第21話
「専務さん」
改札口を出た所で、
克樹は、誰かに呼び止められた様な気がして、辺りを見回した。
「ああ……やっぱり専務さん」
小柄で派手な女が、克樹を認めて近寄って来た。
「ああ?」
克樹は側に寄られて、顔をよくよく見れる所まで来た時に、一瞬眉間に皺を寄せて水樹を一瞥した。
「お久しぶりですぅ」
「何してるんだ?こんな所で」
「お客様を送って来た所なんです」
「客とどっかに行って来た帰りの、間違いじゃないのか?」
「もう、私そんな事しませんってば」
女は慣れた様子で、しなを作って言った。
「近いうちに来てくださいね」
意味ありげに手を握って、上目遣いで言う。
「いや……」
克樹は赤面を作って、女の手を払い除けた。
「水樹行くぞ」
「待ってますから」
克樹は慌てて水樹を促すと、その場を離れた。
「知り合い?」
「ああ……以前接待の後に、行った店の女の子だよ」
「ふーん?親しそうだね」
「馬鹿、ホステスと客だよ」
「だけど可愛い子だね」
「何が」
克樹は水樹の顔を見ようともせずに、せかせかと前を早歩きで歩いて行く。
「そうかなぁ?さすがホステスさんだ、と思って……」
「あんなの可愛くねぇだろう?」
「そうかなぁ?ちょっと派手めだけど、女性らしくて可愛いじゃん?」
「お前ずっと思ってたが、趣味悪過ぎ」
「……変なの」
「はぁ?」
「なに慌ててんだよ?」
「たかがホステスだ。慌てるわけねぇ」
「そうだよ。だけど慌ててるみたいだ」
克樹は急に立ち止まって、振り返って水樹をまじまじ見つめた。
「慌ててなんかいない!」
真顔で言った。
「怒ってるよね?」
「怒ってない!」
水樹は吹き出して、克樹にデコピンを食らわせた。
「痛え!」
「ほら怒った」
「……ったりめーだろ」
「女の一人や二人……今更感満載だがなぁ」
水樹はそう言うと、克樹の手を取って歩いた。
克樹はおでこに指を持っていって微笑んだ。
「葵さん無事着いたんだ?うん……おじいさんそんなに喜んでた?写真できたら送るからね。うん、水穂に伝えておく……おじいさんに宜しくね」
克樹はソファーでうたた寝をし、遠くで水樹が葵さんと、電話をしているのを聞いていた。
白い肌が、克樹の前で揺れる。
克樹は水樹の名を幾度となく呼びながら、その膨よかで豊かな胸に口をつけ、その尖った黒く大きくなった乳首を、コロコロと舌を使って転がした。すると水樹が大きくもがいて……大きく……。
克樹は吃驚して目を開けた。
「起こしちゃった?」
水樹が覗き込む様に言った。
「ああ……」
「葵さんから」
「おじいさん喜んでたみたいだね?」
「うん。葵さんがスマホで撮った水穂の写真。赤ちゃん産まれたら、見せに行かないとね……」
「ああ……」
実のところ克樹は慌てている。
怒鳴ったところで誤魔化したところで、あの女と何も無かった訳では無い。
馬鹿な事にこっちに帰って来ると決めて、北海道の仕事がひと段落ついた時に、数度帰って来てこれからの事を父とかと話し合っていた。
そんな時に水樹と間違えて、一夜を共にした事があった。
水樹との良好な関わりが、克樹の思いを止める事ができなくなっていた。
溢れ出した思いは、激しく克樹から流れ出して、どうする事もできなくなっていた。
そんな時に過ちを犯した。
白く膨よかで豊かな胸は、決して水樹の筈は無く、あの白肌に浮き上がる乳首は、決して黒く大きく無いのだ。
水樹はほんのりとピンク色が、徐々に赤みを帯びていくその様は、艶を放って色っぽいのに、ただ女の武器の様な巨乳だけのあの女に、水樹を重ねて求めたのかと思うと、ただ羞恥に耐えかねる程だ。
そんな女と今日水樹と一緒の所に出くわすとは、因果応報を目の当たりに見た様で、慌てふためいている。
あの女以外、神に誓ってもよいが女とは一線を引いている。
ましてや水樹を得た時から、全くと言っていい程、女に興味がなくなってしまった。
それゆえに、たった一度のそれも酔っていて、覚えていない様な相手との過ちだ。
無かったものと忘れてしまいたいのが人情だ。
ましてや貞操など無いような女だ。上手く流してしまえるものなら、流してしまいたい。
それを水樹に知られるのが、堪らなく厭だ。
長年数限り無い醜聞に親の頭を悩ませた癖に、今は水樹にその一回を知られる事が恐ろしくて堪らない。
だから、克樹は慌て戦いているのだ。
「水樹……」
克樹は水樹のピンク色の乳首に唇を持っていく。
幾度と無く執拗に胸を弄る。
「やっ……」
水樹は甘い声を、隠そうともせずに発しながら身悶える。
あの豊かだが黒くて大きな女の乳首を、まるで振り払っている様に、克樹は執拗に舌を這わせる。
「もう……そこは……」
水樹は懇願する様に克樹を促すが、克樹は容赦をしない。
とうとう水樹は泣き声になって、克樹にしがみついて懇願した。
蕩ける様な水樹の甘い声と、汗ばむ肢体が克樹を深く深く取り込んでいく。
……ああ……なぜあんな馬鹿な事を……
興を削がれるあの女の乳首を思い浮かべて、水樹の中に果てた。
……最悪の罪悪感だ……
あろう事かあの女の乳首を、頭に描いて果てるとは。
克樹は珍しく早々に水樹から身を離すと、仰向けになって目頭を手で覆った。
「今日の克樹は変だよ」
「ごめん」
「なに?」
「ごめん」
謝る事しか思い浮かばない。
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