第25話

克樹が手を払いのけようとすると、容赦なく馬乗りになって克樹を見下した。


「責任取る気無いのに、するなよ……」


「……………」


「女孕ますような真似、二度とすんなよ」


水樹は真顔で見下したまま続けた。


「マジでしたら絞め殺す。下手な女なんか、絶対相手すんなよ」


そう言うと微かに瞳を伏せて、克樹の唇を噛んだ。

唇から血の味がした。

克樹が水樹の後頭部を引いて唇を合わせると、水樹は首に指を回したまま激しく唇を吸って、舌を絡ませてきた。

仰向けの克樹の上に乗った水樹の躰が、パジャマ越しにピンク色に染まり、段々熱を持ってくるのが解った。


「水樹……」


水樹は激しく求めて克樹の躰中に舌を這わせ、狂おしい程に愛撫をして克樹を煽る。

そしてパジャマを自ら脱いで、その赤く染まり始めた美しい肌を、惜し気も無く露わにして克樹の肌を弄った。


「水樹もうしない……」


「当たり前だろ」


克樹が夢にまで見た、ピンク色の小さな乳首が、可憐に艶を帯びて克樹を誘うが、執拗に水樹の唇が克樹の唇を捕らえて離さない。

長い間抱き合いながら、二人は接吻を交わした。

舌を絡ませ唾液で口の回りがベトベトになったが、水樹は止めようともせずに舌を入れてきた。

克樹は堪らずに水樹の下肢へ手を伸ばして弄ると、一瞬ピクンとしたが、そのまま陶酔するかの様に克樹の指を受け入れた。

今夜の水樹は激しく躰をくねらせた。それが余りに妖艶で艶かしく淫らに動く。

もはや紅く染まった身体は、大きく波打ってシーツを乱れさせた。

押し殺す声が善がり声となって、克樹を尚更に興奮させていく。

水樹は一瞬動きを止めて克樹を仰ぎ見て、瞬時声にならない声を立てながら、克樹にしがみついて耳に唇を当て、聞いた事も無いような甘い声を発した。そして力を入れたかと思うと、克樹の耳朶を噛んだ。

克樹はそれに反応をする事も叶わない程の、高みの波に呑み込まれて果てた。

全身の力を抜いて、水樹の胸に倒れ込んだ克樹は、ピンクの乳首に目を向けた。

水樹の呼吸が荒いので、乳首も大きく上下している。

克樹は水樹を覗き込んで、名残惜しそうに身を起こした。

汗が流れる額に、前髪が濡れて張り付いている。克樹はそれを手で持ち上げた。

形良い額が現れて、実に美しい顔を引き立てた。


「もう二度としない……って言うか、お前が高城の物だと思ってた時の……」


「解ってる。まだ克樹は僕の物じゃなかった……」


「違うだろ?お前が俺の物に、なってくれなかった時だ。だが俺は腹を括って、帰って来ると決めてた……」


「腹を括る?」


「お前と


克樹は水樹の細い胴回りを確認して探ると、水樹はくすぐったがって身をよじった。


「マジで好きだよ……あのまま殺されてもいいくらいに……」


「うん」


水樹の瞳は黒々として、キラキラと綺麗だった。

この世の何よりも綺麗で、克樹を捕らえて離さない。


「ところで、俺って酔うとあっちの方は駄目になんの?」


「なにそれ?」


「いや、いい」


……やっぱり夫婦しか、解らないって事があるのか……


克樹が思っていると


「こっちの方?」


水樹がわざと触って、揶揄う様に言った。


「克樹は酔うと全く駄目だよ」


「それって昔からか?」


「そんなの、解るわけないじゃん」


「そっかぁ」


「前にさ、小見の祝賀会の後送って来た時……」


「何かしたのか?」


「あちこちキスしまくって、その気あるのにいざとなると駄目でさ……」


水樹は可笑しそうに言った。


「はぁ?そんな事あったんだったら、どうして言わねーんだよ?」


「覚えてないのに言ったって変だろ?克樹の気持ちも解んなかったし……だけど、あれでちょっと変わったって言うか……」


「なにが?」


「克樹への気持ち」


克樹は微かに、照れ笑いを浮かべた。

恋い焦がれていた矢先の事だ、酔っていたとは言え覚えていないなんて、勿体無い事をしたと思う自分が可笑しい。


「どんな風に?どんな風に変わった?」


「前にも言ったけど、ちょっと違うなって……高城さんの言う形とは違うなって……そう思ったんだよね……あの時」


「そうか……あの時少し気づき始めたのか……?」


途轍もなく疎い水樹が、肉親愛と恋愛の違いに気づき始めたのが、小見か……さすが長年の友だ。いい仕事をしてくれる。


「……って、もしあのままイケてたら、お前やらせてくれてたの?」


「さあ……どうだろう?」


水樹は可愛く笑って誤魔化した。


「……?マジ既成事実作れてたのか?」


「んー?どうだろう?」


「俺の気持ち解って、意識したのか?おい……」


克樹は嬉しくて水樹を抱き寄せた。


「俺ずっとお前の事、好きだったんだよ」


「解ったよ。その時マジで解った」


水樹は克樹の腕の中でそう言って囁いた。

その時始めて、耳朶を噛まれた事を思い出して、耳朶に指を持っていく。


「今回はそれで許してやる」


気が付いた水樹が、耳朶を舐めて言った。

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