第15話
その姿に克樹は我を忘れていく。
煽られ唆られて、その妖艶さに狂わされていく。
克樹は誘われるまま水樹を押し倒し、細くてしなやかな水樹の脚を持ち上げて、水樹の中に入っていく。と、かつて感じた事の無い快楽に酔いしれた。
これが溺れていく……という感覚か?克樹はそう自覚して、水樹の脚を抱えたまま水樹を静かに揺さぶった。
微かに渋面を作る仕草が堪らなく美しくて、克樹を捕らえておかしくしていくこの感覚は、他の者には得られない感覚だ。
「水樹……」
迫りくる快感の果てに向けて克樹は激しく律動し、手折ってしまいそうな水樹を徐々に激しく揺さぶって、恍惚の際を行き来しながら、行き着くべき所へと上り詰めていく。
水樹が克樹の名を小さく呼んで躰を密着させ、克樹は大きな高まりと共に、水樹の中に思いの果てを吐き出した。
克樹は水樹の上に重なる様にして、荒い息を吐き続け、水樹も荒い息を吐きながら、天井を見つめている。
離れ難そうに克樹が身を起こすと、宙を見つめる水樹の唇に唇を重ねた。
今だに離れがたくて堪らない様に、幾度となくキスを繰り返す。
……とうとう……
と思う。
思いを果たしたのか、手に入れたのか……それとも、過ちを犯したのか……。
答えのないままにキスを繰り返す。
熱く桃色に染まっていた華奢な白い肌が、徐々に透ける様に白く冷めていくのが解る。
愛しさと恋慕が増していく。
以前とは違う愛しさが、込み上げて満たされていく。
これが本当の自分の思いだと自覚して、満足感を覚えた。
「愛してる」
「…………」
「愛してる、水樹」
「うん」
克樹は横になると、水樹を抱き寄せた。
「相変わらず細いのな……」
「そうかなぁ?」
「特に腰の辺り……」
克樹は水樹の腰に手を回して言った。
「ふっ……くすぐったいよ……」
「感じて」
克樹は臆面もなく言った。
「僕は大人になるのが怖かった……。高城に行った頃だったかなぁ?子供を作れる様になるのが厭だった。ある日、高城さんが僕に教えてくれたんだ。僕が最も嫌悪する物を殺す方法……。今克樹がした様に、高城さんが僕に教えてくれた。そしてそうやって、生きて行ってもいいんだと教えてくれた」
克樹は上半身を起こして、水樹を覗き込んだ。
「体外に出して殺せばいいんだ……。そう思った。そうして生きて行ってもいいんだって……結婚もしないで、子供も作らないで……。それでも誰かに愛されるって……」
「お前のこれって……そういう事なのか?」
「高城さんと僕の間ではね……僕にとってはそうだった、ただの儀式。子供を育てる事ができないだろう僕の……それでも生きて行く為の……」
「じゃ、今のもか?俺は……」
「克樹。僕はもう大人だよ。儀式でこんな事はしないし、第一こんな儀式なんかしなくても生きていいって解ってる……だけど、あの時は真剣に信じた。思春期の僕の過ちだ……」
「だから高城と?」
「うん。あの時の僕の救世主だ……」
「そんな……お前が少し変わってたから……だから俺は……」
「僕が怖かったのか?」
「ああ……。さっきも言ったが、あの時俺は男も知ってた。ただの遊びで薬が入ってても、体は覚えてた。お前とだったらじきに……。もしもあの時俺がそういう気になったら、お前受け入れてたか?」
「まさか。言っただろ?儀式だと信じてたって……もしもあの時そうなってたら、お前とこうしていない……」
「なんで?」
「本当のところが解らないから……結局お前も僕も駄目だったさ……」
「…………」
「僕は、克樹が女性と関係を持つのを恐れた……僕を捨てて女性に走るのを、ずっと恐れて駄目になってるし、克樹はきっと女性に走ってる」
「まさか、お前がその気になってくれれば……」
「あの時克樹が出した答えが本当だ……過ちでも間違いでもない……」
「だけど今は……」
「あの時があるから、克樹の気持ちが判然とした。そうだろう?僕もそうだ……香里ちゃんがいなけりゃ……」
「香里がいなけりゃ?なんだ?」
克樹は口元が綻びるのを覚えて、水樹を覗き込んでいる。
「香里がいなけりゃ、愛してるって気付かなかったのか?」
「ずっと後だよ……」
「はぁ?」
「自分の気持ちに気付いたのは、もっと後……。だけど香里ちゃんがいなけりゃ、気持ちの違いが解らなかった……」
「……違いって?」
「だから……」
「俺は結婚式の日からだ……ずっと……」
克樹が再び唇を付けると、水樹は自然と受け入れた。
「もう一回したい水樹……今度はじっくりお前を感じたい」
「ん……」
水樹は克樹の躰の重さを確かめつつ、腕を背中に回して目を閉じた。
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