第14話

「まっ、子供は問題がなきゃ、母親が育てるのが一番だ。産んだという事実を、しっかり把握してるからな……十月十日腹に抱えて育てて産むんだから、父親とは愛情が違う。だが必要に応じて父親はきちんと、父親の責任を果たすべきだと俺は思ってる。その時を父親は解らないから、言われたら果たすしかないけどな……」


克樹は、自分の事を言っている。

克樹は自分が情けないヤツだと自覚しているから、香里が別れたく無いと言った時に、別れるつもりはなかった。宗方が本気でなければ、だらしのない頼りない父親でも、水鈴の父親をしていただろう。

遠く離れて余り帰る事のない、無責任な父親として存在していた筈だ。


「だが水鈴には、宗方さんがいてくれる。俺の出番はないが、万が一水鈴に言われれば、親としてできる限りの事はする……」


「水鈴ちゃんに限って、お前の出番はないな」


「はぁ?なんで?」


「何せ奥田家だ。お前は勿論、宗方さんでも役目は回って来ない。奥田家の令嬢は奥田家が何不自由無く育てるさ……」


「は……」


克樹は鼻で笑って、手にした缶を飲み干した。と同時に照明を消された。


「おい!」


「明日はいろいろ買いに行こう。ベッドも買ってゆっくり寝れる」


「はぁ?お前なぁ……」


水樹は布団に横になろうとして、克樹が覗き込むのを注視した。

そしてゆっくりと目を閉じた。


「えっ?なに?」


水樹は克樹がパジャマのボタンに手をかけたので、吃驚して克樹を凝視した。


「いや……マジ」


「いや、だから何?」


「いや……だからマジマジ……」


言葉が噛み合っていないが、克樹はそれどころじゃないらしく、至極真面目にボタンを外している手を、水樹は何故か制止した。


「ダメか?」


「いや、そうじゃ無いけど……」


聞いてくる癖に手はボタンを外していく。

白い肌が露わになると、水樹は克樹の頬に拳を作って軽く当てた。


「相変わらず白くて綺麗だな……」


「恥ずいから早くしろよ」


「そうだな……」


克樹はそう言うと上半身を脱ぎ捨てて、水樹の上に重なった。

かつて幾人かの女と関係を持った時、必ずこの白い肌が脳裏に浮かんだ。

こんな風に白い肌でなくては、どんなに美人でも巨乳でも興醒めした。

また抱きたいとは思わなかった。

この暗闇の中でも解る程に、白く浮かんでこないと気持ちが冷めた。

克樹は躰を重ねて唇を合わせた。

朝の様に音を立てて吸い合うと、生々しさに体温が上がっていく。

舌を入れると、水樹がそれを絡め取るようにするから、小さな生き物の様に絡み合って、互いが互いに確かめ合う様で、まるでこれからの行為を連想させて、水樹の体温も上がってくるのが解った。

克樹は名残惜しそうな水樹の唇を離した。すると水樹は大きな息を耳元で吐いた。

そのまま克樹は、唇を首筋に吸付けて、思いっきり吸った。

水樹は手を、克樹の背に這わせて爪を立てた。

首筋の仕返しだと察した克樹は、薄っすらと笑みを浮かべて、水樹に舌を這わせた。

徐々に下降して行くと、水樹が陶酔の色を放ち始める。

パジャマのズボンに辿り着いた頃には、水樹は荒い息を立て始めていた。

水樹のキラキラした瞳が、克樹を捉えている。

透ける様な肌を波打たせて、少し反り返る姿勢から、顔をこちらに向けて見つめているのが、暗闇の中でも解った。

目が合った様な気がした瞬時、克樹はズボンとその下を同時に引きずり落ろした。


「あ……」


水樹は一瞬声を立てそうになって、唇をきつく結んだ。

きつく結んだその唇が震え、声にならない声が漏れた。

克樹に、最も弱く感じる部分に口づけされて、水樹は身をよじって答えている。

恋い焦がれた肢体が、激しくシーツを乱れさせる。

細くてしなやかな脚が、克樹の顔の両脇で隆起して震える。

白い肉体が激しく悶えて、声にもならない声が荒い息と共に漏れる。

水樹は大きく反り返ると全身に力を入れて、そして静かに力を抜いた。

暫く荒い息を吐きながら、水樹は天井を見入っている。

その妖艶で淫らな姿を、克樹は身を起こして眺めた。

水樹は、克樹が下半身を脱ぎやるのを目で追いながら


「克樹はあんの?」


と聞いた。


「あっ……?」


克樹は再び水樹の下半身に、手をやりながら問い返した。


「知ってんの?」


触れたくて堪らなかった、水樹の部分に触れられて、興奮気味の克樹が


「ああ」


と言う。


「う……」


再び水樹は陶酔する様に、潤みきった瞳を克樹に向けて、細いかいなを克樹の首に回してしがみついた。


「知ってる」


「ん……」


水樹はしがみついたまま、克樹の耳に唇を付けて声を殺した。

可愛くて仕方がなかった水樹の、初めて見せる妖艶で淫らな姿に酔いながら、克樹は秘部を弄ぶ様に指を動かした。

すると水樹は、克樹の肩に顔を埋めて、指の動きに合わせて腰を動かした。


「薬物に手を出してた時に、女とも男ともやった」


「えっ?」


潤んだ瞳を向けて克樹を凝視したが、直ぐに快感の波に呑まれて、再び克樹にしがみついた。


「遊びだったけどな……」


「うう……」


水樹の押し殺す声が、耳元で克樹を煽る。

徐々に息を荒げていく水樹が、克樹を捕らえて誘いをかける。

可愛いだけの水樹が、克樹に抱かれながら身悶え誘いかけてくる。

声にならない声が、荒い息がただ誘う。


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