第2話

久しぶりに忘れていた感情が溢れ出て、克樹を苛立たせた。

自分が水樹から、疎外されたようでイライラとする。


二次会は披露宴会場の近くの、仲間内の行きつけの店を貸し切ってあり、木本達の支度を考えて時間を充分に取ってあった。小見達はまだ会場内で時間を潰しているだろうから、一旦戻るかこの辺で時間を潰すか考えていると


「克樹君?」


と、名前を呼ばれて辺りを見回した。


「藤木克樹君だよね?」


「松長さんですか?」


克樹はかつて一回だけ会った、松長の顔を覚えていた。

あの時の事は、小さな事でも覚えている。


「丁度よかった」


高城の従兄弟だと聞いているが、克樹は高城よりも印象が良い。

まあ、水樹に邪な感情を抱かずに、親切にしてくれる人間は、誰でも印象が良い。


「あれ?水樹は?今日は友達の結婚式だったよね?」


「ええ……これから二次会なんですけど、水樹は体調が良くないみたいで、先に帰したんです。松長さんは?仕事ですか?」


「いや……」


松長は神妙な面持ちを向けて来る。


「今少し大丈夫?」


克樹が一瞬躊躇してしまう程に、松長の表情は神妙だ。


「水樹は一昨日から余り寝てないと思う」


「どう言う事ですか?」


「……旬さんが、あのマンションを出たんだ」


「なぜ?」


「…………」


「いつです?」


「三日程前」


「なんで?」


克樹が表情を変えて、トーンを下げて再び聞いた。


「水樹に君に知らせないでくれと、釘を刺されてね……」


「なぜ高城さんが、マンションを出たんです?水樹は一人って事っすよね?」


「うん。あそこに一人のはずだ……」


松長は言いにくそうに、だが義務を果たさなくてはいけない、と思っているかの様に言った。


「旬さんが、結婚する事になると思う」


「はあ?」


克樹は大声で言った。


「誰が誰と?」


「……旬さんが……」


松長は言葉を詰まらせたが、吐き出す様に言った。


「水穂ちゃんとだ」


「はあ?」


克樹の声が怒りで大きくなる。


「こんな道端で、冗談はよしてくださいよ」


「いや……。冗談じゃないんだ。高城家も大騒ぎになってる。今も実家に行った帰りなんだが……。旬さんには、騒ぎばかり起こされるが、流石に高城家も結婚はしないと思っていたからな」


高城旬は、それはできのいい高城一族の中でも、群を抜いての秀才だ。

弁護士資格も飛び級をして一発で取得し、好成績で全ての過程を成し遂げている。

無論父であり、弁護士の先輩であり、大手事務所の所長である、高城幸一郎の自慢でもあった。

ところが、高城は異性より同性に関心を持つところがあった。

とは言っても、男色家ではない。

ただ気に入ると、男女の区別がなくなるというか、偏愛が過ぎるというか……。

何事にも夢中になる性格で、それは恋愛でも勉強でも仕事にでも当てはまる。

だから何事にも、ダントツの結果を残すのだろう。

学生の頃でも、気に入れば可愛らしい同性と、憚る事なく付き合ったり、そうかと思うと女性とも付き合った。

良家であるから父の幸一郎は、早くに身を固めさせて落ち着かせようと、家柄が釣り合う令嬢を充てがう様に結婚させ、そしてそれが大失敗に終わった。

気に入らない相手には、見向きもしない性質だから、結婚したといっても、気に入った相手と好き勝手をするから、我儘放題で育った令嬢に、高城の所業が我慢できるわけが無く、結局他に相手を作られて、一年も持たずに離婚してしまった。

どこかで聞いた様な話だが……。

それだけでは飽き足らず、顧客先の夫人と関係を持ってしまい、それは大変な騒動となったが、結局相手も離婚して、落ち着いた頃に身を固めるのかと思っていたら、水樹と養子縁組みをしてまたまた親類縁者を驚かせた。

さすがに、高校生になろうとしている子供の養父になるには、高城はまだ若かった。しかし、この秀才の唯一というべき玉に瑕たる、過剰な偏愛ぶりを知っている身内は、ただそれを見ている事しかできなかった。

そうこうしているうちに、相手の方は海外で良い相手を見つけて結婚してしまい、養子縁組みした高城は、水樹の養育に関心を注いだのか、問題を起こす事もなくなって、落ち着きをみせたので、高城家としても水樹ができがいいので、跡を継がせる事で、高城の結婚は諦め状態となっている。









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