思いのあとさき(BL) ーその先
婭麟
第1話
あれから一年ー。
水樹と水樹の祖父の所に行ってから……。
克樹は北海道の仕事を終えて、中学時代からの仲間である、木本の結婚式に間に合わせて帰って来た。
「ああ……大丈夫ちゃんと着いた。解ってる明日は11時からだろう?今か?マンションだよ。風呂に入って寝る所だ」
克樹は久しぶりの我が家の、フローリングに敷いた布団に、滑り込んで言った。
奥田潤司の豪邸を建てる為に、腕を試された感のある神戸の仕事は、奥田と平林の合格点を頂いて、近い将来奥田の豪邸を建てる事になりそうだ。
その為にも、早めに東京に腰を落ち着かせる気になった克樹は、平林からの依頼である、北海道の仕事を早めに済ませた。
その為に慌しく過ごしていたので、心配性の水樹がここ数日連絡を入れて来ている。
「じゃあ安心だね?明日は教会で待ち合わせだから、間違わずに来てよ!」
「それより、飲み会ができなかったのが残念だ」
「やっ……。小見の奥さんが入院したり、小森の所も双子だったからいろいろ大変で、飲み会どころじゃなかったし……木本ももう同居してるから遠慮したんだ」
「えっ!あいつが?」
「うん……先に入籍して入り婿しちゃってる」
「入り婿?」
「木本の所が大反対だったから、木本の意志の硬さを誇示するのに、押しかけ入り婿?」
「やるなあいつも」
「だって七年越しの相手だぜ、克樹には想像できないだろうけど」
「はぁ?」
「そんなに長い事、付き合った事ないもんね……。香里ちゃんの時が……五年か?」
電話の向こうで、水樹が考える様子が伺える。
「俺は根は一途なんだよ」
「それでも頑張ったよなぁ。勘当ものだったようだし……」
「まぁ、バツいちの子持ちの年上だからなぁ、仕方ないだろう?」
「そういうもんかなぁ?」
「大学出たばかりのあいつが夢中になって……。一度は親の反対で別れたんだからなぁ……」
「えっ?そうなの?」
「ああ……で、相手は結婚して……まあ、お決まりのように失敗してだな……出戻って来た彼女を、また追いかけたんだから……あいつは凄いよ。彼女の方の両親は、木本に絶大なる信頼を寄せてる……」
「長年かけて説得したんだけど、今度は向こうの家に入るのに揉めてさぁ」
「あいつ兄弟いたっけ?」
「うん。弟と妹」
「じゃ、いいじゃんな?」
克樹は仰向けになって言った。
「まぁ……親が反対するって事は、これからも大変かもなぁ……。親は長年の経験で子供を心配するんだろ?俺の時だって、家柄と若過ぎるので心配させた。結局駄目だったからな」
「…………」
水樹の反応がさっきとは違ったので、克樹は身を起こした。
「おい、どうした?高城でも来たのか?」
「また、克樹は……」
水樹は微かに笑って
「じゃ、明日な」
電話を切ってしまった。
「なんだよ……」
克樹はそう言ったものの、ここの所の忙しさで疲れていて、直ぐに眠りについてしまった。
木本とは、以前木本が一度別れた時に、飲み明かした事があった。
木本が好きになり、年上なのに追いかけ夢中になったが、相手は大学を出たばかりの木本を思い、木本から離れて結婚してしまった。
その時は、お互い心ならずも若さ故に手放した者同士、克樹は水樹への気持ちを含めて話しをした。
そして木本は再びのチャンスを、決して逃さずに手に入れた。
去年、北海道にやって来て、結婚するまでに至った事は、当人の口から聞いた。
自堕落な生活を払拭した克樹に
「お互い頑張ろう」
と言った。
その時、彼女と男の子を連れて旅行がてら寄ってくれたのだが、子供は木本によく懐いていて、とてもいい家族に見えたのを覚えている。
恋愛なんて幾らでもやり直せるかもしれないが、自分の中か相手の中のどちらかが、きっちりと縁を断ち切らない限り、決して終われないものだと克樹は思っている。
克樹の場合も水樹が克樹に引導を渡してくれれば、それで全て断ち切れるものだと確信するのに、従兄弟という曖昧な関係が、克樹を呪縛し思い切りの悪い、女にだらしない情けない男にしてしまった。
今の世の中、親の許可など無くても結婚できる。
それでも真面目な木本は、親の説得に時間をかけている。
克樹ならそんな事はしないだろう。
翌日教会に行くと懐かしい仲間が、相変わらずの体で待っていた。
じきに中に入り式が始まった。
克樹が水樹の隣に座ると水樹は可愛げに笑んで、祭壇の牧師の前に厳かに、バージンロードを父親とやって来る新婦を待つ木本を小さく指差したが、なんだか顔色が悪く克樹を心配させた。
「具合が悪いのか?」
克樹同様に心配した小見が言った。
「やっ……ちょっと」
水樹はそう言って視線を伏せた。
披露宴は木本の人柄らしく、素朴で温かみのあるものだったが、水樹の体調の悪さが心配で、余り記憶に残っていない。
「二次会は帰れ」
小森が心配して、無理矢理帰らせる事になった。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと寝不足なんだ……」
「仕事大事だけど、体はそれ以上だからな」
三野が真顔で言う。
「うん、ごめん。克樹も行って、タクシーで帰るから大丈夫」
「解った」
克樹は神妙に頷いて水樹を覗き込む。
「マジ大丈夫」
それでも心配で、披露宴会場にある、タクシー乗り場まで一緒に行く。
「仕事そんなに大変なのか?」
「それもあるけど……ちょっと……」
歯切れの悪い言い方をしたかと思うと、タクシーに乗り込んだ。
「ありがとう。木本に宜しく伝えて」
力なく笑って言ったかと思うと、タクシーが滑り出た。
「……なんだよ?」
歯切れの悪さに不安を残した。
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