第39話

「旬さん」


高城は水樹に似ているがやはり違う、水穂の声を確認してドアへ目線を向けた。


「どうしたんだい?」


「やっぱり心配だから来ちゃった」


水穂は甘える様に言うと抱きついた。


「みぃちゃんは?」


「もう遅いし、お母さんに預けて飛んで来たの……看護師さんに、面会時間ちょっとしか無いわよ、って言われちゃた」


「本当だ……もう少ししか無いよ」


高城は水穂を、愛おしそうに抱きしめて言った。


「病院を入る所で、お兄さんと会ったわ」


「今朝松長から聞いて来てくれたんだ。ほら果物はみぃちゃんに持って帰りなさい」


「お兄さんがね……」


水穂は高城の耳元で囁いて、クスリと笑った。


「旬さんが寂しそうだから、早く行って抱きしめてもらいなさい、って言うのよ」


水穂は耳朶を真っ赤に染めて言った。


「そうだな……寂しかった……」


高城がその赤く染まった耳朶を噛むと、水穂は恥じらいを見せて高城に抱きついた。


「早く退院したい」


「うん……」


ちょっとした仕草が水樹に似ている。だがほんのすこしづつ違っている。

だが……あの幼かった頃の水樹に、重なる部分が沢山あって愛しい。

女は父親の代わりに愛した男を、いずれ自分の男と認識する。

種を得て子供を産めばそれは決して父親の代わりでは無く、もはやその女の男なのだ。

だが同性の場合、いつまでも父親の代わりは父親のままだ。

高城は父親の代わりにはなれても、男にはなれなかった。

そういう事だ……。


水樹は電車に乗って窓から見える灯を見つめた。

昔、おばあちゃんと一緒に見た車窓の外は、こんなに明るく無くて物寂しかった。

克樹と見た車窓の外は、物悲しげに輝いている物ばかりだった。

手を繋いでいないと寂しくて堪らない程、指と指を絡めていないと辛くて苦しい程だった。

なのに都会の車窓から見える灯は、綺麗できらびやかで明るくて……。

だけど、やっぱり指が寂しい。

克樹の大きくて長い指を、この細くて惨めな指に絡めて欲しい。

水樹は克樹が恋しくて堪らずに、指を自分の指で握りしめた。


「お帰り」


水樹が帰宅すると今帰って来たばかりなのか、克樹は上着をソファーの上に掛けながら言った。


「克樹話しがあるんだ」


水樹が神妙な面持ちで言うと、克樹は近づいて来て、水樹の顔を覗き込む様に言った。


「なに?」


「あっ……ちょっと真面目な話しだから、座って話したい」


「そっ……」


克樹はそう言うと、身を翻すとばかり思っていた水樹は、不意に抱きしめられて、キスをされたので吃驚して身を引こうともがくが、克樹が容赦なく力を込めて抱きしめ、激しく唇を吸って舌を絡めてくる。

水樹が抗わ無くなるまで、そう時間はかからなかった。

水樹はいつも克樹に従順で、言い成りに身を預けてしまう。


「克樹……話しが……」


克樹のなすがままに崩れ落ちた水樹が、悶えながら口にしても、克樹が水樹の言葉など聞く筈がない。


「水樹……もっと躰を熱くして……」


先程まで恋しがっていた克樹の指が水樹の躰を玩ぶ、水樹は直ぐに白肌を染めて克樹にしがみついていく。

少しずつ少しずつ水樹の息遣いが荒くなり、克樹の指が水樹の一部を翻弄し始めると、水樹は幾度も幾度も克樹の唇を啄む様に唇をつける。

水樹が興奮の際まで達している証しだ。微かに唇を開き舌を入れて、繰り返し絡めてくる頃には、もはや興奮が頂点に達しているしるしだった。

水樹は克樹の舌を舌で舐め上げながら、妖艶な眼差しを向けて克樹を誘い入れる。

まるで合図を待っていたかの様に、克樹は水樹を後ろ向きに四つん這いにさせた。

そのまま克樹は水樹の尻をもたげて、ゆっくりと水樹の中に沈んでいった。


「あっ……」


大きく揺さぶられながら、水樹は快感を追った。

段々激しくなる動きに、水樹の快感が増していく。


「水樹?」


克樹は一瞬疑問符を投げかけたが、返事は水樹の荒い息と時折聞こえる甘い声だけだった。

克樹が深く沈んでいくと、水樹は克樹の名を幾度も呼んだ。シーツをめちゃくちゃに乱れさせた水樹の肢体が、汗ばんで強張っていく。

水樹は克樹にキスができないもどかしさの所為か、シーツを噛み締めて静かに肢体の力を抜いていく。

克樹はまだ離れがたそうに、水樹の躰を抱きしめていたが、その内水樹の上で力を抜いた。


「水樹……」


「ん……?」


克樹は水樹の唇を貪り吸った。


「もう一回ベットで……」


「ええ?克樹話しが……」


水樹はそのまま、克樹に抱きかかえられてベットまで運ばれた。


「話しが……」


「あとで……」


克樹が優しく口づけると、水樹は目を閉じて再び克樹を迎え入れていく……。

深い繋がりが水樹を快楽の世界に連れて行って、引き返す事を頑なに拒否する。


ああ……こんなに感じた事は無い……


この世界の入り口は、克樹にしか連れて来てはもらえない。

克樹だからこんなに幸せに満たされ、快楽に溺れていられる。

安心して全てを委ねていられるから、蕩けてしまいそうな快楽の波に溺れていられる。

幸せな思いがこみ上げて来て、躰全体で快感を得る。

大丈夫心配無い……たとえ溺れてしまっても……。



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