第32話
高城は娘を水葉と名付けて、それは溺愛している。
両親の愛に恵まれずに育った水樹。
その水樹の様な子が欲しいと願う女性達……。
父茂樹が決して認めなかった水穂……その母素子は水樹の様な子が欲しくて、茂樹の反対を押し切って産んで、水穂と名付けた。
その子水穂は、腹近いの兄水樹の様な顔の子が欲しくて、ずっとお腹の中に抱えていた間中、水樹の写真を見ていた。そして高城はその子に水葉という名を付けた。
克樹の前妻の香里も又、水樹の様な目鼻立ちの子が欲しいと願い、そして目元が似ている水鈴を産んだ。そして名付ける時に、〝水〟の字を使いたいと克樹に言った。
その頃には、水樹と高城の関係を知って苦しんでいた克樹だっだが、その提案には断る筈は無く、水鈴と名付けた。
子供を産める筈は無く、子供を産ませる事も育てる事も、ただ恐怖の対象の様になっていた水樹の様に……と、三人の女性が子供を産んだとは、なんとも不思議というか皮肉なものだ。
「克樹とは大違いだわね?」
母美奈子は高城が驚く程に子煩悩な事を、水樹から聞いて言った。
「仕方ないだろう?一番仕事が大事な時だったんだから」
「そうかしら?まあ……年取ってからの子は、可愛いって言うからね」
「えっ?そうなの?」
「そうだって聞くわよ」
水穂の出産迄は、縁談の話の件もあってなかなか来れなかったが、水穂が母子共に退院してお祝いに行ってから、水樹の憑き物が落ちて、余り高城家に行く事が無くなったので、実家に帰って来る事が増えて、美奈子はそれは喜んでいる。
だが克樹としてみれば、高城が子煩悩とか言われて、自分と比較されるのはかなり腹立たしい。
水樹も水葉をそれは可愛がる高城を見て、父の愛情を得られなかった水穂が、母子共に愛されていると思って、それは嬉しそうにしている。
高城の本音は解らないところはあるものの、確かに高城は絵に描いた愛妻ぶりと、子煩悩ぶりを見事に演じきっている。ゆえの高城が話題の食事は、美味い物も美味く感じないというものだ。
「水樹も嬉しそうね?」
「そりゃあ、水葉もだけど水穂が大事にされて、本当に嬉しい」
「そうよね」
美奈子は優しく微笑んで水樹を見た。
美奈子は年を追う毎に母親に似てきて、そして料理の味も似てくる。
水樹は祖母への思慕で、美奈子に会いに来て甘える。
それを美奈子は年の功で知っている。
それ故に、薄幸の甥が哀れでならない。
そんな甥を切り捨てた自分が情けない。
それでもこうして変わる事なく、慕って来てくれる水樹が愛おしい。
「あれから熱海からは?」
克樹は台所に立った美奈子を追って、台所まで来て聞いた。
「ああ、いろいろと……」
「まだ言って来てんの?」
「あんた又、女性の事で高城さんと香里さんに、迷惑かけたでしょ?」
「はあ?」
「はあ?じゃないわよ。それで鬼の首を取った様に、早く身を固めさせないからって……」
「誰だ?誰から熱海は聞いた?」
「誰……って、仕事関係の人……なんでも相手の
「あれは相手の嘘だったんだよ」
「嘘?」
「そんは事してないのに、俺に押し付けるつもりだったんだ」
「なんで?」
「なんで…… って……俺は人当たりがすこぶる良いらしい、幸せになんかしてくれない癖に……って香里に言われた」
「……それで、自分でもない子を、押し付けられたんじゃ……」
「香里が仲に入って、ケリをつけてくれた」
「……そう……やっぱり、身を固めないと駄目ね……香里さんみたくしっかりとした
「いい加減にしろよ」
克樹は美奈子に怒鳴り声を上げた。
「ああいった問題は、結婚してるしてないじゃないだろう?……っていうか、してた方が問題あるだろう?身を固めさす?勝手に決められる立場かよ?」
克樹は水樹を高城に養子にやった経緯を知って、激しく美奈子を憎み暴力を振るった事があるから、できるうる限り優しく接してきたつもりだ。
あの時以外に両親に反抗をした事も無い。
それ故に、香里との結婚の時も格差の心配はされたものの両親の反対は無く、仕事に夢中になって家庭を顧みずに離婚をした時も何も言われなかった、殆ど家に帰る事も無く顔の知らない飽きる程の数の女性との醜聞にも、両親から小言すら聞いた事がなかった。
無論だらし無い跡継ぎの為落ち着かせる術として、数限り無い縁談すら見向きもしないで仕事に飛び回っていても責められた事もない。
だから克樹は、
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