太くて長いそれは

snowdrop

お答えください

「そういえば似てるわねクイズ~」


 出題者の男子がオネエ口調を真似て声を上げた。

 思わず吹き出してしまう三人の参加者は強めに手を叩く。

 左から順に書紀、部長、会計が横に並んで座っている。

 三人の手元にはそれぞれ、スケッチブックと黒のインクペンが用意されていた。


「何気なく使っている言葉の中には、似ているけれど意味や対象が異なる言葉があります。たとえば調理されていない状態を『卵』というのに対し、『玉子』は調理された状態で使う言葉のように。同じ読み方でも漢字が違うこともあります」


 進行役の説明の途中で参加者の一人、書紀が小さく右手を上げる。


「ようするに『ふたりはプリキュア』と『ふたりはプリキュアMaxHeart』や『Yes!プリキュア5』と『Yes!プリキュア5GoGo!』は違うとか、そういうことですね」


 進行役の子が笑いながら「まあ、そういうことです」とうなずく。


「多くの人が似ているのは知っていてもいざ説明となると困ってしまうものがあると思います。今回は似ているものを題材にしたクイズをします」


「プリキュアクイズ? ちと厳しいな。タイトル知ってても、僕は見たことないぞ」

 会計は顎をしゃくりながら部長に目を向ける。

「今回は、書紀が有利のクイズなんですか」

 

 部長の質問に進行役は「プリキュアクイズではありません」と笑いながら答えた。


「まじかー、プリキュアクイズなら自信あったのに」

 頭を抱える書紀を横目に笑みを浮かべて安堵する二人。


「ルール説明をします。問題は五問用意しました。問題文はあるものの説明をしていますので、説明に適した解答をお手元のスケブに書いてください。正解すれば一ポイント、不正解の場合はポイントが付きませんが、減点もありません。最終的にポイントが高かった人が優勝となります」


 説明を聞きながら、三人はそれぞれスケッチブックを開き、ペンを手にとった。


「問題。握り飯を丁寧に言った言葉で、握られた米の形にはこだわらないものはなにか」


 三人は迷うことなくインクペンを手に持ち、スケッチブックに書いていった。

 書き終わると、ペンに蓋をし、スケッチブックをふせる。

 

「一斉にみます。スケッチブックをオープン」

 

 出題者の声に合わせて、三人はスケッチブックを立てる。


「おにぎり」と書紀。

「おにぎり」と部長。

「おにぎり」と会計。


「三人とも答えは同じ。正解は『おにぎり』です。各自、一ポイント格闘しました」


 よっしゃー、と声を上げて三人は固めた拳を軽く掲げる。


「これの誤答はおむすびですか」

 部長の問いかけに出題者が「そうです」と答える。

「握り飯を丁寧に言った言葉、とくに三角形に握ったものは『おむすび』と呼びます」

「なるほど、いい問題ですね。アンパンマンにでてくるおむすびまんの顔も三角ですから、名は体を表わしています。ただ、こむすびまんは顔がまるいので、厳密にはおにぎりまんと呼びたくなりますね」

「へえ、そうなんですか」


 関心する進行役。

 書紀も横から口を出す。

「おむすびまんって、バタコさんと恋仲だったんだけど、遠距離恋愛の末に別れたんだよね。いまじゃ、ただの知り合いみたいになって。そういう意味でもアンパンマンって、遠距離恋愛が現実に厳しいことを教えているから、世の中のお子様たちにとってのフェイバリットな作品となっているんだと思います」

「まさに幼児教育」と会計。

「そういうウンチクはいいので、次行きます」


 三人はスケッチブックをめくり、ペンの蓋を外す。


「問題。凍ったお菓子の中でも乳固形分3.0パーセント未満で、食品衛生法上『氷菓』に分類されるものはなにか」


 三人はスケッチブックに書いていった。

 書き終わると、ペンに蓋をし、スケッチブックをふせる。

 

「今回も早いですね。一斉にスケッチブックをオープン」

 

