ香里さんを?」
「やっ……違う違う」
克樹は慌てて否定した。
「確かにめちゃくちゃ、愛している人はいる」
「まさか結婚できないような、相手じゃないでしょうね?不倫とか……」
「確かに結婚はできないが、不倫じゃないし家庭を持っていない」
「じゃ、子供ができない人なの?だったらそれこそ、水鈴ちゃんがいるし……」
「へぇ?」
「なに?」
「意外だね。子供が沢山産める
「ああ……そうかもね?だけど、あんただけじゃないからかも?水樹が心配で仕方ないから、あんたのお嫁さんは気にならないのかも?」
美奈子はクスリと元気無く笑った。
「たぶん嫁に出せない、問題のある娘みたいな感じ?兄の克樹に迷惑かけれないと思いつつ、ついつい頼りにしちゃうみたいな?あの子には幸せになってもらわないと……以前あんたが言った通りだから……あの子のお陰で今の私達があるんだもの。熱海もうちも贅沢な暮らしを、していられるんだもの……」
「大丈夫俺が幸せにする」
「でもお前には好きな人が……」
「水樹だから……」
「えっ?……」
美奈子の顔が一瞬曇った。
克樹は言わなければよかったと後悔したが、それは後の祭りだった。
「俺の愛している人は水樹だから、一生大事にして幸せにする」
「水樹は……」
「同性だけど、そんなの関係ない」
「それは……」
美奈子は言葉を失った。
だが克樹の中では覚悟ができている。
一生水樹と暮らす為には、両親だけはいずれ納得させるつもりでいた。
邪魔もされず水樹を傷つけずに、暮らしていくには隠してはおけない。
「水樹もなの?あの子……」
美奈子が口元を押さえた。
「水樹が男を好きだった訳じゃない。高城がそうだった……」
「えっ?だって高城さん水穂ちゃんと……」
「だけどあの人がずっと水樹を……」
美奈子は急に突っ伏した。
「私達の所為なのね?水樹は私達の所為で……高城さんに……」
美奈子にとって克樹との事よりも、高城と水樹の事の方が、かなりの衝撃だった様だ。
自分達の不甲斐なさで水樹を人身御供の様にして、自分達の幸せを維持して来たように感じたのだろう。
今までの自責の念に増して、我が身を激しく責め立てている様だった。
水樹が来ても元気の無い美奈子に水樹はとても心配したが、克樹は久々に父の帰りを待って外食に連れ出し、美奈子の気持ちを他に向けようと試みた。
「まだあなた達の事は、なんと言えばいいか解らないけど……水樹だけは幸せになってもらわないと」
別れ際に美奈子は、そっと克樹に囁いた。
疲れ切った様子の美奈子は父の車に乗り、水樹は克樹が乗って来た車に乗った。
「おばさん大丈夫かな?」
「うん」
「かなり調子悪そうだった……」
「俺達の事言ったから」
「はぁ?なんで?」
「言っておかないと……って思ったから」
「馬鹿か?」
「馬鹿だよ」
水樹がぎゅっと睨みつけてくる。
「俺の親でお前の伯母だ、解ってくれる」
水樹は黙ってじっと俯いて、唇を噛み締めていた。
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