 出題者の声に合わせて、三人はスケッチブックを立てる。


「ソフトクリーム」と書紀。

「シャーベット」と部長。

「シャーベット」と会計。


「二人が答えは同じ。正解は『シャーベット』です」


 よしっ、と声を上げて二人は、固めた拳を軽く掲げる。


「乳脂肪分と無脂乳固形分を合わせた乳固形分が決めてですかね。

 乳固形分15.0パーセント以上、乳脂肪分8.0パーセント以上をアイスクリーム。

 乳固形分10.0パーセント以上、乳脂肪分3.0パーセント以上をアイスミルク。

 乳固形分3.0パーセント以上がラクトアイス。

 乳固形分3パーセント未満で、砂糖や果汁を水分に混ぜて凍らせた冷菓子全般を『氷菓』と呼び、そのなかで、シャーベットは果汁が主原料で、乳製品が使われているけど分量が少ないので、氷菓に分類されてます」


 部長の解説を聞いて、「ソフトクリームは?」と書紀が疑問を投げかける。


「ソフトクリームの分類はないよ」

 会計が横から口を挟む。

「保管温度でアイスクリームとソフトクリームが決められてるんじゃなかったかな。マイナス三十度で固めるアイスクリームに対し、ソフトクリームはマイナス五度くらいで保管してる」

「へえ、そうなんだ。知らなかったー」

 書紀は瞬きしながら、スケッチブックをめくった。


「問題。髪の表面を油分でカバーし、シャンプーの後の髪のきしみを防ぎ、手ざわりをよくして髪の水分の蒸発をおさえることができ、毛髪の内部にまでタンパク質成分が浸透できるので、ダメージ部分に栄養を補給できるものはなにか」


 三人はスケッチブックに書こうとするも、手が進まない。

 どっちかな、とつぶやく会計。

 顔をしかめる書紀。

 最初に書き終えた部長がペンに蓋をし、スケッチブックをふせる。

 二人も書き終えてスケッチブックを机の上にふせ置いた。


「それではスケッチブックをオープン」

 

 出題者の声に合わせて、書紀からスケッチブックを立てていく。


「ボタニカルリンス」と書紀。

「トリートメント」と部長。

「コンディショナー」と会計。


 三人は互いのスケッチブックを見合う。


「三者わかれました。正解は」

 進行役が途中で言葉を止める。

 三人は冷静に答えを待った。

「『トリートメント』です」


「よっしゃー」

 部長が力強く右拳を突き上げた。

 

「ボルタニカってよく聞くけど、やっぱり違ったか」

 ため息とともに嘆く書紀。


「しまった、そっちだったか」

 会計は苦笑いを浮かべる。


「今回はリンス、トリートメント、コンディショナーから解答を選ぶ問題だと推測しました。冒頭にもあった説明がリンスのことで、後半の毛髪の内部に栄養を補給できるのがトリートメントだと書きました。リンスは内部にまで浸透しないだろうし、コンディショナーは毛髪の表面のコンディションを整えることができるんだと思います。ちなみにシャンプーをしたあと、トリートメントで補修を行い、最後にコンディショナーで表面をコーティングするのが正しい順番です」

「部長の説明、お見事です」


 書紀と会計は手を叩いてから、スケッチブックをめくった。


「これで部長が二ポイントとリードです。では四問目の問題」


 進行役の声を聞きながら部長はスケッチブックをめくり、三人はペンを持った。


「問題。小麦粉に水を加えて練りあわせたあと製麺、または製麺した後加工した長細く、太さは1.3ミリメートルから1.7ミリメートルの麺はなにか、お答えください」


 三人は頭を抱えつつスケッチブックに書いていく。

 なんだっけ、と、つぶやく会計。

 これでもいいよね、と顔をしかめる書紀。

 思い出した、と部長があわてて書く。

 三人書き終えて、スケッチブックを机の上にふせ置いた。


「それではスケッチブックをオープン」

 

 出題者の声に合わせて、書紀からスケッチブックを立てていく。


「そうめん」と書紀。

「ひやむぎ」と部長。

「細うどん」と会計。


 三人は互いのスケッチブックを見合う。


「正解はひやむぎです。細うどんも正解です」


 進行役が答えを告げると、「うぎゃー」と叫びながら書紀が頭を抱えた。

 会計は、くっくっくと小刻みに笑った。


「今回は生麺のうどんを取り上げてみました」


 進行役が説明しようとすると、部長が口を出す。


「そうめん、ひやむぎ、ひらめんなど小麦粉を水に加えて練り合わせた製麺や後で加工したものも含めてのうどんですね。

 日本一細いそうめんは0.2~0.3ミリメートル。

 通常のそうめんの太さは0.7~1.2ミリメートル。

 日本一太いそうめんは1.3~1.7ミリメートル。

 これはひやむぎの1.3~1.7ミリメートルと同じです。

 うどんなら1.8ミリメートル以上。

  きしめんだと幅が4.5ミリメートル以上厚さ2ミリメートルと、太さがちがうだけ」


「ですよね」

 部長の話に会計はうなずく。

「直径が1センチくらいある伊勢うどんや、長さ50センチ、幅2.5センチ、厚さ1センチの一本うどんもありますから」


「ほうとうは?」

 何気なく書紀がたずねる。


「ほうとうは、薄くて平たいきしめんよりさらに薄く、幅が広いんじゃなかったかな」

 部長が思い出しつつ答えると、会計が付け加えた。

「いちばんの違いは、麺を打つ際に食塩をまったく加えないところですね」


「太さで名前が違うだけ、種類が多いんだってことがよくわかった」


 書紀が納得するのをみて、進行役が口を開けた。


「ポイントの確認をします。書紀が一ポイント。部長が四ポイント。会計が三ポイントです。つぎが最終問題です」


 進行役の声のあと、書紀が右手をあげた。


「最後の問題を正解したら、ポイントはいくつなんですか。このままでは部長が優勝するのが目に見えてるので」

「わかりました。最終問題を正解した人は五億ポイント獲得できます」


「やったね」

 書紀が嬉しそうに指を鳴らす。


「いままで正解して積み上げてきた意味がなくなるっ」

 部長は苦笑いを浮かべつつ、スケッチブックをめくった。

 三人が用意できたことを確認し、進行役が読み上げる。


「最終問題です。高タンパク質の小麦粉を主原料とし、水を加えて練り合わせ、マカロニ類成形機により高圧で押し出し棒状に成形したもの、または成形後に加工したもので太さが1.4ミリメートルの麺はなにか」


 ムズイぞ、と書紀が下唇を噛む。

 また麺かよ、と会計がぼやく。

 悩みながら三人は解答を書き込み、スケッチブックを伏せた。


「スケッチブックをオープン」

 

 出題者の声に合わせて、書紀からスケッチブックを立てていく。


「スパゲッティ」と書紀。

「スパゲッティ」と部長。

「スパゲッティーニ」と会計。


 三人は互いのスケッチブックを見合う。


「スパゲッティしか知らないから」

 ため息を吐きながら、書紀がぼやく。

 それを聞いて、部長はうなずく。

「種類があるのは知ってても、出てこなかった。ところで会計の書いたそれは?」

 

 会計は口元に手を当てて首をひねる。

「スパゲッティよりも細い麺のことをスパゲッティーニっていうのは知ってた。ただ、麺の太さまでは覚えがないので、自信がない」


 三人は進行役の顔を見た。

「正解は?」

 三人は息を呑む。


「フェデリーニです。三人とも不正解です」


 答えを聞いた三人の目が大きく見開いた。

「なんやそれ。聞いたことない」

 書紀は部長を見た。

 部長は顔をしかめ「知らなかった」と漏らした。

 会計に至っては開けた口から言葉も出ない。


「すべて終了いたしました。『そういえば似てるわねクイズ』の勝者は、部長です」


 進行役の言葉に、書紀と会計がパチパチと手を叩く。


「勝つには勝ったけど、勝った気がしないぞ」

 それでも部長は笑顔だった。

「ところでフェデリーニって、どういうパスタですか?」


 進行役の子が説明をしはじめる。

「太さ0.9ミリメートルならカッペリーニ。

 太さ1.4ミリメートルならフェデリーニ。

 冷製パスタに使用されることが多いです。

 太さ1.6ミリメートルならスパゲッティーニ。

 太さ1.7ミリ~1.9ミリメートルがスパゲティ。

 太さ2ミリメートル以上ならスパゲットーニ。

 直径2ミリメートル以上で中心に穴が空いている太麺はブカティーニ。

 平たくて厚さが1ミリメートル、幅が3ミリメートルがリングイネ。

 厚さ1~2ミリメートル、幅が3~4ミリメートルの長方形パスタはトレネッテ。

 幅が7~8ミリメートルの平たいものはタリアテッレ、フェットゥチーネとも言います。

 蕎麦が主体で厚さ1.5ミリメートルで幅10ミリメートルのピッツォッケリ。

 厚さが2ミリメートル、幅が10~30ミリメートルのパッパルデッレというものがあります」


「もう全部パスタでいいじゃん」

 聞き疲れたのか、会計は薄ら笑いをうかべていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

太くて長いそれは snowdrop @kasumin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説